砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

くるり『図鑑』

2020-05-14 10:50:49 | 日本の音楽

なんて表現したらいいんだこの作品。
一言でいえば「心地よい混沌」だろうか。


先だっては折角のGWだったのにどこにも行けなかったし、休みだったぶん給料が減ってお金は無いし。およよん。
こんな状態じゃあいったい何のために生まれて、何をして喜ぶかわからなくなってきます。助けてアンパンマン。いつものアンパンチで例のウイルスを吹っ飛ばして欲しいところだけど、彼の拳はカビとかばい菌とか菌類にしか効かないんだろうか。ウイルスは細菌と違うもんね…。

早くキャンプに行ってたき火を眺めたい。海辺でイソギンチャクやカニを眺めたい。このままだと死んでも死にきれない。イソギンチャクの近くで地縛霊になってしまう。
そんなわけで気持ちが荒み、学生時代によく聴いていた音楽を振り返って聴いてます。RadioheadやNumber Girl、Rage against the machine、そして彼らくるり。今日紹介するのは彼らの2枚目『図鑑』。2000年発売なんでもう20年経つわけです。以前の『The World Is Mine』レビューはこちら。

くるり『The World Is Mine』

この作品、すごいです。
なにがすごいって、よくわかんないのにめちゃくちゃいいんです。
それじゃレビューにならんので、このアルバムが「なぜよくわからないのか」について考えていきましょう。

➀曲中の変化が大きい
1曲目でいきなり前作の「虹」がかかるもトーンダウンし、静かで怪しい雰囲気になったかと思えば2曲目の「マーチ」でワーッとなる。こんな風に曲ごとの変化はもちろん、曲中でも急にテンションの上下がある。こんなに振れ幅が大きいのは本作が随一。むしろ『ワールドイズマイン』や『魂のゆくえ』とかは淡々と、ぼわぼわしているし。

たとえばM12「ロシアのルーレット」やM14「ガロン」。AメロやBメロ、あと途中の展開のメリハリが大きく、気持ちがついていかない。でも作品全体を通して聴くと、電子音やコーラスとかのアレンジ、曲の並びが絶妙で、強い違和感や気持ち悪さを抱くほどではない。いくつかの曲でジム・オルークが参加しているのも大きいのかも。

そしてこんがらがった思考の隙間に挿入される平坦な曲たち。「ピアノガール」「屛風ヶ浦」「宿はなし」。これらが箸休めというか、アイスクリームのウエハース、居酒屋でしたたか飲んだあとに食べるだし巻き卵の存在。それがまたいいんだよね、すごくおいしいウエハースです。

②歌詞の意味があえてナンセンス(不可解)なものが多い
1枚目では昼飯ゆっくり食べようとか、ちょっときみに電話かけてみようかなとか、そういう日常系の内容が多かったのに、本作はどうしたんだろう。イケナイお薬キメちゃったのかしら…と思う歌詞が多くみられる。

たとえばM3「ミレニアム」
今までも これからも
ミレニアム 本当かい
辛いけど 眠るだけ
絵日記の 絵だけ描く 絵だけ描く


そしてM14「ガロン」
真黒な冷たい海で 真黒な石油のような海で
僕らは旅を続けています
真黒な冷たい海で まるで石油のような海で
僕らは眠くなってきました

僕の想いは何処で燃え尽きた 電波は何処で途切れた
風の丘に旗を立てるので精いっぱいさ
眠らないで お願い


正直よくわかんないです。でも➀で述べた変化の大きい作風に不思議とマッチしていて、よくわからないけど苦しんでいるのが伝わってきます。見えない相手と徒手空拳で戦っている、そんな印象すら受ける。そういった心境で岸田が曲を作っていたのかもしれないですね。結構イライラしながら制作してた時期っぽいし。

好きな歌詞も結構あって。高校生の時は「ピアノガール」が本当に好きでした。あと「ロシアのルーレット」の「必要なのは愛だけさ 愛だけさ 笑うなよ 殺すぞ」とビートルズに喧嘩売ってそうな歌詞。ぞくぞくしながら聴いてましたね…フフフ、いてぇ…。


