砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

cero「Poly Life Multi Soul」

2018-05-23 14:36:03 | 日本の音楽


男もすなるブログというものを、男である私もしてみんとてするなり。
今回紹介する作品は全然わからないなり、それでもわからないなりに書こうとするなり。



本日は先週発売されたceroの4枚目『Poly Life Multi Soul』を。
以前にも彼らのことは紹介しましたね、その時の記事はこちら

今作、皆さんはどう感じましたか?
私は最初に聴いた時、正直「さっぱりわからん…」と思いました。もちろんM2「魚の骨 鳥の羽」は前から聞いていたし、M3「ベッテン・フォールズ」やM8「Double Exposure」はすぐビビっときました。でもなんだか途中でレイモンド・カーヴァーの短編「夜になると鮭は…」の朗読が入るし、全体的にリズムは複雑だし、前作までに比べてキャッチーな曲が少ないようにも感じられたのです。

いや、これは私の理解が浅いせいに違いない。
繰り返していくうちにきっと良さがわかるはず!!
そう思って1週間、何度も繰り返し聴きました。
そして一つの結論に到達したのです。



さっぱりわからん…!!

ん?身も蓋もない?本当は考えてないんじゃないかって?やかましいわ!
このアルバムのタイトル『Poly Life Multi Soul』が物語っているように、おそらく無数の生命や魂のことを曲にして歌っているわけで、そんなに簡単にわかるものじゃないってことなんです。
え?こじつけ?そうやって人のことばかって言った人がばかなんですー!な、泣いてねーし!


さて前作は「砂漠」がひとつのキーワードでしたが、今回は「川」のようです。歌詞に「川」「水」といった単語が何度も出現するし、夜になると鮭は川を出て街にやって来るし、「遡行」や「Water」というタイトルの曲もあります。では彼らは、この言葉で何を表現しようとしているのでしょう?

川には絶えず「流れ」があります。いくつか小さな支流が集まって、大きな「流れ」を形成する。その点で人とも共通しています。家族や友人などの小さな集団があり、考え方や価値観を共有する大きな集団があり、それが「流れ」を形成しています。時間の流れであったり、社会の流れであったり。人はみな、大きな流れのなかで生きています。

また、「川」は人が定住する最初の場所でした。世界史で習った四大文明は、常に大きな川の側で発展しました。いいかえれば、川は「生活」や「文化」の源でもあるのでしょう。人々の営みが芽生える場所だったのです。そしてその営みが脈々と続き、今の私たちの生活があると言えます。

そういうこともあって、歌詞の中では「Modern Step」とか「ナトリウムランプ」とか近代的な言葉も出てくるんだけど、どこか「神話」や「おとぎ話」を歌っているようにも感じます。それはM9「レテの子」がギリシャ神話に出てくる「忘却の川 Lethe」に由来することや、M3「ベッテン・フォールズ」が日本神話に出てくる「別天つ神(コトアマツカミ)」を連想させるからでしょうか。M2「魚の骨 鳥の羽」でも

私たちのなかを せわしく蠢く何か

と繰り返し歌っている。もしかしたら、地下水脈のごとく続いている人間の神話的、無意識的な面を歌っているのかな、ユング派の語る「集合的無意識」のような。ちょっとこじつけかもしれませんが。


ずいぶん頭でっかちな話になってしまった。
ここらで音楽について。

前作からその片鱗は見えていましたが、アルバム全体を通してリズムが非常に複雑です。1つの曲の中で4/4拍子や6/8拍子が切り替わったり、バイテンになったり。ベースやドラムが裏拍で入ることも多いし、リズム隊が敢えてカッチリ合わせていない、それぞれが別のタイミングで別のことをしているからか、多層的な作りになっています。このへんもまさにアルバムタイトルっぽい。

サポートメンバーが変わったのも大きく影響しているのでしょう。女性コーラスが入ったこともあって、アルバム全体を通して艶めかしさがあります、ウェットな感じがにじみ出ている。それから耳を凝らすと、いろんなところでいろんな音(パーカッション、コーラス、シンセ)が聴こえてきて、隠し味になっている。ラーメンにコショウを入れた時みたいに、結構大きな役割を果たしているんじゃなかろうか。


