砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

小沢健二「LIFE」

2017-10-13 12:18:42 | 日本の音楽


この頃近所の公園をジョギングしています。夜に1時間程度、週1~2くらい。この公園は駅から近いわりに大きくて、近所に飲み屋なんかもあるもんだから、夜でも学生や若者がそれなりにいます。走っていて思うのが、まあカップルの多いことよ。
別に嫉妬とかしているわけじゃないですし、彼らの実情は当人にしかわからないと思うんですけど、夜の公園を、手をつなぎながら静かに歩いているカップルってどこか輝いていますよね。幸せオーラを周囲に散布しているというか、ある種の「無敵感」が漂っている気がします。「私たち、幸せでーっす!!あ、そこのあなた、どうですかー!?」みたいな。考えすぎかな。…いや別にうらやましくなんかないですからね?なんだよそんな目で見るなよ。


さて前回の『Japanese Couple』に引き続き、恋愛のことを歌った作品として小沢健二の『LIFE』を。はじめ方がいつになく強引な気もしますが、強引さから始まる恋愛もあるということで、ここはひとつ。

このアルバムについて簡単に。シンプルなサウンド、祈りにも似た美しい歌詞が魅力的な1作目『犬は吠えるがキャラバンは進む』から約1年ぶり、1994年にリリースされました。たぶん彼の中では一番ヒットしたアルバム。スカパラによるホーンセクション、服部さんによるストリングスのアレンジなど、1作目とはずいぶん雰囲気違うというか、きらきらした曲が多く感じます。しっとりしているのはM4「銀杏並木のセレナーデ」と、オザケンのなかでも声に出して読みたくないタイトル第1位のM8「おやすみなさい、仔猫ちゃん!」くらいかな。なんだよ、仔猫ちゃん!って。

曲の元ネタや歌詞の解釈、あるいは韻の踏み方など、本作を理解する方法がいくつかありますが、そういうのはもう他のところでたくさん書かれているし、ここは「恋愛」を主眼に置いた視点からこの作品を理解しようと試みたいかと。なんでかって?たまたまそういうテンションだったんだよ、なんだよそんな目で見るなよ!!

彼が恋愛のことを歌にするのはFlipper’s時代にもありましたが、「恋とマシンガン」や「ワイルドサマー」など、2ndアルバムでちょっと触れられているくらいだったかな(3枚目は虚無で満ちていたので恋愛どころではない感じがあります)。でもあの頃の歌詞は思春期の男の子のロマン、と言えば聞こえはいいかもしれないけど、なんだか空想的というか、昔の映画を見ているような気持ちになったものです。現実的な世界の、身近な人物との恋愛といった感じはしませんでした。
しかし本作は違うのです。

―寒い冬にダッフルコート着てきみと 原宿あたり風を切って歩いてる
M4「ドアをノックするのは誰だ?」

―ほんのちょっと誰かに会いたくなったのさ 
 そんな言い訳を用意して きみの住む部屋へと急ぐ

M1「愛し愛されて生きるのさ」

など、あたかもありふれた日常を切り取ったような歌詞が頻出します。
そうかと思えば

―遠くから届く宇宙の光 街中で続いていく暮らし
―美しい星に訪れた 夕暮れ時の瞬間
                 
M7「僕らが旅に出る理由」

こんな風に視点というか、スケールの大きな歌詞も出てきます。以前『犬』について書いたときにも言及しましたが、この頃の彼のすごいところは「対象との視点の距離感」だと思います。ごく身近なこと、共感しやすいことを歌ったかと思えば、「神様」や「宇宙」と話が一気に大きくなる。でもそれが決して突飛な比喩や対比として出てくるのではなくて、そういった「人間の限界を超えたもの、手の届かないもの」があるとしても、結局は日常と地続きになっているのだな、と感じさせるところです。のちに出すシングル曲「さよならなんて云えないよ(美しさ)」でも、こんなフレーズがあります。