そんなわけでいくつか曲紹介
「ピアノガール」


「宿はなし」



ウィキにも書いてあったけど、この時期かなりメンバーが険悪だったようです。そりゃそうよね、1作目と2作目で雰囲気が全然違うもん。ドラムの森さんは5曲しか叩いてなくて、あとはサポートでCoccoのプロデューサーやってた根岸さんとかが叩いてます。森さんも複雑な心境だっただろうけど、頼まれた側も「えっ、いいけど…いいの?」みたいな気持ちだっただろうな。

そういやSlipknotも2枚目『Iowa』レコーディング時に相当揉めた話をなんかの雑誌で読んだことがありました。メンバー仲が悪くなると名盤が生まれるのでしょうか。それでOasisみたいに解散しちゃったら元も子もないけど。
そう考えるとよく続いたよね。Oasisみたいにメンバーチェンジ多かったけど、完全に崩壊もすることなく。まあ途中からはほとんど岸田と佐藤さんの2人だけど。この頃の岸田って「こんなことは言いたくないのさ!!」といいながら淡々とパワハラしてきそうだもん(※個人の見解です)。


以下唐突な自分語り。
ピアノガールが好きです、たぶんくるりのなかで一番好きな曲。
高校生くらいの頃、非常に理不尽な環境にいる人と遭遇したり、自分が好きだった子がしょうもない男と寝てたのを知ったりしてめちゃくちゃ落ち込んだ私にとって、「ピアノガール」はかなり支えになってくれた曲でした。「お願い 私をだまさないで」という歌詞にうるるんとしていました。今も金が無いし外出できなくて辛いけど、あの頃はあの頃でもっと辛かったよな、なんて考えたり。
ふとそんなことを思い出しながら、この『図鑑』をずっと繰り返し聴いています。すごいぞ、くるり。

けもの『めたもるシティ』

2020-03-06 17:03:44 | 日本の音楽



忙しい時期を乗り切りました。
残るは確定申告と資格試験の申請、後回しにしていた諸々の手続きと、来年度の勉強会の金を払うだけです。唯一楽しみにしていたライブはコロナウイルスのせいで中止となりました、2月はそれを目標に頑張っていたのに。つらい。



そんなわけでブログ更新が滞っていました、みなさまお元気ですか。確定申告していますか。
私はとにかく書類仕事に追われていました、彼らが憎い。そういう業務が嫌で今の業種を選択したところもあるのに、結局どこまで行っても書類がついてくる。やれ成果を数値化しろだの、集計して統計的手法にかけろだの、テンプレ的文章を書かされるだの…影のように書類がいつまでも付きまとってくる。
影の相手をするのは疲れます、できるけど疲れるんです。そして自分のミスを見つけるたびに落ち込みます、直前で文章を数か所消してしまったり、直したと思った誤字が直っていなかったり…向いていないことをやるのって本当にしんどい。アンパンマンに水泳で金メダルを獲らせるようなもの、とても残酷なことです。


そして現実逃避的に聴いていたのがこのアルバム、けもの『めたもるシティ』です。2017年夏にリリース。ちらほらと評判を目にする機会もあったのですが、なんとなく聴いておらず…しかしこれがすごくいい作品だったのです。癖はあるけど気づいたら繰り返し聞いている、そんな中毒性があります。

ジャンルとしてはシティポップの括りになりますが、ジャズっぽい曲もあれば、打ち込みの曲、90年代を思わせるような曲もあり、とにかくバラエティに富んだ作品です。SpangleとかEGO-WRAPPIN’、キリンジが好きな人は是非。菊地成孔氏がプロデュースし、サックスはもちろんヴォーカルでも参加しています。彼の声も味があって好き。
「フィッシュ京子ちゃんのテーマB」とか「伊勢丹中心世界」など、独自の世界観をもつ癖のある曲もありますが、気づいたら繰り返し聞いている。パクチーのたくさん入ったパッタイみたいなアルバムです、好き嫌いがわかれるけどハマる人はどっぷりハマる、そんな作品。


