両切りタバコ「新生」

自動販売機のつり銭めぐりをしているおっちゃんとすれ違った。
カンコーヒーを買おうとポケットから小銭を取り出してるその時に
おっちゃんは現われた。

私の姿を見るなり、スピードを緩めずやりすごして行ったが、
少し行ったスタンドの前にチャリを停めこちらを見ている。
やがてチャリを引いて戻ってきた。

冬のあいだ、おっちゃんの鼻の下には青っ洟がこびりついている。
今年は軍服調のコートにゲートルまがいの編み上げ靴はやめたみたい、
ブルーのスポーツウエア上下に首には毛糸のマフラーを巻いていた。

ちびたタバコをくわえ、
ダイドー自販機の返却口に手を突っ込んでいる。
おっちゃんがくわえている両切タバコが気になった。

初めてタバコを吸ったのは中学生の頃、
煙草と雑貨を営む母の目を盗んで店先のショーケースから
くすねたのは当時もっとも売れていた両切りタバコ「新生」で
確かハイライト(70円)が出始めの頃だった。

オトナの真似をして左の親指の爪にトントンと打ち、
タバコの葉を詰める。
(これをやらないと口の中にタバコの葉が残ってとても苦い)

自分の部屋でこっそり吸ったけど、きっと母は知っていたんだろう。
今はけっこうまともになったけど、持って生まれた性分は直らない、
ダメと云われることほどやりたがる。
ケ・セラ・セラとながれていこう、しかし青っ洟はながさずに。