砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

Nirvana「In Utero」

2017-08-26 05:23:41 | アメリカの音楽


悲しいときー
悲しいときー

ブログのネタが切れたときー


一体いつのネタをやっているんだ、歳がばれる。
さて(?)音楽には「気分一致効果」というものがある。これは心理学の用語らしいが、簡単に言うと楽しいときは楽しそうな音楽を、イライラしているときにはイライラしそうな音楽を聴くのがいい、ということだ。なんやそれ、当たり前やないの、と思う方もいるかもしれないがそういう人はAltキーとF4キーをそっと押してみてほしい。さよなら。

簡単なアイスブレイクも済んだところで。リラックスしたいとき、楽しいとき、悲しいときにマッチする曲を探すのは比較的簡単だろう。とりあえずEnyaとかJack Johnsonとか湘南乃風など聴いていればよいのだ、タオルを振り回してそのまま大気圏突破すればよいのだ。でもイライラしているとき、例えば泊っているホテルの窓からテレビを投げたくなったり、斧でドアを叩き割って隙間から笑いながら顔を出したり、総武線小岩駅のホームで快速の通過電車を待ったりしているときに、一番おすすめする音楽は彼らNirvanaだと思っている。
他にもPanteraとかMetallica、Slipknotのようなかまびすしいメタル路線とか、Envyや54-71のようなグチャっとした塊のような音楽もいいけれど「怒りを通り越した後の虚しさ」みたいなのは、彼らの方がうまく表現できているだろう、と勝手に思っている。バンド名からしてもそうだろう、Nirvanaって仏教用語の「涅槃」のことなので。何の煩悩も生じえない悟りの境地、静的な世界。バンドの音楽とは対極ではあるのだが。

アルバムのタイトルの『In Utero』、これはご存知のように「子宮の中」という意味だ。前作の『Incesticede』は近親姦を意味するincestからの造語らしいが、今作はより退行した、性的な交わりどころではない、もっと原初的な心持ちで作ったのかもしれない。あるいは「もう生まれたくない」というような気持ちか、さすがにそれは考えすぎかな。

好きな曲をかいつまんで紹介。
M2「Scentless Apprentice」

Nirvana - Scentless Apprentice


初めてこれを聴いたときはとてもびっくりした。『Never Mind』や『Incesticide』にも妙にテンション高い曲はあったけど、あの頃のポップさはいずこへ?と。サビのカートの声が怖い、どうやって出しとるんやこの声。~こんな子宮の中は嫌だ2017~という感じ。なんのこっちゃ。これだけ不協和音を鳴らしているのに曲としてまとまっているのがすごい。
タイトルに「Scentless」すなわち「無臭の」とあるけれど、これは彼らの代表曲である「Smells like teen spirit」の皮肉みたいなものなのかしら。サビではひたすらGo AwayとかGet Awayと歌っている、メディアやレコード会社に対して言っているのかな。

M6「Dumb」
「I think I’m dumb 俺はばかだと思うんだよね」と繰り返し歌う、世界で最もかっこいい自己卑下の曲の一つ。PixiesのDebaserとかRadioheadのCreepも良いですが。

M8「Milk it」
アルバムのタイトルっぽい曲、子宮とミルク。このMilkは「台無しにする」という意味らしいけれど。クリスのベースが格好いい。テンションのロー、ハイのメリハリが効いている彼ららしい曲でもある。そういえば彼らにそういった、静かなAメロ、爆発するサビといった構成の曲が多いのは、Vo/Gtのカートが双極性障害だったことも関係しているのだろうか、さすがにそれも考えすぎか。

Nirvana - Milk It


M13「All Apologies」
アルバム最後の曲。歌詞がいい、後半の妖しいチェロの音色が綺麗。

What else would I be 他にどうしたらいいのか
All Apologies とにかく謝るよ


謝罪から始まる曲である。アメリカ社会では謝ったら負けなのに、いきなり謝っている。圧倒的・・・圧倒的負け確っ・・・!!ざわざわ。それはそうとして。でも謝るしかないけど、どうしようもない俺をありのまま受け止めて欲しい、といった気持ちが見え隠れしているようにも思う。Nirvanaで一番好きな曲。動画はアコースティックライブのもの。

Nirvana - All Apologies (MTV Unplugged)


最後に繰り返されるAll in all is all we areという歌詞が印象的だ。直訳すると「我々はみんなかけがえのない存在」という意味になるのだが、最後に何度も繰り返されると皮肉というか、いっそ「もう人間なんてばらばらで勝手な生き物なんだ」「結局俺もお前もその一人なんだ」という諦観の念のように聞こえなくもない。悲観的過ぎかな。

全体を通して「漠然とした罪悪感」って感じの歌が多いように感じる。嫉妬、怒りや憎しみを通り越したあと、しばしば湧き上がってくる感情は「罪悪感」とか「虚しさ」だと思うのだけれど、そういった部分を歌っているのだろうか。どうせ俺が悪いんだろ、でも俺にはもうどうすることもできないんだよ、とばかりに。この辺の世界観は、RadioheadのNo Surprisesとかと近い気がする、曲調は全然違うけど。

アルバム全体に流れているヒリつくような緊張感は、きっとプロデューサーのスティーブ・アルビニの力が大きいのだろう。彼はこういったグランジやパンク、オルタナ系の音楽を手掛けたら、だいたいの割合でめちゃくちゃいい作品に仕上げます。Super ChunkとかMelt Bananaとか、それからPixiesも。個人的にはブライアン・イーノと同じくらいすごいプロデューサーだと思っている。


余談ですけど、どっちかって言うと北欧メタルよりもアメリカメタルの方が、怒りや憎しみのようなネガティブな感情を多く含んでいるような気がします。今の大統領もあんなだし、アメリカ人はそんなにイライラしながら暮らしているのかしら。経済格差が大きく、嫉妬や羨望の感情を抱きやすいからなのでしょうか。そう考えるとアメリカ人って大変だな。カートがショットガンで頭を打ち抜いた気持ちも今ならわかる気がする。