―左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる
 僕は思う この瞬間は続くと いつまでも


この瞬間と永遠を、身近なものと絶対的なものを同時に歌っているあたりが、実に彼らしい(個人的には彼の中で1、2位を争うくらい好きな曲です)。こういった対比が彼の歌詞には非常に多い。また、今作では恋愛がテーマになっていますが、恋愛と言ったらほとんどが10代や20代のような、人生のある期間に生じるごく短い体験です。しかしそういった経験がその後の私たちの人生を決定づけるというか、誰かと恋愛をして、結婚して、子どもができて…そういったことが積み重なって、このアルバムのタイトルでもある生命『LIFE』が続いていく。恋愛という誰かに対する思いが、その後の生命の営みを結果として存続させていく。そんな風にも理解できるんじゃないかな、と思うのです。あれ、なんだか結局歌詞の解釈になってしまった。

この後もシングルで恋愛のことを歌った曲をいくつかリリースしていますが、次のアルバム『球体の奏でる音楽』では、恋愛のことはほとんど歌われていません。音楽性もアルバムごとに変化する人だし、あれこれ興味が移り変わりやすい人なのでしょう。でも彼の根底にあるのは、やはり自分を含めた「身近なもの」と、「私たちの力の及ばない、大きなもの」との対比というか、対話のようなものではないのかな。

あ、一応曲紹介ということでM2「ラブリー」を。決して派手ではないんだけど、そして7分もあるんだけど、聴いていて飽きがこない納豆ご飯のような曲です。いろんな人にカバーされていますね。PVはラブリーというよりもバブリーな感じがしますが。「いつか悲しみで胸がいっぱいでもー」と、修行先のお寺で早朝の雑巾がけをしながら、よく口ずさんだものです。

小沢健二 - ラブリー



このアルバムは秋になると聴きたくなります。音はいくぶん古さを感じるし、歌詞はところどころクサいし(「空に散らばったダイアモンド」とか)、聴いていて妙にくすぐったい気持ちになるのですが、そういったこともあって私は『球体の奏でる音楽』の方が好きです。でも思春期や青年期のはじめに書いた作文を読み返しているような、ちょっと照れ臭いけどあの頃の熱い気持ちを思い出す、そんな作品なんじゃないかと思っています。

□□□「Japanese Couple」

2017-10-03 17:34:27 | 日本の音楽

仕事がハチャメチャ忙しいのですが(白目)

今までずっとブログの合間に仕事をしていました。しかしなんやかんやあって急に忙しくなり、今後はとうぶん仕事の合間を縫ってブログを書くことになります、辛い。お前なに言ってんだよ、仕事しろよ!っていうバイオレンスな声がどこからか聞こえてきそうです。いやいや、ブログ書かないとやってられないんだってば。そのくらい辛いんだってば。
え?仕事を何だと思っている?甘えるなって?じゃあ聞きます、あなたはせっかくこの世に生まれてきて、仕事するために毎日生きてるの?…ダメウーマン!私たちはね、仕事するために生きてるんじゃない、生きるために仕事してるの!大事なのは今この瞬間をどう生きるかなの、だから、だから私はブログを書くの…!(屁理屈)


若干ネタの旬が過ぎてる気もする。
今日ピックアップするのは、前にもこのブログで紹介した□□□(くちろろ)です。最新のフルアルバム『Japanese Couple』、最新と言ってもリリースされたのは2013年のことで、それ以後彼らはthe band apartとコラボしたシングルだったりEPだったりをリリースしているわけですが、精力的に活動していたのはこの時期までなのかなって感じがします(この後レコード会社を移籍したので、締め切りに追われていたっていうのもあるかもしれません笑)。そろそろ彼らのフルアルバムを聴きたいなあ。

