砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

Toby Fox『Undertale Soundtrack』

2018-09-29 19:44:23 | アメリカの音楽


*こんなブログでも だれかが よんでくれているかもしれない
*そうおもうと ケツイが みなぎった


くやしい。
完全にやられたって感じだ。
完全に、このゲームの魅力にやられたのです。


UNDERTALE(アンダーテイル)、2015年にPC版をリリース。ジャンルはRPGになるでしょうか。その雰囲気、戦闘システムや溢れるユーモア、細部まで作り込まれた完成度の高さから、インディーゲームながら非常に強い関心を集めました。そのため日本のPC版は有志の人たちが英語版を翻訳しています。その後PS4やvitaで、そして先日9月15日(ちょうどPC版がリリースされて3年)、Nintendo Switchでも販売開始されました。
このゲームのすごいところは、なんと言ってもシナリオやグラフック、プログラミングなどの制作がほとんど一人で行われたこと。作ったのはアメリカ在住のToby Fox氏。もちろん、音楽もほぼすべてこの人が手掛けています。

「一人で作ったのはすごいけど、面白くなかったら意味ないじゃん」と思う方、わかるよ。おじさんも最初はそう思ってた。でもこれがめちゃくちゃ面白いの。戦闘システムも細かいイベントもそうだけど、とにかくシナリオの展開がすごい。まあ多くを語るのは野暮なので、気になる方は是非やってください。できることなら何も調べない状態で。ぜったいだぞ!ぜったい調べるなよ!!(フリ)


もちろん音楽も良い。というわけで、前置きが長くなったけど今日はサントラの紹介。
Toby氏はもともとWeb ComicのBGMを作っていて、音楽を作るのが本業のよう。納得のクオリティやで!!

どのくらい良いかと言うと、数年振りにゲームのサントラを買いました、そのくらい良い。
小中学生の頃は時々買ってました。スクエア全盛期の頃、FF7だったり、FFT、サガフロンティア、武蔵伝とか。
最後に買ったゲームのサントラはサガフロ2、浜渦さん良かったなぁ。

本作の一つの特徴として、各キャラクターごとにテーマソング、固有のメロディがあって。それが色々アレンジされています。例えばスケルトンの「パピルス」というキャラと初めて出会った時、こんな曲が流れます。

Undertale OST: 016 - Nyeh Heh Heh!


しばらくのちに、彼と戦闘になった時はこんな曲に。裏でハイハットを入れるドラムのリズムが心地よい。それに途中(30秒過ぎあたり)からストリングスが加わり一気に華やかになって、何とも言えない雰囲気になります、キャラクターのユニークさを表現しているのでしょう。この曲はトレーラーでも使われていました。

Undertale OST: 024 - Bonetrousle


こういったメロディのアレンジが良いです。そういったことで微妙に伏線を張っていたりするし。
タイトルのつけ方もウィットに富んでいる。1つ例を挙げると、ニュースのパロディシーンで「Live Report」というタイトルの曲が流れます。もちろんこれは「生中継」って意味なんだけど、そのあと急に絶体絶命のシーンになって「Death Report」になる。ここの「Live」と「Death」がかかっているのが面白い。


他に好きな曲として

Undertale OST: 065 - CORE


からの

Undertale OST: 068 - Death by Glamour


このアレンジとか。四つ打ちでノリの良い曲、ドラムの入りの部分が格好いい。こちらもファンの間で人気の高いです。なお「Death by Glamour」というのば「ボクの魅力で死ね」という意味のよう。プレイしてみたらわかるけれど、それも納得のタイトル。途中のCメロのさわやか部分が、急に昔のゲーム音楽って感じがしていいです、ひたすらオクターブを繰り返すスラップっぽいベースとか。細かいけどベースの音色もかなりこだわっていて、一つの曲の中でイコライジングがずいぶん違います、微妙にドライブのかけ具合が異なっている。

パロディっぽい曲も多いです。オペラのシーンは絶対FF6を意識しているし(ティンパニやハープとか)、エンディングはクロノトリガーっぽい音が使われていて、この作品をやっていると色んなゲームを思い出します。作者のToby氏はインタビューで「誰も殺さなくていい」というシステム面で「MOTHER」シリーズ、「真・女神転生」、「東方」シリーズから影響を受けた部分が大きいと話していたけれど、音楽面でも色々なところから影響を受けているのでしょう。


こんなところにもクロノトリガーのなごりが。


残りもささっと好きな曲を。

Undertale OST: 036 - Dummy!


