砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

Tool「Lateralus」

2017-06-06 11:30:51 | アメリカの音楽



暇つぶしのために始めたブログだったが、ここ最近ブログでなにを書くか考えながら生きている。ぼんやり音楽を聴いているときでも「これブログになんて書こう、どうやって言葉にしよう」とつい考えてしまうし、会議中やご飯を食べているあいだもブログのことを考えるし、なんなら寝ているときも六条御息所のように生霊になってブログを書いている。それは嘘である。とにかく手段と目的が入れ替わっているというか、ミイラ取りがミイラになるというか、河童は川から流れるし弘法は筆と間違えられるし、世も末なのである。


たまには洋楽を、とピックアップしたものが「これかよ」という声が聞こえる気がしないでもない。Tool(トゥール)というアメリカはカリフォルニア、ロサンゼルス出身のプログレッシブ・メタルバンドだ。今のところ4枚しかスタジオアルバムは出していないが、今日は2001年にリリースされた『Lateralus』を取り上げたい。書いていて気付いたけれどこれリリースされてもう16年も経っているのか、そりゃ私も年を取るわけだ。

彼らの紹介。男性4人組でヴォーカル、ギター、ベース、ドラムのシンプルな編成である。初期作『Undertow』は変拍子の曲もあるがプログレ感が全面的には出ておらず、どちらかといえばハードロック寄りの作品だった。しかしその内容は「Prison Sex」「4 degrees」などタイトルからして物々しい曲が多い。ちなみに「4 degrees」という曲は、いろんな解釈が可能ではあるのだが、歌詞をそのまま理解しようとするとアブノーマルに解釈することも可能なので、(いないとは思うが)調べられる方はご注意を。
さて2ndアルバム『Ænima』以降はだんだんハードロックの傾向は薄れ、より暗黒めいたサウンドになってきている。この暗さと気だるい雰囲気、ヴォーカルの繊細かつ存在感のある声、きめ細かくときにアグレッシブなギター、何をやっているのかよくわからないが正確無比で力強いドラム、意味がぜんぜん理解できない歌詞、そういったところが彼らの魅力(?)だ。書いていて思ったけれど、今まで紹介してきた人たちに比べてかなり好き嫌いがわかれるバンドかもしれない、数少ないブログの読者がさらに減りそうだ。

本作『Lateralus』は彼らの3作目である。一聴して良いと思える曲は「Parabola」「Lateralus」「Triad」くらいなもので、「Stinkfist」「46 & 2」などが入っていた前作の方がキャッチーだと思う。ただ「相対的に」キャッチーという意味なので、一般的なキャッチーさ(例えばクラムボンとか、cymbalsとか)を期待して本作を聴くと動悸・息切れなどの諸症状や、場合によってはひどいトラウマをこうむることになるので気を付けてほしい。
アルバムのタイトル、LateralusとはLateral(横の)という単語から派生した造語であるようだ。おそらく「ものごとを幅広く見ろ、固定観念にとらわれるな」と言いたいのだと思う。M1の「The Grudge」はうねるようなベースとドラムの変なリズムで始まる曲だが、4分過ぎたあたりのシンプルなリズムになるところが格好良い。また歌詞も面白い。比喩的な表現が多くやや呪術めいているが、大筋として言いたいのは「ネガティブな感情、思考ばかりにとらわれるな」という意味なのだろう。

M1「The Grudge」(映像は公式ではなくファンによるもの、心臓が弱い方にはお勧めしない)
(HD) TOOL - THE GRUDGE



他の曲の解説は省くが、なんといってもタイトルトラックの「Lateralus」は素晴らしい曲である。Aメロのドラムのリズム、そしてベースが入ってくるところ、このドラムとベースの絡みがとても良い。大げさかもしれないけれど、ここまで歌うように流れるドラムは、King Crimsonの「21st century schizoid man」以来ではないか。興味があるひとはぜひYoutubeでご覧あれ。
歌詞はざっくり言うと「もっといろんな方向からものごとを見ろ!負のスパイラルから抜け出せ!」という内容で、暗い雰囲気の曲のなかでめちゃくちゃポジティブなことを歌っているお茶目なメイナードさんがいる。冒頭の歌詞(black, then, white are, all I see, in my infancy, red and yellow then came to be…)がフィボナッチ数列のリズム(1,1,2,3,5,8…)で歌われているあたりがかなり変態的だ、たぶんこの人たちも友達少なそう。

