最近、妻の様子がおかしい
遠くの方を見て考え事をしている時間が増えたし、
私との会話でも、そっけない返事をするばかりで、どこか上の空だ。
―――学生時代、バスケットボール部のエースだった私と
マネージャーであった妻が付き合い始め、
5年の交際を経て結婚。 更にそれから3年間の結婚生活は何不自由なく、
旧知の友人からは身長差からか「でこぼこ夫婦」などと揶揄されながらも、
仲睦まじくやってきたつもりだ。
彼女が塞ぎがちになり始めたのは、今の家に引越してからか。
高い天井、そして広い庭に蔵まであることが気に入り、
郊外にある年代物の旧家を買い取って住み始めたものの、
普段仕事に出掛ける私と違って、家にいることが多い妻にとってはこの町は刺激がなく、
退屈な毎日だったのかもしれない。
今日は体調が優れなかった為、会社を早退して来たのだが、どうやら妻は出かけているようだ。
車庫には彼女の車は無いし、テーブルの上を見るとラップがかけられた料理と、置き手紙がある。
「博美のところに出かけてきます 帰りが遅くなりそうなので、博美と夕飯は食べてきます。
あなたの好きなハンバーグを作って置いたので温めて食べて下さい」
知り合いが全く居ないこの土地で、
隣町の美容院で知り合い意気投合した博美さんのことは妻から聞いていた。
私はまだ会ったことはないが、妻の唯一の友達である。
まぁ、気分転換にでもなればいいだろう。
残念ながら体調の為か、好物のハンバーグにも関わらず食欲は全く沸かない。
私は冷蔵庫に料理をしまった。
「妻は当分帰ってこない・・・」
最近の妻の異変が気がかりだった私は、何か原因が分かるかもと思い、
妻の部屋を調べてみようと思った。
妻の部屋に行ってみると本棚に見慣れない本がある。
「これは『完全自殺マニュアル』か・・・こんなものを何故・・・」
十何年か前に流行った本だが、わざわざ古本屋ででも見つけて来たのだろうか。
私はそれをゴミ箱に捨てると、他に何か妻の異変は無いものかと探すことにした。
すると妻と共有で使っているPCを見ると、
既にファイルは削除済みであったが、ワープロソフトの使用履歴に
「遺書.doc」という名前を見つけてしまった。
そういえば最近、夜中に探し物があると言って、彼女が庭にある蔵に向かうことが多い。
ふと嫌な予感がした私は、戸棚から蔵の鍵を持ち出し、慌てて蔵へ向かう。
鍵を開け、照明のスイッチはどこだったかな、
と思いながら暗闇の中を手探りで進むと、足に何かがぶつかった。
「あったあった・・・」と照明のスイッチを入れた私の目に飛び込んで来たのは、
先が結ばれ輪が作られた梁から垂れる太いロープと、
踏み台代わりなのか、庭いじり用に購入した小さな脚立が置いてあった。
「何てこった・・・こんな物まで用意する程思い悩んでいたなんて・・・」
私は脚立の一番上に昇ると、丁度、顔の前に垂れ下がるロープの輪を手に取り、
その結び目をほどきながら、
妻が帰ってきた時に、これら一連の妻の行動に関してどう話そうか、
彼女の悩みをどう聞きだそうかと考えていた…
遠くの方を見て考え事をしている時間が増えたし、
私との会話でも、そっけない返事をするばかりで、どこか上の空だ。
―――学生時代、バスケットボール部のエースだった私と
マネージャーであった妻が付き合い始め、
5年の交際を経て結婚。 更にそれから3年間の結婚生活は何不自由なく、
旧知の友人からは身長差からか「でこぼこ夫婦」などと揶揄されながらも、
仲睦まじくやってきたつもりだ。
彼女が塞ぎがちになり始めたのは、今の家に引越してからか。
高い天井、そして広い庭に蔵まであることが気に入り、
郊外にある年代物の旧家を買い取って住み始めたものの、
普段仕事に出掛ける私と違って、家にいることが多い妻にとってはこの町は刺激がなく、
退屈な毎日だったのかもしれない。
今日は体調が優れなかった為、会社を早退して来たのだが、どうやら妻は出かけているようだ。
車庫には彼女の車は無いし、テーブルの上を見るとラップがかけられた料理と、置き手紙がある。
「博美のところに出かけてきます 帰りが遅くなりそうなので、博美と夕飯は食べてきます。
あなたの好きなハンバーグを作って置いたので温めて食べて下さい」
知り合いが全く居ないこの土地で、
隣町の美容院で知り合い意気投合した博美さんのことは妻から聞いていた。
私はまだ会ったことはないが、妻の唯一の友達である。
まぁ、気分転換にでもなればいいだろう。
残念ながら体調の為か、好物のハンバーグにも関わらず食欲は全く沸かない。
私は冷蔵庫に料理をしまった。
「妻は当分帰ってこない・・・」
最近の妻の異変が気がかりだった私は、何か原因が分かるかもと思い、
妻の部屋を調べてみようと思った。
妻の部屋に行ってみると本棚に見慣れない本がある。
「これは『完全自殺マニュアル』か・・・こんなものを何故・・・」
十何年か前に流行った本だが、わざわざ古本屋ででも見つけて来たのだろうか。
私はそれをゴミ箱に捨てると、他に何か妻の異変は無いものかと探すことにした。
すると妻と共有で使っているPCを見ると、
既にファイルは削除済みであったが、ワープロソフトの使用履歴に
「遺書.doc」という名前を見つけてしまった。
そういえば最近、夜中に探し物があると言って、彼女が庭にある蔵に向かうことが多い。
ふと嫌な予感がした私は、戸棚から蔵の鍵を持ち出し、慌てて蔵へ向かう。
鍵を開け、照明のスイッチはどこだったかな、
と思いながら暗闇の中を手探りで進むと、足に何かがぶつかった。
「あったあった・・・」と照明のスイッチを入れた私の目に飛び込んで来たのは、
先が結ばれ輪が作られた梁から垂れる太いロープと、
踏み台代わりなのか、庭いじり用に購入した小さな脚立が置いてあった。
「何てこった・・・こんな物まで用意する程思い悩んでいたなんて・・・」
私は脚立の一番上に昇ると、丁度、顔の前に垂れ下がるロープの輪を手に取り、
その結び目をほどきながら、
妻が帰ってきた時に、これら一連の妻の行動に関してどう話そうか、
彼女の悩みをどう聞きだそうかと考えていた…