このアルバムは全体を通じてドラムが良いですね。石若駿さんという方が叩いているのですが、なんとKing Gnuの元メンバーだったとか。その後のディスコグラフィを見ると彼はジャズの道を選んだようですけれど、ロックバンドで演奏していただけあってピリッとしたエイトビートからゆるーいグルーヴ重視の演奏まで、引き出しが多い印象を受けます。なんと言ってもシンバルの音がいい、エンジニアさんの力もあるんでしょうが、聞いていて本当に気持ちいいのです。

以下好きな曲
「夜のドライブ、オレンジのライト」
なんとなくキリンジの「ムラサキ☆サンセット」を思い起こさせる曲。あっちはもう少しにぎやかですが、こちらはタイトルが表すように夜っぽい雰囲気が漂っています。男女のすれ違いみたいなものが歌詞のテーマ、「永遠の愛は約束できない でもいつでも君が必要になる」という箇所が好き。



「第六感コンピューター」
イントロの入りからドラムが本当にいい。Suchmosぽいというか、ポップでダンサブルで歌メロも綺麗で、ここでリスナーの気持ちをつかむぞ!という思いが伝わってくる曲。バスドラが1拍と3泊のオモテで踏んでいたのが、途中から1拍のオモテウラと2拍のウラ、3拍のウラになって、ベースと絡んでくる演出が憎らしいですね。菊池成孔氏の、少しオザケンにも似た声も良い。残念ながら動画は見当たらず。


「River」
このアルバムのベースにはシティポップだけど、この曲はジャズ寄り。Voの青羊氏がもともとジャズシンガーなだけあって、こういう曲は率直に「歌がうまいな~」と思います。深みがある。歌詞も素敵。後ろで淡々と流れるようなピアノが、キリンジの「サイレンの歌」を想起させます。ラストに盛り上がるための布石、といった感じ。残念ながら動画はなし、今作で一番好きな曲。


「Someone that loves you」
これはカヴァー曲ですね。イギリスのHonne(ホーン)という方の曲のようです。美しくオリエンタルなメロディを奏でるピアノがオシャレ。後ろにノリのあるドラムがなんとなく、同じイギリスのバンドであるThe 1975の「Sincerity is scary」に似ている。
けもの Someone That Loves You (Live 2018/7/16)



忙しいのが続くと、楽しいことも楽しくなくなります。
本を読む気が起きず、鞄の中に1ヶ月同じ本が入りっぱなしでした。音楽を聴いても愉しめないし、もちろんブログを書く気持ちにもなれませんでした。2月は本当につらかった、しばしば酒に逃避してしまった。
今月はもう少し生活をあらためていこうと思います、目標は毎週のブログ更新!!ウオオ~やるぞ~~俺は仕事をサボるぞジョジョ~~~ッ!!!
あ、でもその前に確定申告しなきゃ、それから資格試験の申し込みと諸々のry

ナンバーガール「逆噴射バンド」ツアー@広島クラブクアトロ

2020-01-07 14:39:14 | 日本の音楽


なんちゅうかこう、モヤモヤしておるので文章をしたためる次第である。
今年一発目、1月3日に行ったナンバーガールのライブレポートである。



オノレは1月3日にナンバーガールのライブを観に行った。冷凍都市広島シティにある、クラブクアトロという800人程度のハコである。かねてより大好きだったナンバーガール。まさか再結成するとは思っていなかったもんだから、そのニュースを聞いた時はとても嬉しかった。再結成後のライブは7箇所申し込んで1箇所だけ当たった、それが広島シティであった。

当日、俺は興奮していた。ライブを前にして脈拍が加速し、心拍数は上昇。ハラハラしておった自分はそわそわとパルコ内をうろつき、嶋村楽器に寄ってピックを買うなどした。思っていたのと違うピックを買ったことにあとから気づき、もう一度買った。同じ店員さんだったので極めて恥ずかしかった。

