会社の裏の狭い道を墨染めの托鉢僧が二人鈴を鳴らしながら歩いて来た。両人とも壮年の方で、ゲタからはみでた白足袋の汚れが道中の長さを感じさせる。車を停めて、わずかばかりの喜捨をした。二人の僧は両手を合わせ『南無大滋観世音』と発句しながら深々と礼をされた。私は心の中で『南無大悲観世音』と発句し深い礼を返した。鈴の音が耳に残り、一日が満ち足りた。念佛法語 (ねんぶつほうご)恵心僧都(えしんそうず)宣給(の . . . 本文を読む
1999年7月21日江藤淳氏は「形骸を断ず」として自死した。今、江藤氏の著書を読み返しても遺産として後世に残すに過ぎない虚しさを感じるが、私の青春時代に夏目漱石や勝海舟を教えてくれた作家として生きている。命の形骸を断じて作家の魂を生かすがごとく。江藤氏の自殺にショックを受けながら、その死因である自殺方法にいくばくかの疑問を感じている。(手首を切って浴槽内で溺死)きょうび、リストカットは「自殺ごっこ . . . 本文を読む
[太陽と月に背いて]天才詩人アルチュール・ランボー役のレオナルド・ディカプリオ、時の大詩人ポール・ヴェルレーヌ 役のデヴィッド・シューリス。退廃した1870年代のパリを舞台に破滅的な愛と芸術に苦悩する若き詩人アルチュール・ランボー の一生を、彼に乗り移ったかのごとく演じたディカプリオの最高傑作です。原題[Total Eclipse]を邦題[太陽と月に背いて]と意訳したセンスに脱帽、よほどランボーと . . . 本文を読む
学生時代の野口健氏が語っていた。彼がエベレストに登ったとき8000m級高山のあちらこちらにゴミや遠征隊の遺棄品を見たと云う。登山ルートには、収容されない(できない)凍死体が残置され、凍土に眠る天然の墓場と化している。キャラバンを組む大規模遠征隊は潤沢な資金に物を言わせ、大量の資材・ガスボンベなどの装備を現地に持ち込み、地元のシェルパを雇い入れる。いくら急進先鋒の腕達者なアルピニストでも、地元のシェ . . . 本文を読む
[Men in Black]猫の首に下げられた小さな鈴の中に銀河系宇宙が現れるところだけキャプチャしながら何回も、彼女と同じに「Wow!」と叫んだ。製作スピルバーグ氏潜在意識の具現化、願望夢想の映像化、ただの冒険活劇ではない深謀遠慮、彼は映画の神様の類だと信じているが、100年後の評価はどうなんだろう?歴史には世紀(100年)という長いサイクルを経て得心することが多くある。[鉄道員(ぽっぽや)]主 . . . 本文を読む
ヒンドゥ教と仏教の渾然としたインド全土から、何万という人々がガンジス河畔のベナレスに集う。まだ明けやらぬ薄明の中、悠久のガンジス河に沐浴し、敬虔な祈りを捧げる人々。ガンジス左岸に昇る煙りは死者を荼毘にふした業火のなごり、ガンジスの茶色の流れは清濁あわせのみ、過去、現在、彼岸にと、流れゆく。岩手県遠野は信仰と民族と馬のふるさと日本の民俗学の父とよばれる柳田国男が書いた「遠野物語」は、遠野出身の民俗学 . . . 本文を読む
5月の連休は岩手県釜石(海側)と盛岡(内陸側)にいた。地元の友人や途中で合流した仲間たちと連れ立って海岸近くの居酒屋へ繰り出した。地酒と海の幸が豊富で、お品書きのタンザクを見るだけでもうヨダレがでそうな店だ。岩手南部杜氏が丹精した地酒「酔仙」を酌み交し、角がピンと立った桃色がかったトロの刺身を見たとき、「あ~、これこれ」と嬉しさがこみあげた。再会の喜びと新たな刺激を受けた楽しい宴もおわり、戦い済ん . . . 本文を読む
6年ぐらい前まで、日曜夜9時になると電気を消してベッドにもぐり込み、枕もとのラジオでNHK第一放送を聴いていた。「日曜名作座」は森繁久弥さんと女優の加藤道子さんが登場人物の声色を使い分け、表情豊かに小説を朗読するラジオドラマだった。新シリーズのアラビアンナイト千夜一夜の第一話が印象に残っている。エルサレムのお姫様は、絵描きの横恋慕のため、美しい顔を呪文とともに醜い獣の顔に変えられてしまった。姫の美 . . . 本文を読む
身体をまっすぐに伸ばし、チカラを抜き、目を閉じて横になる。鼻の先にごく軽い羽毛を乗せていると想像する、その羽毛が少しも動かないように静かに呼吸を整える、ゆっくり数を数え心を安定させる。(数息観)(以下観想する)鶏の卵くらいの大きさの丸薬が額の上に乗っている、この丸薬は、よい香りのするさまざまな妙薬を練り固めたものでバターのように柔らかい。※「なんそ」とは牛の乳から製したバターのようなもの。その「な . . . 本文を読む
20代の後半まで、演歌はキライだった。某電気メーカーの「音響」に籍を置きジャズに明け暮れた時代、稀に心を捉える演歌に出会いその作詞家に私淑に近い思い入れを抱くこともあったが、あくまでも音楽としてじゃなく「詩」の範疇として演歌を見ていた。淡谷のりこさんじゃないけど、あれは音楽ではないと・・・。私のエポックメイキングにもなった演歌は、友人の家で無理やり聴かせられた、美空ひばりの「津軽はふるさと」が最初 . . . 本文を読む