隣街には、噂の絶えない丁字路がある。
見る人の寿命を映す街灯がある、という話だ。
その丁字路は見通しが悪いため、よく交通事故で亡くなる人がいるのだが、そこで亡くなる人は皆、事故の間際に街灯が点滅しているのを見ているという。
あまりに死亡事故が多発するため、近年ようやく交通反射鏡、すなわちカーブミラーを設置した。
だが、設置してすぐにその反射鏡にまつわる、ある噂が出回った。
その反射鏡に事故で亡くなった霊が映り込むというのだ。
心霊現象に興味のある僕は、その丁字路を深夜に調査しに行くことにした。
人通りの少ない夜の住宅街は、いつ歩いても不気味だ。
車二台がギリギリ通れる道幅に、背丈を超える民家の塀がより一層圧迫感を与える。
しばらくして、ようやく丁字路が見えてきた。
そこにはすでに先客がいた。
路地に座り込み、反射鏡を見つめてガタガタと震えている男性だ。
僕はその男性に近付いて声を掛けた。
「どうしたんです……ムグッ!」
「ばばば、馬鹿!静かにしろ!」
男性に口元を抑えられ、小声で注意されてしまった。
「あああ、あの反射鏡……お前にも映ってるもの……見えるか……」
そう言われて、反射鏡に目を向ける。
右折と左折の両方見えるよう二つ並べられた反射鏡の左折側、明かりの無い真っ暗な路地に、薄ぼんやりした人影が映っている。
背格好や体勢は今僕の隣にいる男性と瓜二つ。
だが、まるで無生物のようにピクリともしない。
「見えますね……」
「だ、だろ? もしかしてドッペルゲンガーじゃねぇかな……」
「ドッペルゲンガー……?」
「なんだ、知らねぇのか? ある人間と全く同じ姿をしてて、そいつと出会うと死んじまうんだよ……」
「そんなまさか……」
「俺も信じたくねぇよ……だからさ……」
男性は耳に口を近付けた。
「お前、見てきてくれないか?」
「はぁ!?」
「しーっ! 静かにしろ!」
僕は慌てて口を塞ぎ反射鏡を見た。
鏡に映った男は依然として微動だにしていなかった。
「頼む! 一生のお願いだからさ!」
初対面の相手に一生のお願いと言われても……
とはいえ、僕も心霊現象に遭遇するために来たわけだしな。
僕は静かに頷き、塀伝いに忍び足で丁字路に近付き、ドッペルゲンガーらしき者がいる方をそっと覗き込んだ……
「おい」
「うわっ!」
曲がり角から急に声を掛けられ、驚いて尻餅をついてしまった。
見ると、街灯の明かりの下に警官が立っていた。
「こんな夜中に何をしとるんだね?」
「あ、いや、えっと、心霊現象をですね……」
「心霊現象~? 馬鹿馬鹿しい」
そう斬り捨てると、僕を無理矢理立たせた。
「どうせストーカーでもしてたんだろう?」
「ち、違いますよ!」
なんで有らぬ疑いを掛けられるんだ!
そうだ、さっきの男性に話を聞いてもらえば……
そう思って、来た道に目を向けた。
「あれ? いない……」
さっきまで居たはずの男性がいない……立ち去る足音も聞こえなかったはずだ……
「何を言っとるんだ? もういいから、早く帰りなさい」
『事故に遭う前にな』
全身に鳥肌が立った僕は、全力でその場から逃げ出した。
見る人の寿命を映す街灯がある、という話だ。
その丁字路は見通しが悪いため、よく交通事故で亡くなる人がいるのだが、そこで亡くなる人は皆、事故の間際に街灯が点滅しているのを見ているという。
あまりに死亡事故が多発するため、近年ようやく交通反射鏡、すなわちカーブミラーを設置した。
だが、設置してすぐにその反射鏡にまつわる、ある噂が出回った。
その反射鏡に事故で亡くなった霊が映り込むというのだ。
心霊現象に興味のある僕は、その丁字路を深夜に調査しに行くことにした。
人通りの少ない夜の住宅街は、いつ歩いても不気味だ。
車二台がギリギリ通れる道幅に、背丈を超える民家の塀がより一層圧迫感を与える。
しばらくして、ようやく丁字路が見えてきた。
そこにはすでに先客がいた。
路地に座り込み、反射鏡を見つめてガタガタと震えている男性だ。
僕はその男性に近付いて声を掛けた。
「どうしたんです……ムグッ!」
「ばばば、馬鹿!静かにしろ!」
男性に口元を抑えられ、小声で注意されてしまった。
「あああ、あの反射鏡……お前にも映ってるもの……見えるか……」
そう言われて、反射鏡に目を向ける。
右折と左折の両方見えるよう二つ並べられた反射鏡の左折側、明かりの無い真っ暗な路地に、薄ぼんやりした人影が映っている。
背格好や体勢は今僕の隣にいる男性と瓜二つ。
だが、まるで無生物のようにピクリともしない。
「見えますね……」
「だ、だろ? もしかしてドッペルゲンガーじゃねぇかな……」
「ドッペルゲンガー……?」
「なんだ、知らねぇのか? ある人間と全く同じ姿をしてて、そいつと出会うと死んじまうんだよ……」
「そんなまさか……」
「俺も信じたくねぇよ……だからさ……」
男性は耳に口を近付けた。
「お前、見てきてくれないか?」
「はぁ!?」
「しーっ! 静かにしろ!」
僕は慌てて口を塞ぎ反射鏡を見た。
鏡に映った男は依然として微動だにしていなかった。
「頼む! 一生のお願いだからさ!」
初対面の相手に一生のお願いと言われても……
とはいえ、僕も心霊現象に遭遇するために来たわけだしな。
僕は静かに頷き、塀伝いに忍び足で丁字路に近付き、ドッペルゲンガーらしき者がいる方をそっと覗き込んだ……
「おい」
「うわっ!」
曲がり角から急に声を掛けられ、驚いて尻餅をついてしまった。
見ると、街灯の明かりの下に警官が立っていた。
「こんな夜中に何をしとるんだね?」
「あ、いや、えっと、心霊現象をですね……」
「心霊現象~? 馬鹿馬鹿しい」
そう斬り捨てると、僕を無理矢理立たせた。
「どうせストーカーでもしてたんだろう?」
「ち、違いますよ!」
なんで有らぬ疑いを掛けられるんだ!
そうだ、さっきの男性に話を聞いてもらえば……
そう思って、来た道に目を向けた。
「あれ? いない……」
さっきまで居たはずの男性がいない……立ち去る足音も聞こえなかったはずだ……
「何を言っとるんだ? もういいから、早く帰りなさい」
『事故に遭う前にな』
全身に鳥肌が立った僕は、全力でその場から逃げ出した。