物販で爆買い中国人と化し、1万5千円分グッズを買った。グッズをコインロッカーに預け、列に並び長いこと待った。開場時間になり少しずつ人が入っていく。夢じゃないよな、これは夢じゃない、と自分に言い聞かせる。他の客らもテンションがバリ高まっているのがわかる、皆殺気立っておる。
いよいよ自分の番になり、入場する。思ったよりもずっと小さいハコであった。後ろで観る人が多かったのか、整理番号が600番台であったにもかかわらず前から4列目で観ることができた。幸運だった。それから2時間、ライブが行われた。熱狂、歓声、騒音。あっという間だった。

しかしライブ後、どこか醒めた気持ちになった自分がそこにいた。なんとなく虚しい気持ちを抱えたまま冷凍都市を彷徨い、宿に戻って酒を飲んだ。したたかに飲んだ。大好きなナンバーガールを間近で観られたというのに、虚しい。何故だ?腑に落ちない、という気持ちがずっとオノレの中にある。


正直に言おう。「殺伐としていなかった」のである。
まず向井の喉の調子がよくなかった。CDJなどのライブがあったからか、はたまた酒の飲み過ぎか、喉を痛めているようであった。序盤は「はじめてのチュウ」を彷彿とさせる上ずった声で、聞いていて心配になった、辛そうだった。彼は繰り返しレモンサワーと思しき物体を飲んでいた。後半になって持ち直してきたものの、やはりシャウトの部分が苦しそうであった、絞り出すように叫んでいた。
それから。とても寂しいことだが、アヒトのドラムが喧しくなかった。風のうわさで彼がトラックの運転手をしていると聞いたことがあるが、他でやっているバンドのVola & The Oriental MachineでもGt/Voだし、ドラムを叩くのにブランクがあったせいだろうか(ライブ中、アヒトが構成を間違えることもあった)。

「ZEGEN VS UNDERCOVER」はそこまでバリヤバくなかったし、「Young Girl 17 Sexually Knowing」はテンポが遅かった。もともとそんなに速い曲ではないが、拍子抜けするくらいゆっくりだった。「Omoide In My Head」には人を殺せそうな勢いがなかった。SapporoのライブCDを狂ったように何度も聴き(それこそ高校生の時は目覚ましのアラームに設定していた)、オノレが大学を卒業するとき、サークルのライブで最後に演奏したあの曲。あの思い出。
悲しいかな17年の歳月は、以前のような勢いを彼らから奪ってしまっているようだった。長い沈黙の期間に、自分が彼らを理想化しすぎていたのかもしれない。17年。それはとても長い月日であった。自分も年を取り、彼らも年齢を重ねた。45歳のおっさんが「制服の少女よ」と歌っているのは確かに哀しいのかもしれない。しかしそれでも、俺は彼らに期待をしていたのだ、自分が思っていたよりもずっとずっと期待していたのだった。


良かった点もたくさんある。中尾憲太郎45歳のベースはすごかった。生で聴くと痺れた。あれだけのフレーズをダウンピッキングで弾きながらも、頭を振ったり動いたりとパフォーマンスも格好よかった。途中で何度かにっと笑う彼は不敵であり、頼もしかった。最高だった。いささか省略というか、楽をしているところもあったけれど(例えば「Omoide In My Head」、Aメロは8分でタイトに刻むのではなく、タータタタータタというリズムになっていた)、ベースの腕前は流石だった。前で観られて本当に良かった。
田渕ひさ子のギターも圧巻だった。特に「Num-Ami-Dabutz」「U-REI」や「転校生」。野太いながらも抜けの良い中音域をかき鳴らしておった。どうやったらあんなにきれいな音を出せるのだろう。素晴らしいの一言に尽きる。

初期の曲をたくさん聞けたのも嬉しかった。わがままを言えば「Trampoline Girl」や「性的少女」もやって欲しいところだったが、「裸足の季節」や「転校生」「桜のダンス」「Eight Beater」を聞けたのが良かった。特に「Eight Beater」の低音に、身も心も痺れた。