何とも言えない面妖な雰囲気。左の方でテロテロなっている音が好き。思わず体を動かしたくなります。

Undertale OST: 063 - It's Raining Somewhere Else


こちらは少ししっとり系。どことなくFF8のデリングシティをを彷彿とさせるのは、鉄琴(ヴィブラフォン?)の音が聞こえるからでしょうか。でリングシティはもう少しギトギトしたとんこつラーメンのようですが、こちらは優しいボルシチって感じです。


「サントラなんて買わなくても、プレイ中に聞けるじゃん!」という意見もあるかもしれません。しかし戦闘がかなりスリリングなので(特に中盤以降)、正直あまり音楽を聴いている余裕がないです(笑)よけるのに必死なんだよこちとら!え?下手?うるせー!俺のLoveのカプセルを食らえ!!
そんなわけで気になった方は是非ゲームを手に取って見てください、PC版でやると安いよ、9ドルくらいだよ!



余談その1
ネタバレに気を遣い過ぎて書いてて疲れました。上で話したサガフロ2の浜渦さんも大好きです。サガフロ2もメインのメロディをこれでもか、というくらいにアレンジして使ってますよね。あれも当時は度肝を抜かれたな、そして全然使いまわし感がないのがすごかった。Toby氏もそうだけど、細かいところまで作り込んでいるからでしょう。



余談その2


本作で一番好きなシーン。それまで基本的に無口だった主人公が「じぶんの きもちに しょうじきに なれ」と囁くの、控えめに言って超面白い。いろんな意味で期待を裏切られるシーンの多いゲームでした。そういう意味ではアーマードコアのようでもある。久しぶりにゲームやって泣いたよ。

ザ・なつやすみバンド『映像』

2018-09-26 20:27:16 | 日本の音楽


アルバムのいい画像が無かったので、画像は先行シングル。

ずっと風邪を引いております。
とはいえ一貫して体調が悪いのではなく、時々良くなるのです。良くなった時に調子に乗って酒を飲み「朝起きてからメチャクチャ寒いし…」状態(注)になって、再び体調を崩しているのです。馬鹿ですね。ちなみに「馬鹿」はサンスクリット語のmoha(無知)を語源とする説があるそうですよ。そんな話はどうでもいいか。



お彼岸を過ぎていよいよ夏も終わったし、今日は9月5日にリリースされた、ザ・なつやすみバンドの4枚目『映像』を。今年は彼らの結成10年目、そのためかジャケットに「10」の影が映っています。さて気合い入れて全曲書いていくぞ~ウオォ~ズバズバズバズバ(謎の効果音)。

M1「風を呼ぶ」
1曲目からアップテンポなのは初めて。Bメロとアウトロのベース、サビのメロディが好きです。サビの雰囲気が若干アニメのOPっぽく感じる、キャラクターが走ったり戦ったりしてそう。
それから「頼りないあいつ」とかいう歌詞、良い。中川さんにそんなことを言われたい人生だった。まあ、いろんな人から罵倒気味に言われてはいるけれど。財布やパスポート落としたりしているからね、ハハハハ。

M2「蜃気楼」
彼らの新境地、といった感じの、ミツメとのコラボ極。空間広がる系音楽です。アジカンの後藤さんも面白い曲だと言ってましたね。ドラムがいろんなところから聞こえる。ブリッジミュートかけて刻んでいるギターが好き。

ザ・なつやすみバンド - 蜃気楼 [TNB×mitsume]