ここまでを読むと「歌詞が難しくて、リズムが複雑なのとかぶっちゃけ好きじゃなぃ。マヂ無理…チャゲアス聴こ…」と思う方もいるかもしれません。とはいえ美しい曲、ノリの良い曲、思わずステップを踏みたくなる曲も多いのです。
個人的に好きなのはM3の「ベッテン・フォールズ」、M4「薄闇の花」、ここは曲間のつながりもすごく好きです。それからかわいらしいシンセで始まるM8「Duble Exposure」はAメロディが綺麗だし、タイトルトラックのM12「Poly Life Multi Soul」は、鍵盤の音が儚く、寂しい感じがしていいですね。ドラムが刻むリズムも素敵。
時折繰り返される謎のフレーズも好きです、「このテンポでこのテンポで 踊ろうよさあ踊ろうよさあ」とか「はるか川上の光を見よ」とか。
残念ながらYouTubeには「魚の骨 鳥の羽」しか音源がありませんが、我こそは「わからん!」と思いたい方は、ぜひ手に取ってみてください。


本作の率直な感想を書くと、「これもいいけど、なんか違う」です。Radioheadの『Hail to the Thief』を初めて聴いた時と似ている。
自分が好きなミュージシャンだからと言って、すぐ☆5をつけるように、無理に理想化して褒めあげたくはない。それに本作が10年20年経っても聴き継がれる名盤かどうかと言われると、自分のなかではうーんって感じです。ハードル高すぎるかな、前作がよかったのもありますし、途中で出したシングル「街の知らせ/ロープウェー」がすごく好きだったのもある。あの路線なのかな~、と思ってたら良くも悪くも期待を裏切られたというか。

でもひとまず6月に彼らのライブに行く予定なので、それに行くまで判断は保留です。どうやってライブで表現するのか、彼らの生み出す「流れ」がとても楽しみです。

toe「For Long Tomorrow」

2018-05-13 07:39:01 | 日本の音楽

日曜の朝になぜ私はブログを書いていますか?


これから午前にお勉強的な用事があり、午後と夜には勉強会があります。私は何のために生きていますか?
さて本日はtoeの2ndアルバムをご紹介。「トー」と読みます。日本のポストロックバンドです。
ポストロックっていったい何?という方に説明しますと、郵便ポストを楽器で取り入れたバンドのことです。
あの赤いポストを叩いたり撫でたり、お葉書出したり。それが案外いい音がして。
冗談です、今3秒で考えた嘘です。

そんな激寒な茶番はおいといて。
「post(~以後の)」という言葉が表すように、従来のロックのコード進行とかリズムとかに捉われない、新たな音楽のジャンルのことらしいです。しかし「ポストロック」という言葉自体は結構前から使われていたみたいで(初出は1990年代)、もうあまりポストって感じではないんですよね。そのへんは古くなっても新幹線と言われているのにも似てます、いったいいつまで新しいつもりなんだお前は、と。
若干話がそれましたが、「ポストロック」は、今ではしっかり固有のジャンルとして定着しておるのです。

日本にもポストロックのバンドが結構いますよね、LITEとかmouse on the keysとか、どれも格好いい、そして海外でも人気があったりする。でも自分が一番好きなのは彼らtoeなのですね。なぜかというと自分でも良く分からないんですけど、聴いていると頭の中が真っ白になっていく感覚が生じて、とても心地よいのです。まるで音の波に攫われていくような。それはあなたが疲れてるからじゃないの?と言われるとあまり自信が持てないんですが。


さてこの『For Long Tomorrow』、2009年リリースです。前のフルアルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』から4年後の作品になります。しかしこのタイトル、めっちゃオシャレじゃない?「vague anxiety」って、ポストモダンだよな。ポストモダンの不安だよな。相対化が進み過ぎて自分の輪郭がどんどん失われていく。自分の存在が茫漠としたものになっている。
え?安直に自己投影しすぎ?やかまわしいわ。
そうやって自分の解釈によって己という存在を確かめたり、拡張したりしていくのが現代だから。
デリダもそう言ってるでしょ!(言ってない)