これで失望して終わり、というのではない。
俺はまだ彼らを諦めない。
またライブを観に行く、必ず行く。
俺は俺を取り戻すのをじっと待っている。



セットリスト(酒を飲みすぎて記憶が曖昧なので「日刊セトリ」より引用したもの。間違っていたら申し訳ない)
鉄風鋭くなって
タッチ
ZEGEN VS UNDERCOVER
Eight Beater
IGGY POP FUNCLUB
裸足の季節
透明少女
夕焼け小焼け
Young Girl 17 Sexually Knowing
Num-Ami-Dabutz
Sentimental Girl’s Violent Joke
DESTRUCTION BABY
MANGA-SICK
Sasu-You
喂?
U-REI
TATOOあり
水色革命
日常に生きる少女
転校生
Omoide In My Head
I don’t know

アンコール
桜のダンス
KU~KI
透明少女

丸の内サディスティックのコード進行を愛でる話

2020-01-01 05:47:07 | 日本の音楽


あけましておめでとうございます。新年早々ブログを更新します。は?こちとら暇なんだよ!!(謎ギレ)
そんなわけで今日はコード進行の話。「難しい話とか好きじゃない~まぢ無理~」「そういう話する人って友達いなさそう、生きる価値あるのかな…」って思った方はとりあえずリンクしてる曲だけでも聞いてくれ、そして地獄に落ちろ。



最初に少し理論的な話を(苦手な人は飛ばしてOKです)。
音楽をやっていると大半の人はコード(和声)に出会います。ギターや金管、弦楽器でもコードの重要性は変わりませんが、単音よりも一度にたくさん音を鳴らす楽器(ギター、ピアノなど)は特に意識する頻度が高いでしょう。コードというのが「音の組み合わせ」だからです。

例えば。
ドとミとソを一緒に弾くと気持ちよく聞こえる。これが「コード(和音)」です。逆にドとレとソ♯を一緒に弾くと気持ち悪く聞こえます。これは「不協和音」と呼ばれます。コードにはたくさん種類があって、やれ完全和音だのディミニッシュだのナインスだの、初心者の頃は覚えるのに苦労するものです。


大半の曲はコードの組み合わせによって成立しています。
例えばNirvanaの「Smells Like Teen Spirit」という世界的に大ヒットした曲。この曲はたった4つのコードで出来ています(Fm、B♭、A♭、D♭のみ。なんて省エネなんだ!!のどぐろセクシー担当大臣よりよっぽど省エネ)。

Nirvana - Smells Like Teen Spirit


ポップソングでは基本的にコード進行が難しくありません、スピッツとか初期くるりとか、比較的簡単なコードで構成されています。もちろん例外もあって、日本だとキリンジや山下達郎、aikoやスガシカオが変なコードを使っています、とても奇妙です。お前らいい加減にしろよ、弾けないんだよ。


しかしながら。
基本的に音階には―例外もありますが―ドレミファソラシドの7音と、黒鍵5つを足して12音しかありません。そうなると、必然的に似たような、あるいは同じ組み合わせが出てくるのです。


さてようやく本題に入れそう。
今日言いたかったのは、コードが同じような組み合わせの曲のなかで、ご存じ椎名林檎の初期ヒット曲「丸の内サディスティック」と同じ進行の曲を列挙して愛でる、というものです。この進行は王道中の王道というか、それぐらい目立つというか、焼肉で例えるなら上ハラミくらいのインパクトがあります。

丸の内サディスティックは、ネットで調べたところキーがE♭…のはずなのですが、コード進行的にはCmです、歌メロはE♭なんだけど。Aメロやサビ(将来僧になって結婚してほしい部分)が以下の進行になっています。とりあえず曲も貼っておこう、ワウのかかった長岡さんのギターが好きなんで事変verです。