M3「echo (Renew)」
Renew、とあるけど昔のヴァージョンを私は知りません。初期にライブ会場で出してたCDにも、正式にリリースされてるアルバムにも入っていないんだよな。昔のシングルに入っていたのかしら。2nd『パラード』の頃のような、アコギが入って淡々とした、寂しい曲。笛の音が綺麗。

M4「喪のビート」
こちらはMC.sirafu作曲。BPM150程度、ストレートで力強いビートに淡々としたシンセとピアノのコードが乗っていく、後半はメンバー全員で輪唱のようなことをやっています。「喪の」というのは白黒を意味する「mono」とかかっているのでしょうか。相変わらず中川さんの声が素敵。それから2回目のAメロのベースの入りも格好いい。本作ではかなり好きな一曲。

M5「Future Heads」
フィーチャリング、エンジョイミュージッククラブ。ホーンが奏でるメロディ、カッティングギターが切ないオサレ曲、いかにも最近の音楽って感じ。シチュエーションとしては昔付き合っていた女性と映画館で再開した、というもの。背後の子ラースではところどころ「かこ、みらい」「すき、きらい」と韻を踏んでいる。タイトルのFuture Headsというのはイギリスのバンドと関係があるのかしら、昔聴いてたBGMの話をしているし。この曲もMC.sirafu作。

M6「S.S.W (Renew)」
こちらは2nd『パラード』の6曲目からの再録。以前のバージョンではシンセの音がメインだったけれど、本作ではトロンボーン、フルート、パーカッションが入っている。最近のライブではずっとこの編成でやっている気がします。「毎日が夏休みだったらいいのになー」という歌は、パラードverの方がもっとわくわくする口調というか、子どもっぽく聴こえていたのだけれど、本作だと大人が投げやりになって(?)というか、諦めながら口ずさんでいる、そんな風に聴こえるのです。

M7「夏休み(終) (Renew)」
空気公団の山崎ゆかり氏がゲストヴォーカル。意外にも山崎さんの声に合う、教育テレビで流れそう。やはり名曲。この曲を聴くためだけでもCD買う価値があるのではないか。チェロが美しいし、トランペットとの掛け合いもよい。

M8「ミュージカル」
こちらもみんなの歌枠。純粋にいい曲、って感じ。このアルバム最後の盛り上がりか。

M9「絵になる最初」
途中からテンポがアップする。なんだか後期キリンジっぽい曲だな~と思ったのは私だけでしょうか。テンポの変化は面白いけれど、あまり印象に残らない曲。アウトロで思い出したかのように打ち込みが入っている。

M10「バンドやろうぜ!」
タイトルからそっぽを向くように、落ち着いたトーン。やはり締めくくりは、バンドを組んで10年経ったことを総括する曲。でも「バンドだ~イェイイェイ!!」みたいな雰囲気ではなく、「まあ、人集まって、色々やってきたんですよ…」と遠い目で語るというか、そんな曲です。ビックリマークがついているのにテンションが低い、でも綺麗な曲。その辺はキリンジの「CHANT!!」や「Music!!!!!!!」とも似ています。どんだけビックリしとんねん。ちなみにこの!の数はテストで出るので覚えておくように。


全体的な印象
率直に言って10曲しか入っていないのが悲しい(前作は12曲入り)。多ければいいわけじゃないけど、ミスチルの『I love you』を聴いた時と似ていて、既存曲が多い印象。10曲のうち3曲がRenewだし、1曲はシングルで先行リリースされていたし。
それでも彼らがこのタイミングで本作を出したのは、ある種の走馬燈的な、今までやってきたことの「まとめ」の意味を持つからなのでしょうか。1st『TNB』を出して間もない頃、下北沢で空気公団と2マンやっていたし、最近は色んな人とコラボしてます。活動するなかで沢山の人と知り合って、みんなで音楽を奏でたい。そういう1枚を作りたかったのかな。好意的に解釈すれば、ですが。

