砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

□□□『everyday is a symphony』

2019-11-13 12:54:01 | 日本の音楽


悲しいことを話します。
このブログでアクセスが少ないのが、彼ら□□□の記事なんです。
なんで?どうして?(ヒント:知名度が低い)


なぜ知名度が低いかって言うと―彼らの音楽を聞いてもらえるとすぐわかると思うのですが―いわゆる「売れそうな曲」を作らないんですよね、変な曲が多い(誉め言葉)。メディアにたくさん出ているわけでもないし、タイアップもそんなにしてないし。でも個人的にはとてもいい曲の詰まったアルバムだと思うから、今日はこの『everyday is a symphony』について。

以前のレビューはこちら
『Tonight』
『Japanese Couple』

前作『Tonight』からおよそ1年、2009年12月リリース。作家でもあるいとうせいこう氏が加入したあとの作品ですね。発売からもう10年経つんですけど、今聴いても色褪せないというか、たくさんの要素を盛り込み過ぎているというか、だから売れていないんじゃないかというか…。Amazonのレビューは高いんですけど、あれはそもそもレビューを書く時点でかなりサンプルが絞られますし。
1曲目から彼らが語っているように、今作はフィールドレコーディング(そのへんで録音した音を使う手法)をふんだんに盛り込んだ、実験色の強いサウンドになっております。どこからかとってきた音、電車の開閉やアナウンス、人の話し声、三本締め、卒業式、子どもの声、水の流れる音などをサンプリングして、切り貼りして、というのが多い…というかほとんどそんな感じの曲で、普通の(?)曲といえばM6「moonlight lovers」くらいでしょうか。

好きな曲。
M3「Tokyo」
北新宿、四ツ谷、秋葉原、越谷、東京という空想上の路線を走る電車の話。ちゃんと曲が始まるのは1:30頃から。ドアの開閉音がビートになり、そこから打ち込みのドラムが鳴ってくる瞬間が格好いいです。他の作品でもそうですが、とにかく彼らはリズムが気持ちいい。この癖になるリズムが□□□って感じがします。そこに鍵盤が7thやオンコードを多用し、ふわっとして心地よい進行になっています。サビで後ろで刻んでいるギターも、テレテレ鳴っているギターもおしゃれ。

窓の外を 次々通り過ぎる景色を
僕は なにも手に入れられない
そんなことを 思いながら
僕は今きみに会いに行く
それで少し救われる


そんな歌詞を聴きながら通勤していると、満員電車の辛さや退屈がいくらか紛れる気もするのです。
この歌に出てくるように、私はなかなか東京という街を愛せませんが...笑

口ロロ Tokyo



M6「moonlight lovers」
はい、シンプルにいい曲(と言っても結構いろんな音が鳴っているけど)。
ストリングスとか金管(ホルンかな?)の感じは前作『Tonight』の流れを引き継いでいますね。Bメロの早口になる部分が好き。
口ロロ moonlight lovers


M13「00:00:00」
これもトランペットのメロディなんかが前作の流れを引き継いでいますね。時計の針の音がブリッジミュートみたいに刻んでいるのが面白い。それからベースの音が好きです、村田シゲさんの弾くベースが、音質もフレーズも本当に好き。村田さんの弾くベースに生まれたかった、それは嘘です。

□□□(クチロロ)/00:00:00 short ver.



ほかにもM8「温泉」では、かつてないほど邪悪なうぐいすの鳴き声が聞こえてきて面白いし(ベースが何気に高度なことをやっている)、M7「有志の宝くじ」もテンション高くて笑えるし、よくわかんないけどいいアルバムです。「毎日がシンフォニー(交響曲)」というアルバムタイトルに偽りなし。
それにしてもよくこんなアルバム作れるよね。初めて町田康の『きれぎれ』、高橋源一郎の『ジョン・レノン対火星人』を読んだときの感覚にも近い。アイデアとしてはありかもしれないけれど、一歩間違えたらすぐに破綻しそうなものを、よくぞここまでうまくまとめたよな、と思うわけです。

でも。
初めて聴いた時は展開が読めなくて、「うわぁ~」と音の波にのまれていく感じになりました。それに色々な要素が盛り込まれているのもあってか、疲れているときに聴くといっそう疲れるんですよね。とにかく情報量が多い、音数も多いしいろんな方向からいろんな音が聞こえる。だからこそsymphonyなのでしょう。何度も聴いているうちに良さがわかるけど、ずっと聴いていると疲れるという…笑
そんな相反する要素を持った作品だと思います。初めて彼らを聞くにはオススメしないけど、最近の音楽に飽きてしまい、刺激が欲しい方はぜひ。


個人的には、思い出したときに時々聴くくらいがほど良い距離感だと思っています。
例えて言うならジンギスカンくらいの感じ。毎日だと飽きちゃうけど、時々無性に食べたくなる、あの感覚。
そんなことを言っていたらジンギスカン食べたくなってきた。あの鍋で肉を焼く音もフィールドレコーディングに使えそうだよな...誰かやりませんか?肉を焼いて食べるのには惜しげもなく協力しますので...。