睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

菩提寺から見るいまはなき故里の光景と大黒柱

2010-08-15 05:42:26 | 時事・世相・昭和~令和

お盆の墓参り
湖の縁の高台にある菩提寺から見おろす光景
この湖底に幼い頃の思い出と
生まれた家が沈んでいる


山と川に囲まれた美しい小さな集落は
県民の水がめという大義と引き換えに
湖の底に没した。

それぞれの「思い」を置き去りにしたまま歴史は刻まれる

山々から流れ出た清流が岩を食み谷をくだり
幾多の支流が集束され、ゆるやかな川となる
大きく蛇行した川の内側に点々とある集落が私の故里

すり鉢の底の集落は
時の歩みも遅々として
貧しさと豊かさを四季に習う村だった

始発のバスは山の端を見え隠れしながら
デコボコ道を喘ぎながらやってくる
停留所で待つ客はのんびりと
いつ着くか分からないバスを待つ

村の中央に大欅を要した神社がある
境内は子供たちの遊ぶ声でさんざめき
太い欅の入り組んだ根っこには
ビー玉やメンコが隠されていた

分校へ渡る長い吊り橋の敷板に穴があき
川面が見える危うさを
子供たちは嬉々として渡る

春には堤防の土手に新芽が息吹き
緑濃い山肌に川霧が立ち昇る

夏には鮎が群れ子供がはしゃぎ
淵の主の黒鯉は水面近くをゆらりと泳ぐ

秋には山裾の葡萄が暗紅色に染まり
山の薬師の鐘の音が遠く低く余韻を残す

冬には木枯らしが落ち葉を吹きため
路地裏のさんさんとした陽だまりに老人が憩う


商家を営む生家は大きな昔造りの二階屋だった
広い土間に設えた木台の上に雑多な商品が並び
天井には金物類がぶら下がっていた

土間を抜ける正面に黒々と鈍く光り立つ大黒柱
子供の腕を回しても届かぬ太い大黒柱に
この家で商いをする祖父の意志がつまっていた

湖に沈む家を思い
涙した母の気持を知らず
大黒柱は湖底に朽ちてゆく。







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