アルバムのまとまりを考えるとやはり前作に軍配が上がる気がする。新しい局面に踏み出し、色々やりたいことがあって、まだまとまり切っていない、そんな印象を受ける作品。もちろんM1、M8みたいなシンプルでいい曲もあるんだけれどね。それと、前作よりMC.sirafuの作曲が増えた気がします。邪推かもしれないけれど、バンド内の人間関係というか、力関係も少しずつ変わってきたのかな、なんて。
それから。本作はサポートありき、の音楽になっている気もしていて。もちろん初期からヴァイオリンが入ることもあったけれど、前作までは「4人で再現できる曲」の割合が高かったと思うけれど、今作は普段のライブの時にサポートが入ることをあらかじめ想定されて作られている感じが強くて。それはそれで、ちょっと寂しくもあるかな。4人が奏でるバンドサウンドが好きだったものだから。だってザ・なつやすみ「バンド」なんだもの。そんな彼らは今後どうなっていくのだろう。今ちょうど過渡期に来ているのかもな、なんて思ったりしてるわけです。



昔の空耳 その0285


空耳アワー参照。これはビースティ・ボーイズの曲だったか。もっとも好きな空耳のひとつ。「マジ痛ぇなこの!あっこうなるよね…」とか「雑誌洗って、穴に埋めてェェ!!」の穴に埋めるシリーズ、「みりん!!?ぽいな!!ぽいな!!!」とか「愛してんだろ?愛してんだろ?」の何故か脱いでるシリーズも好き。

パヴェーゼ『月と篝火』

2018-09-21 18:05:41 | 海外の小説


あら、おかえりなさい。早かったのね~。
ご飯にする?お風呂にする?それとも

…ブ・ロ・グ?


こんばんはみなさま。金曜夕方ですね。今日は朝から予定が詰まっていて疲れました、今は人間の形状を保つのがやっとです。でも最後の力を振り絞ってブログを書きます。アッ形が崩れる、腐ってやがる、早すぎたんだ!!


さて今日紹介するのは最近読み終わったチェーザレ・パヴェーゼの『月と篝火』、川島英昭氏という東京外大の教授が翻訳してます。パヴェーゼはイタリア人作家で、活躍した時期はイタロ・カルヴィーノやナタリア・ギンズブルグの少し上の世代になるでしょうか。本作を出してすぐ、42歳で服薬自殺をしています。余談ですが自殺する作家って格好いいですよね、ヘミングウェイとか芥川とか。しかし太宰、テメーはダメだ。三島もちょっとな。友達には絶対なれないな。

本作について。ざっとしたあらすじ。
私生児として生まれた「ぼく」は、壮年の年頃に差し掛かっていた。経済的に成功し、青年期まで過ごした故郷、イタリアの北部の農村を訪れる。かつて愛した人たちは、親友のヌートを除いてほとんどいなくなっていた。あるものは病に伏し、あるものは戦争に巻き込まれた。故郷を歩いているうちに思い出す、過去の記憶の断片たち。悲しい出来事だけでなく、今になって思い起こされる美しい記憶もある。しかし最終的に思い知らされるのは、戦争の余韻と世界の残酷さ。そんな感じの話です。

悲しい話なんだけど、戦争もののベタなお涙ちょうだい小説ではなく。布が水を吸ってじっとり重くなるように、あとから悲しさが余韻として襲い掛かってきました。雰囲気で言えばフォークナーの『響きと怒り』に似ているでしょうか。あるいはアーヴィングの『ホテル・ニューハンプシャー』にも少し近いかもしれない。あちらの方がもう少し世俗的な感は否めませんが、セックスの話多いし。

しかし途中までは別の要素で読むのが辛かった。何の断りもなく次々と人が出てきたり、イタリアの地名(しかも北部で馴染みがない)が出たりして、人なのか土地なのか頭がさっぱりコーンな状況で読んでいくことになります。あっ土地が喋ってるー!と思ったこともありました、そんなわけあるかい。