A♭maj7→G7→Cm7→E♭7

丸の内サディスティック/東京事変


キーをCmとして考えると、基本的にVI→V→I→IIIという進行になっています。このコード進行はセンチメンタルな雰囲気を醸し出しながらも、メロディアスかつオシャレに聞こえる、ヒットソングに持ってこいの進行です。とにかく耳に残りやすい。
ちなみに椎名林檎の「長く短い祭り」のサビも

B♭maj7→A7→Dm7→F

とほとんど同じ進行ですね。ある意味セルフパロディみたいな感じ。途中で事変の「能動的三分間」の歌も聞こえてくるし。

椎名林檎 - 長く短い祭



他に似たような進行をしているのはPolarisの「深呼吸」のサビ
G♭maj7→F7→B♭7→A♭7
キーがB♭でVI→V→I→VIIの組み合わせ。曲のオシャレに対する謎のPV、果たしてこれはオシャレなんだろうか…。

Polaris - 深呼吸


続いて青葉市子の「いきのこり●ぼくら」のAメロ部分
A♭6→G7→Cm7→F7
キーはCm、VI→V→I→IVの組み合わせ。少し変化がありますが、似たようにも聞こえる。この曲もいいですよね、青葉さんの作品だとこのアルバムが一番好きだな。

青葉市子 - いきのこり●ぼくら


eastern youthの「夏の日の午後」の冒頭
Am→G♯7→C♯m7
キーはC#m(たぶん)、VI→V→Iの進行で、他と比べてシンプル。この曲超かっこいいんだよな、好き。ベースも躍動感あふれて難しすぎる。

eastern youth - 夏の日の午後 (HQ)


くるり「琥珀色の街、上海蟹の朝」
B♭→A7→Dm7→G7
このような進行が何度も出てきます。キーはDm(おそらく)、VI→V→I→IVですね。このDm7が時にA♭6になることで、べたっとした感じを回避しています、テクニカルやで。大好きな曲。

くるり - 琥珀色の街、上海蟹の朝



洋楽編
Arctic Monkeysの「When the Sun Goes Down」のメロの部分
G→F♯m→Bm
キーはBm(きっと)、VI→V→Iの進行ですね。Eastern youthと同じですな。確かこの曲で人気が出たように記憶しています、違ってたらすみません。

Arctic Monkeys - When The Sun Goes Down (Official Video)


Thunder「River Of Pain」
今回この記事を書くために久しぶりに聴きました、超懐かしい。曲はいいのにPVが謎、本当に謎。当時はおしゃれに見えたのかもしれないけど。ギター壊れないか心配になるし、ドラムセット持ってる人たち大変だったろうな…と人にやさしい気持ちになれます。

F→Em→Am→G
ほとんどこの進行のみの曲、ハードロックだもんね。キーはAmでVI→V→I→VII。

Thunder River Of Pain


【2020年3月29日追記】
まだありました。
Scoobie Do「夕焼けのメロディー」

AMaj7→G♯m7→C♯m7→F♯m7→Em

ギターはもっといろいろやってますが、基本的なコードはこんな感じかな。この曲も好きです。

Brand New Heavies 「You Are The Universe」のサビ

B♭Maj7→Am7→Dm7→F7

この曲も好きでござる。Incognitoと並ぶ、イギリスのAcid Jazzブームの立役者ですね。途中のベースソロが格好いい。

洋楽には少ないのか、ライブラリを探してみたんですがぱっと思い当たる曲がほかになく。日本ほどコード進行を意識しないからなのか、ベタ故に避けられているのか。あるいはこの進行がセンチメンタルな感じを引き起こすので、そういった曲を向こうではあまり作らないのかもしれません。探したらもっとありそうだけど…ブラジルとか南米あたりでは使われてそう。


いかがでしたか。私は音楽のライブラリとインターネット上のコード進行表を行ったり来たりして疲れました。コードを意識するのは楽しいし、ただ聞くだけとは違った楽しみ方があります。
でも負の部分もあって。一度気づいてしまうと「あ、丸の内サディスティックと似た進行だ」と思ってしまい、その曲を純粋な気持ちで聴くことが難しくなります。焼肉で例えるなら、タレと塩で味をわけたとしても、ずっと上ハラミ食べてたら飽きますよね、たまにはタンとかホルモン、ロースも食べたいですよね。そういうことです(Q.E.D)


