砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

Tool「10,000days」

2018-04-20 22:31:19 | アメリカの音楽


ここ数日気圧の変化が激しいですね。気圧が低くなるとなんだか気が滅入ってしまいます、曇りが続くのもあるんでしょうし、雨が降りそうなのも嫌です。いや、雨が降ること自体はいいんだけど雨のなか仕事に行くのが本当に嫌です。
人生辛いことばかりですね、ブッダは正しい。



人生が辛いので今日はToolの4thアルバム、『10,000days』を取り上げます。
彼らは今年の3月頃からレコーディングをスタートしたとのこと、吉報。まさに僥倖。人生いいこともあるものだ。もともとアルバム1つ出すのに5~6年くらいかける彼らですが、前作を出したのが2006年5月になるので、実に12年ぶりのアルバムとなるわけです、とても長かった…。まあでもその間もライブはしていたし、ヴォーカルのメイナードはサイドプロジェクトのA Perfect Circleで活動、ドラムのダニー・ケアリーはマストドンのギターともバンドを組んでいて、色々と動きはあったのですが、さすがにそろそろ新譜出してもいいんじゃない?と思いはじめて数年が経ちました、いやはや長かった。

なぜこれだけのスパンが空いたのか?確か前作はレコード会社との訴訟問題があり、それでかなりメンバーも疲弊したようです。しかし今回の空白の期間がなぜだったのか、その辺の事情はきちんとチェックしていないのでよくわかりません。なんかもうバガボンドの連載再開を望む気持ちにも似てきていました。続きが気になるけど、もういいよ、無理すんな…そう言いたい気持ちというか。冨樫は仕事しろ。


本作について。
以前こちらで取り上げた『Lateralus』に比べてみて、どうでしょう。全体的に地味な気がします。アグレッシブな曲が少ない気がする、というよりもインタールード的楽曲の持つ比率が大きい気がする。でも、秘められている毒みたいな部分は非常に濃密です。特に「The Pot」とか、曲はかっこいいのに歌詞が振りきれている「Rosetta Stoned」とか。そうかと思えば「Jambi」や「Right in Two」のようなシリアスな曲もあるのが彼らの魅力です、ヤンキーが雨に打たれる猫を助けているようでもあります。

捉えがたい、難解なアルバムだと思います。でもその一方ですごくメロディアスというか、美しいフレーズがあって(「Vicarious」のサビのギターとか、「The Pot」の4:10以降とか)、そういったところも彼らの魅力です、ヤンキーがマフィアにMP5で撃たれる猫をかばっているようでもあります。

好きな曲紹介
M1「Vicarious」



相変わらず謎のPV。Aメロの随所で聞こえてくる絡むようなギターが好き。それから最後のサビのドラム、テンションあがる。何気にソロはベースなんですよね、めいっぱいドライブかけてるのかな。

お前も偽善者なんだろ?他人のカワイソウなニュース聞いて悲しんでるフリしてるけど、内心ちょっと楽しいんだろ、興奮してんだろ?それとも落ち着くのかい?じゃなければ、なんでそんなニュースを見ているんだ?いい加減自分のクソみたいな偽善者ぶりを認めたらどうだ、ファ〇ックユー、という内容の歌詞。

今更ですけど人間って根本的に偽善者ですよね、私も最近ようやく性善説では生きていけないことに気づきました。もちろん偽善にもいい面はあるけれど、自らが偽善者であることを自覚していないまま、「自分がやっていることが誰かのためになっている」と妄信して、無意識のうちに「自分が役に立っている」「自分が必要とされている」という自己満足の甘い蜜をすすっている人もいる。そういった無意識の偽善というのは、傍から見ていて本当に醜悪なものです。とはいえ偽善的行為が人の役に立つこともあるわけで全部やめろとは一概に言えないものなんだけれど。でもそういった人の善意が時に誰かを傷つけることもあったり、善意の出どころが相手を思ってというよりも、自分の内なる欲望である場合、そういったことに無自覚なのは恐ろしいことです。自分がそうなっていない保証は全くないわけで。
精神分析の祖、フロイトは言いました。「患者の役に立ちたいと思うほど、私はサディストではない」と。そうなんだよなぁと、今なら思うよ。人の役に立つためにひょこひょこ動くより、まず自分の足で地面にしっかり立てって話だよね。お前はお前の人生を生きているのか、と。おっとだいぶ話が逸れてしまった。

M5「The Pot」



地味に難しいベースのイントロが素敵。さっきも書いたけど4:10のあたりが本当に好きなんだぜ。でも歌詞は出だしから

Who are you to wave your finger? You must have been out your head.
お前は誰を指差してるんだ?頭イカれてんだろ


とかなり攻撃的です。

Liar, lawyer, mirror, show me. What’s the difference?
嘘つき、弁護士、鏡よ教えて。何が違うの?


こんな風に皮肉に満ちた韻を踏んだり、スラングを多用したり(タイトルのPotはマリファナの隠語のようです)、言葉遊びもたくさんあります。なんて素敵なバンドなんだ…(白眼)
それから4:35のあたりのベースが本当に好き、ベースは打楽器。

M9「Right in Two」



Toolで一番好きな曲。なんなら私の携帯のメールアドレスにがこの曲をもじった並びが入っています、そんなことはどうでもいいんだけど。この前の曲「Intension」からこの曲に自然に繋がっていくのが心地よいです。ベースの果たす役割が大きいですね、あと間奏からのドラムと、そこに乗っかっていくギターが本当に格好いい、痺れます。

「Right in Two」というタイトルは「真っ二つ」という意味ですね。戦争というか、人と人との争いがテーマになっている曲です。人と人は争う、何年も何十年も、いや何万年も前から続いている営みです。私たちの日常のようにも、些細なことから大きなことまで、様々な争いに満ちている。

イギリスの精神分析家、ウィルフレッド・ビオンは言いました。人は集団になった時、共同関係を結ぶか、争うか、逃げるか、そういった関係が生じてくると。今の世の中はどうなんでしょう。仮想敵を作って無理に団結しているようにも思うし、別に大して価値観を共有しているわけでもないのに博愛主義というか、妙に仲良しごっこをしている気もする。人間ってそんな簡単に分かり合えねぇだろっていう。個人の持つ重さって、そんなもんじゃないだろっていう。

とはいえ私たちは分かり合える時が来るんだろうか、そんなのはお花畑の話、机上の空論なのではないか、と絶望してしまう時もありますよね。えっ?ないんですか?それはちょっと人生見直した方がいいんじゃないですか?余計なお世話か、そうやって平和に生きている人はぜひそのままKeep Goingしてください、たぶんその方が幸せです。それはそうとして、ある意味希望が込められている歌なのではないかな、と個人的には思ったりする。なんたってそういうのを歌にするくらいなんだし。いつか誰かと分かり合えるといいよね。Toolは新譜出してほしいよね。


話があちこちに飛んでしまったけれど、ぜひとも今年の新譜を願って、そして来日を願ってブログを書きました。いつになく内容が暗くなったのは低気圧のせいです。