とはいえ。とりあえず流し読みをして、おおよそこんなことがあったんだな、と思いながら読んでいくと段々主人公の過去の物語が明らかになってくるのですね。貧しい家庭で育ったこと、13歳を迎え農場で働くようになったこと、そこの主人や娘たちとの交流、親友のヌートの存在。

ごくミクロな世界、あの土手がどうとか、丘やぶどう畑がどうとか、そういった話も淡々としていて面白いのですが、唐突にドイツ兵の死体が見つかったり、友人がパルチザン(イタリアのレジスタンス組織)に加わっていたことを匂わせたり、ところどころで第二次世界大戦の名残りが語られます。

パヴェーゼ自身は探偵小説を意識したようですが、最後の方に謎が明らかになるというか。そのせいもあって構成が複雑なので、一度読んだだけでは消化しきれない部分が多い。人かなと思ったら土地だったりする部分もありましたからね、人の上にぶどう畑ができるかよな。
それから。構成が複雑になってたり、話があちこちに飛んだりしているのは、もしかしたら自分にとって非常に大切なものである≪故郷≫を失い、茫然自失とした状態なのかな、とも思ったり。自然は相変わらず当時の名残りを残しているぶん、自分たちと一緒に過ごした人が戦争や病気で死んだり、ろくでもない結末になったり、そういったことがより一層残酷に感じられるのかもしれない。


余談。
私も故郷から遠く隔たって生きておりますが、自分の生まれ故郷は20年後30年後、どうなっているのだろうな、と思うことがあります。少子高齢化を代表するような土地なので、やがて人はいなくなるのでしょう。そんな時、自分は故郷に戻って何を思うのだろう。悲しいような、でも仕方ないな、という気持ちになるのかもしれませんね。それはそうと、東京生まれ東京育ちの人は、そういった「故郷ロス」みたいなのはあんまり味わえないんじゃないかなと思うのですが、どうなんでしょうね。

NUMBER GIRL『NUM-HEAVYMETALLIC』

2018-09-01 23:21:53 | 日本の音楽


9月になったのでブログを更新します。
平均気温が下がり、過ごしやすい日が増えてきました。ふと思い出したかのように暑い日が顔を覗かせることもありますが、季節は着実に秋に向かっています。今年も夏が終わる。それはそれで少しさみしいな、という下らん孤独主義者の戯言は置いといて。


この時期に聴きたい1枚、ということで本日はナンバーガールの最後のスタジオアルバム、『NUM-HEAVYMETALLIC(ナムヘヴィメタリック)』を。タイトルの「NUM(南無)」というは、もしかしたらNUMBER GIRLのNUMとかけているのかな。

簡単に彼らの紹介。福岡市博多区からやってまいりました、4人組ロックバンド。1995年結成、4枚のアルバムを出して2002年に札幌のライブで解散。メンバーは今でもなんらかの形で音楽を続けています。
ヴォーカル向井秀徳の聞き取りにくい歌、「冷凍都市」「性的」「はいから」「少女」「酩酊」といった歌詞から繰り広げられる独特の世界観、田渕ひさ子の肉を削ぐ鋭いギター、アヒトイナザワのやかましいドラム、中尾憲太郎n歳(nには任意の年齢を代入)の、なんていうか、まぁ比較的まともなベース、そういった魅力あふれるバンドです。正直言って聴きどころしかない。


本作は日本民謡のメロディやらダブの要素を取り入れており、今までの一直線な感じの曲たちとは作風が異なる気がする。リリースされた直後は賛否両論あったのではないかな。でも聴いているうちにのめり込んでいく、そんな一枚です。