新年早々頭を使ってしまった。事変も活動再開するみたいだし、そろそろライブ行くか~。皆様どうぞ今年もよろしくお願いします。あ、さっき地獄に落ちた人はそろそろ戻ってきていいですよ。

以前の事変のレビュー
『大人』

KIRINJI「cherish」

2019-12-02 00:37:46 | 日本の音楽


12月になっちまいましたね。今年も残すところあとわずか。
自分にとってはそれなりに変化に満ちた1年でした。うまく言葉に表せないけど、手応えのようなものがあったというか。いい本にも、いい音楽にも出会えました。なにより自分を振り返る機会がたくさんありました。
この記事をお読みのみなさんはいかがでしたか。私としては、当ブログがみなさんにとっていい本、音楽と出会う手助けになればと切に願っています。



さて今日はKIRINJIの最新作「cherish」。この単語は「大事にする」とか「かわいがる」という意味です。タイトルはM2の歌詞から取ったと高樹氏がインタビューで答えていましたね。前作「愛をあるだけ、すべて」もそうでした。
キリンジ時代も含めて、意外にもアルバムのタイトルが小文字なのは初めて。”I want to cherish my tune”と歌詞の途中から取ったと言えばそうなのかもしれません。でもなにか、小文字にすることでささやかに大事にする意味が含まれているようにも思います。大文字にすると微妙にニュアンスが違ってくる気がする。

自分がアルバムを通して聴いた第一印象は「すんなり」「あっという間」。しかし内容が薄いわけではなく。他のアーティストともフィーチャリングしていて、M2で韓国語も聞こえればM4でHip-Hopがあり。「雑務」や「Pizza VS Hamburger」などクセのある曲(でもすごく好き)、「善人の反省」みたいなドキッとする歌詞の曲もあります。こう考えるとばらばらに聞こえてもおかしくないのに、実によくならされている感覚があります。まるでモンゴルのだだっ広い草原みたいに。曲間に起伏はあるものの、とても自然なのですね。今作の作詞作曲がほぼすべて高樹氏だからかもしれません。

高樹氏がインタビューで触れていましたが、今作では楽器隊のバランスよりも曲の完成度を取ったとのこと。前作でもドラムはほとんど打ち込みでしたが、より徹底されています。弓木さんのギターも、曲単位で登場しないことがあるし、存在がささやか。それに代わるようにDODECAGONの頃のようなエレクトロな音や鍵盤がーささやかでありながらも-ふんだんに盛り込まれている。
かといってバンドサウンドが損なわれているかというと、そういう印象も受けません。実に不思議。キリンジ時代でもドラムが生っぽいと思ってたら打ち込みだったこともあるし、生音と打ち込みの匙加減が本当にうまいのでしょう。絶妙なバランスでモンゴルの草原が成り立っているのです。


歌詞にも少し触れてみましょう。
1曲目の「「あの娘は誰?」とか言わせたい」は世代間の差、立場の差を描き出していると思います。「地上の星」の皆さんと敢えてカッコつきで書いているのは、中島みゆきの「地上の星」で歌われていた団塊の世代の人たちのことでしょう、某TV番組の主題歌でした。「呪いの言葉も聞こえない」と歌っているのは、法政大学の上西先生が政治批判をするなかで「呪いの言葉」というアイデアを提唱したことに影響を受けているのかもしれません。この歌詞の中には、インスタを気にする若い女性や凋落した富裕層、団塊の世代、ネカフェ難民と様々な背景をもった人が登場します。「クールじゃない」「美しい国はディストピアさ」と珍しく政治批判的な箇所もある。
この曲を聴くとと彼らの5枚目「For Beautiful Human Life」の1曲目「奴のシャツ」を連想します。あの曲よりも俯瞰的な視点に立っているけれど。「奴のシャツ」はただニートがくすぶっている不幸な話でしたが、この曲では本当にいろんな視点が語られている。様々な幸福や不幸の(どちらかと言えば不幸の)あり方が描かれている。