タイトルの『Japanese Couple』が表す通り、本作は一種のコンセプトアルバムというか、全編恋愛をテーマにした曲になっています。でもなんか、恋が叶ったヤッホー的なノリでも、俺がお前をずっと守るぜウェーイ的なノリでもなくて、二人はもうずっと恋人で、一緒にいるのが当たり前で、時が経って、やがて夫婦になって…というような日常が融けだすような詞。特別なことを歌っているのではなく、ごく当たり前の日々に遍在している、人と人とが恋愛で結ばれている、そんな要素を抽出したような歌詞です。そういったところがとても素敵だな、と。思えば前作の『Everyday is a symphony』もある意味似たような内容でした。毎日が音楽で、日常に溢れるメロディや、織りなされるシンフォニー。サンプリングの嵐で聴きなれるまで大変だったけど。

彼らの音楽を聴くたびに思うのは、大半の作詞作曲を行う三浦康嗣氏の視点がユニークだな、ということ。「重箱の隅をつつくような」といえば聞こえは悪いかもしれないけれど、他の人が気にも留めないようなことを拾ってきて、丁寧に曲や言葉にしている、そしてそれを聴いていると、自分がとりとめもなく過ごしている慌ただしい日々が、なんだか捨てたもんじゃないなって思えてくるのです。壮大ではないけれど、そういう音楽もいいじゃないの。

さて仕事が忙しいのでぱぱっと曲紹介。
M1「ゆっくりと」映画の最後に流れるような、ミドルテンポでポップな曲。彼らにしてはコード進行が素直な気がする、サビとか特に。でも落ち着く曲。何もなかったように、と歌詞にあるけど別れの歌なんだろうか。それとも何もなかったと思えるくらいに、二人が自然な関係ということなんだろうか。

□□□(クチロロ) - ゆっくりと


M3「デート」
ここからサンプリングなどが多用され、「ああ、これこれ、これが□□□だよな~」って感じがあります。村田シゲ氏のベースラインがむちゃくちゃ良い、特に5分くらいと6分20秒くらい。後ろで鳴っているピアノはスティーブ・ライヒの音楽のようにずうっと同じフレーズを弾いているのですが、ベースラインでコードの変化を表してくるあたりが憎い。実にいい曲だなって思います。残念ながら動画はないのですが、気になった方はぜひ聴いてみてください。秋の公園を散歩しながら聴きたい。

M9「ふたりは恋人」
どことなく切ない演奏をバックに、「ふつうの恋人」を歌ったような曲。「ふっふっふっふ」というコーラスが面白い、たぶん「夫婦」にかけているのでしょう。ふたりの時間の流れを表しているのだと思うけど「バースデイケーキを吹き消すように 死に近づいてく 二人を祝福してる」という歌詞にドキリとする。そしてこのPVはなんなんだ、一体(笑)。制作された方の思いもあるのでしょうが、若干インパクトが強すぎるので曲に集中できなくなります。まずは目をつぶって曲だけ聴いてください、お願いだから。

□□□(クチロロ) 「ふたりは恋人」MUSIC VIDEO


ユーミンのようなポップソングあり(M4の「ダンドゥビ」というスキャットとか)、いとうせいこうの歌うヒップホップあり、エレクトロニカあり、ダンスミュージックあり。そして切ない歌詞だけでなく、「きみのbast waist best erect so let's insert」という下ネタ(?)あり、元カノの話など、三浦氏の引き出し多さにも感服します。恋愛って色んな捉え方が出来るんだよな、と改めて思う。彼らの目指すポップさ、耳への心地よさは損なわれずに、いろんなことに挑戦していこうとする姿勢が自分は本当に好きだし、アーティストとして尊敬します。似たり寄ったりというか、焼きまわしをしているような人たちも残念ながらいるので。あんまり知らないですが。


といったところでそろそろ仕事に戻らなくては。しばらくこんな調子か~仕事が暇過ぎるよりマシですが、ブログを書いたり音楽をじっくり聴いたりできないのは悲しいですね。なるたけ更新頻度は落としたくないけど、クビにならない程度に頑張ります。えっ?あなたは仕事するために生きてるのかって?やかましいわ!!