私見ですが、色んな評価を読んでいると彼らはサウンド面を評価されることが多いように思います。でも実は歌詞も魅力的なのです。とてもエディパルというか、原初的なエディプスコンプレックスのなかで感じる「疎外感」、それに伴う「憤り」、自分にはどうにもできない「無力感」が漂っている。
歌っている「俺」「制服の少女」を見て眩暈を催したり、いかんともしがたいフラストレーションを抱えて酩酊したりふらふら彷徨ったり。そして無垢な少女たちは「誰か」の手によって汚されていく、一人ぼっちの俺。そういった孤独はもう貪るほどに味わい尽くした、だけどどこかで感じる寂しさ。そのような妄想的な世界を描くのが、この向井秀徳という男がすごく上手です、最高。童貞くさいと言えばそれまでなんだけど、なかなか狙ってできることではないよな。


そんなわけで好きな曲紹介
M2 INUZINI
NUMBER GIRL - INUZINI (ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2002) LIVE


やっぱりロックンロールやね。映像はライブ盤のもの。アコースティックギターが隣人を怒らせ内容証明をいただくに至る歌です、私も上の住人に送りたい、お気持ち表明したい。夜の営みの音がうるさいの、週何回やるんだよ。それはさておき。途中のギターフレーズは前作の「URBAN GUITAR SAYONARA」をいじって使っています。ドラムのンタンタンタタタ、ンタンタンタタタというリズムが好き。PIXIES聞いて葛飾北斎!


M3 NUM-AMI-DABUTZ
Number Girl - Num-Ami-Dabutz


とても好きな曲、先行シングル。鋭いギターから始まります。昔このタイトルをもじって携帯のアドレスに入れてたな。
「南無阿弥陀仏」というタイトルに反して歌詞はかなり危うい。「真昼間にひっつきまくった男女の生殖器官はもうどうもこうもならん」「視姦される女たちが自意識まきちらし 恥さらし しかし取り澄ましてパンツ濡らし」「餓鬼はガンジャ吹かし」と、極極(きわきわ)のラインを攻めています。だけどこういった歌詞で描かれる世界も、ある意味では真実なのだよなと思う。南無阿弥陀仏。

M9 性的少女
Number Girl - 性的少女 (Live from SAPPORO OMOIDE IN MY HEAD)


こちらもライブver、SAPPOROのOMOIDE Liveから。中尾憲太郎28歳の重たいベースから始まる曲、和風なギターフレーズが好き。出だしから「村の神社の境内でヤったあの娘は街に出て」と、タイトルが表すように非常にセクシャルでありながらも、「性的少女の見た夢は 真っ赤な烏を食らう夢」と、ちょっとグロテスクな歌詞が出てきます。「歩いて知り合いはいない 街ん中誰も知らない」「知らない誰かの吸いがらだけが 灰皿の上に山の様」というのも、なんだか妙に怖い。性的な関係が孕む孤独をうまく表していると思う。

しかしバイオレンスな歌詞のなかに、ひゅっと紛れ込んでくる切ないフレーズ。「季節と季節の変わり目 恋をする少女だったこともあった」とか「俺は俺に似合ってた」とか。そういった歌詞も本当に素敵だな、と思う。
最後の曲「黒目がちな少女」で「色々な人がいるもんだ」と歌っているのも面白い。ヴーン、という具合の太いギターの音をバックに、今までは「俺」「少女」「少女を汚す誰か」といった3者関係のなかで悶々と、鬱屈とするのを繰り返していたのだけれど、ここで少し世界が広がったようにも読み取れる。見渡すと本当に色々な人がいる、そういったことに気づいた瞬間。ちょっと好意的に解釈し過ぎかしらん。


この作品を初めて聴いたのは高校生の時でした。近所のCDショップを探してもなかなか置いてなくて、注文して取り寄せて繰り返し聴き、鬱屈としている私の思春期を激しく揺さぶったものでした。今思うとどうしてあんなに思い詰めていたのか不思議なくらいです。
今でも時々聴き返していて、特にこの季節に聴きたくなります。それはそれで苦しいことも思い出させるけど、やはりあの頃の思い出というのは、小学生の時にもらったマラソン大会の賞状のように「苦しいけどこんなに頑張ったんだよ、あれは嘘じゃないんだよ」と語りかけてくる気がします。それをどう生かすかは、今の自分次第なのですが。