飛んでM8、「休日の過ごし方」がこのアルバムのハイライトになるでしょう。とにかくいい曲。千ヶ崎さんのベースがいい味を出している。

Life is too short
なぜ、持て余す?
Life is beautiful
そうさ、その通りさ


ここでも、この”Life is beautiful”という歌詞で彼らの5枚目「For Beautiful Human Life」を連想してしまう。しかしあの作品で描かれていた人物は、それなりにやることを持っていたと思います。上述した「奴のシャツ」はニートですが姪の歯医者に付き合うし、「ハピネス」では退屈に感じつつも舞台を見に行くなどして、一応「やることがある」。そしてそれに伴う不幸が歌われている。しかしこの曲では「やることがない」「何をしたらいいかわからない」不幸が歌われています。

誰かに会いたい 誰かは知らない
何処かに行きたい 何処へも行かない


さりげなく歌われていますが、こういった歌詞にぞくっとします。最高。KIRINJI好きでよかった。


今作の歌詞を聴きながら考えるのは「欲望の主体」について。
難しく聞こえるかもしれませんが、要するに「誰が」「何を」欲しているのかということです。自分が何をしたいか、彼が、彼女が、人が何を欲しているのか。それを考える行為。

前作ではあれもしたい、これもしたいのに「時間がない」という歌があったけれど、今作は「そもそもなぜそれを欲望したのだろう」という疑問が1つのテーマになっているように思います。インスタ映えするか気にして、せっかく時間があっても持て余して、結局何処にも行かなくて。自分が本当は何をしたいのかわからない。自分自身が「欲望の主体」として成立していない、そういった状態を切り取って描写しているのではないか。

欲望を素直に歌っているのは「Pizza VS Hamburger」で食いたいだけ食おう、「隣で寝てる人」で寝たいときに寝ようと歌われている箇所。そこで出てくる欲望は「食事」と「睡眠」です。ものすごく原初的で、乳幼児的な願望が語られるだけにとどまっています。
ここで先ほど触れた、今作で「いろんな人が描かれている」という箇所に立ち戻ってきます。立場が違えば、欲望することも異なります。現代社会では多様化が進みすぎて、みんなに共通する欲望と言えば「食欲」や「睡眠欲」。いわゆるマズローの欲求階層ではほとんど一番下の部分です。そういった話しか語りづらい時代なのではないか。昨今メシが美味い系の漫画が席巻していますが、そのあたりも関係あるのかな、なんて思ったり。


閑話休題。
率直に言って、前作から1年半というスパンがすごいと思います。こんなにクオリティの高い作品を1年半で出す、恐ろしい子…!!(ピシャー)
インタビューでは「現代社会の雰囲気からズレないように出した」と語っていました。確かにそうなのでしょう。現代社会は移り変わりのスピードが速い、とても速いのです。10年前に流行っていたものはもうとっくに時代遅れ。1年後、2年後に何が話題になるか見当もつきません。
そういったものをどこまで高樹氏が意識して、計算して作っているのかはわかりませんが、社会の欲望をうまくキャッチして作った作品なのでは、と思います。

そう考えると1年後、2年後に自分が何しているかわからないものです。昔のような終身雇用制度は失われ、電車の広告ではむやみに転職を勧めてくるし。離婚も増え、人々は腰を落ち着けていられなくなりました。私たちは幸せになっているのだろうか。いや、いかなるありようになれば幸せになれるのだろうか。そんなことを考えさせられる1枚でした。しかしながら、少なくともこのアルバムを聴いているあいだは幸せな気分になれるのです。


過去のキリンジ作品のレビューはこちら。
「ペイパー・ドライヴァーズ・ミュージック」
「メスとコスメ」
「For Beautiful Human Life」
「愛をあるだけ、すべて」