睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

ことばをつむぐ十五の覚悟

2009-09-18 05:57:11 | アート(画・書・創作)
梅雨あけ間近の暑いころ
母の手提げ金庫からお金を盗み家を出た
東海道本線に揺られ駅の待合室に眠り、朝もやにけぶる鳥取駅に着く

鳥取砂丘に立っていた
梨を売る店の、薄っぺらいシートがバタバタと風にたなびき
どんよりと重い雲が幾重も重なり水平線に溶けていた
日本海は茶色にうねり、流木を引き込み逆巻き、泡立つ波が岸を食む
台風が近づく浜辺は人っ子ひとりいない
腹の底から怖かった

来た道を一歩づつ噛みしめるように家へ帰る
母の真っ赤な目を見たときに、またひとつ、十五の覚悟が消えた

母は畳に座り、投げ出した足の親指に糸を張る
木のハンドルを回し、糸をたぐっては両手で捩る
捩って、捩って、細い糸に芯を入れる
はた織機があるでなし・・・、それでも母は糸を紡ぐ

親不孝をした。






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