本作に話を戻すと、前作と随分雰囲気が異なっています。非常に聴きやすいんですよね。聞き流すこともできるというか。50分あるのにあっという間に終わってしまう。もともとポストロックのジャンル自体があまり歌を伴わない、というか歌を楽器の一種として取り入れているところがあるので、言葉の意味が押しつけがましくないのもいいのです。言葉の意味にとらわれないから、彼らは海外でも人気があったりします。

さっくり曲紹介。
M4「エソテリック」
Toe - エソテリック (Esoteric)


調べたところエソテリックという高級オーディオメーカーがありますが、このことを意味しているかはわかりません。
イントロのギターが非常にクール。そしてドラムが格好良いのは言わずもがなですが、そこに絡んでくるベースが有機的で、気持ちいいです。

M6「two moons」
Toe - Two Moons

ガットギターの音色がとても美しい曲、随所で入ってくるハーモニクスも良い。
2つの月、というタイトルはどういう意味なんでしょうね。どうしても村上春樹の『1Q84』を思い浮かべてしまうけど。
拍子が4/4だったり6/8だったり細かく変わるのに、慌ただしさが感じられない、しっとりしたいい曲です。雨の日に良い。

M10「グッドバイ」
TOE - グッドバイ


音源はライブのもの。アルバムでもそうですがゲストボーカルに土岐麻子が参加しています。
本作の前に出していたepの「グッドバイ」もいいけれど、こっちはこっちでいいな、と。
土岐麻子の声は好きなんだけど、自信持って歌ってる感じがして「また次の不安か umm...」と歌ってても微妙に説得力がないというか...いやいやその声は自信持っていいですよ、と言いたくなる。余計なお世話か。
一方山嵜さん(Gt)が歌っていると、無骨だけどそれでいて儚げで、大の大人が「また次の不安か umm...」とか歌ってるのが母性本能をくすぐりますよね、マジかわいい。

これより前に出していたEPよりも、全体的に丸みのあるサウンドな気がする。
EP版もかっちょいいです、ドラムが入ってきた後のハイハットの「スタスタスッター」て部分は、ドラえもんが歩いている時の効果音みたいにも聞こえますよね。なんでもないです。

一応EP版の音源も貼っておきます。
toe - グッドバイ PV / "Goodbye" Music Video


3:20頃のドラムが好きです。こっちの方が好き勝手やっている感じがする。

彼らの演奏について。
音自体はクールというか、打ち込みだったりシンセだったり無機質なものも多用しているし、どこか冷たいトーンなんだけど、非常に「生きている感じ」がして好きです。
それは単にドラムの手数が多いとか、演奏が上手く絡み合っているとかではなくて。
うまく言葉にならないんだけど、作り手の息遣いが聞こえてくるような、そういう演奏なのだと感じています。
そういうお前はちゃんと生きているのか、と問われるとvagueなanxietyが襲い掛かってくるわけですが。

あ、もうこんな時間だ。午前の用事に行かなくては。
また次の用事か umm...


余談
長いこと迷った末に、遂にapple musicを契約しました。これむちゃくちゃ便利ですよね、やばい。便利すぎて鼻血が出そうになってしまった。the pale fountainsの音源とかもすぐ手に入れられてやばいし、あー今これ聴きたいけど手元に音源ないなーってなってもすぐ聴けて鼻血が出ます、失血死しそう。もちろん無い音源もありますけどね、念仏とかね。

これからは田舎でも音楽に苦労しなくなるんだろうな、どんどん便利な世の中になっていく。それはそれで、どこか悲しい気もする。それは「昔はカセットにダビングしてね」とか「レコードがね」とか「蓄音機でね」と言っていた人が抱く感傷と同じなのでしょう。何かを得るということは何かを失うことなのですね、きっと。逆もまた然り。昔田舎のCDショップでToolとかNumber GirlのCDを取り寄せていたのが懐かしい。

しかしapple musicには一つ問題点がありまして。自分は携帯で音楽を聴く時、ONKYOのアプリで聴いていて(その方がイコライジングが細かくできる)、ダウンロードした音源はそっちで再生できないみたいなので、かなりがっかりです。iPhoneのがっかりイコライジングでtoeを聴きたくないよなぁ、じゃあちゃんとCD買うしかないんだよなぁ...(ステマ)