M9「lateralus」
Tool - Lateralus (Highest Quality HD)



ただこの曲の後半でもそうなんだけれど、アルバムを通しても途中でテンションがだれる瞬間があるかな、と思う。このバンドの魅力のひとつとして、「静と動」「緩急」のつけ方が挙げられるのだが、途中の「静」や「緩」の部分がかなりの具合で落ちるので、けっこう集中して聴いていないとそれまでのテンションが持続せず、飽きてしまうのだ(そして集中して聴くと相当疲れる)。例えていうならジェットコースターに乗っている途中で、最初ワッと滑ったかと思うとそのあとものすごくゆっくりになっちゃう、そして気を抜いているととてつもない勢いで加速する、みたいな感じ。わかるかな、わかんないか、ごめんね。


以下個人的な話。このバンドを好きになったいきさつ。自分は地方の小都市の出身で、当然身近にTSUTAYAやタワレコなんてものはなかった。〇〇堂とかいう本屋兼CDショップみたいな店しかなかったし、Exileや浜崎あゆみしか置いていなかった。
最寄りのタワレコに行くにはバスで20分、電車で30分必要だったから小旅行である。それに1時間くらいかけてタワレコに行ったとしても、普段ものが少ない場所に住んでいるから(外には田んぼ、畑、川、山、道路しかない。風景構成法かよ)、一度に大量の情報が入ってきて何を買ったらいいかわからなくなり迷ったまま帰ってくることもあった。

これじゃいかん、と思った。そして当時わが家にも導入されつつあったインターネットを駆使し、某2ちゃ〇んねるの音楽板に入り浸っては情報収集に勤しんだのである。そのなかで「Toolすごい」「Toolの3rdは本当にいい」「Toolは世界遺産」「Toolは国連事務総長」という書き込みを見た、見てしまったのだった。
私はその情報を鵜呑みにし、近所のCDショップでこのアルバムの注文をした。在庫なんてあるわけないから取り寄せになった。数日して楽しみにしていたアルバムが届いた。早速家に帰って聴いてみよう、そのときの自分はきっととてもわくわくしていただろう。
変なジャケットからCDを取り出し、プレーヤーの再生ボタンを押す。スピーカーから流れ始めたのは、なんだかよくわからない音楽であった。今まで聞いていたロックとは全然違う、なんだこれは。これが…これが国連事務総長???
英語なのはともかくとして、彼らがなにを歌っているかよくわからないし、ギターも変な音弾いているし、ドラムは手数が多すぎて何やっているかよくわからないし、静かなところと盛り上がるところの音量差が大きいし。
ただ「なんだかよくわからないぞ?」と思いながらも繰り返し聞いているうちに、気づいたらどっぷりはまっていたのである。そういう、うまく言葉にできない魅力を持った不思議なバンドだ。人生で1度しか彼らのライブを見られていないが(2006年のSummer Sonicだった)、再び来日することがあれば是が非でも行きたい。


上の方でさんざん「友達少なそう」とか言っていたが、こんなブログを更新している私に友達が多くないのも自明の理であろう。でも私たちは、知らず知らずのうちに「友達は多い方が良い」みたいな世間一般の考えにとらわれているんじゃないだろうか。メイナードさんも歌っているではないか、「固定観念にとらわれるな」と。友達は少なくたって別にいいのだと思う。強がりではない、本当だ。いやだから強がりじゃないって。

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3 コメント

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Unknown (友達いなさそう)
2019-09-20 20:31:11
「友達いなさそう」の認定を受けた者です。リンク外して。
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Unknown (sophian_tetsuo)
2019-09-21 13:02:27
失礼しました、外しておきます。
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ありがとうございます。 (TOOLは普通に好き程度)
2020-12-13 17:44:31
自分が感じたことを代弁していただいたような内容でとても面白かったです。
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