第３章 セカンドオピニオン ９．

９．
　それから、Y先生には手紙を出しておくとN先生は約束してくれた。「今日あなたからこうこうこういう質問があり、かくかくしかじかと答えました、と伝えておきますからね」と。とても温かいものが伝わってきた。

　１時間も割いて私の疑問に答えてくれた上、Y先生の治療を受けることに太鼓判を押してくれた。私の望みどおりの結果になった。不安をとり除き、肩の荷も降ろしてくれた。私はすでに半分病気が癒されたような気分になっていた。冷たい雨がそぼ降る中、遠路はるばるここまで来た甲斐があったというものだ。―N先生を紹介してくれたBさんのご主人に、足を向けて寝られないな…―

　資料を手に受付に戻ると、院長夫人が私を呼びながら、カルテを見て驚いている。いかにも申し訳なさそうな口調で、「6,070円いただきます。こんなにいただいてよろしいでしょうか？」と言ったので、思わず笑みがこぼれてしまった。私の調べによると、１時間で6,070円はチョー安い。夫人の人柄が偲ばれた。
　また、彼女が驚いたところを見ると、Nクリニックでセカンドオピニオンを求める人はまだ稀なのだろうと思った。

　丁重に礼を言い、クリニックを出た。相変わらず雨が降っている。でも、私の心は温もっていた。身も心もずっと軽くなった気がした。　―これで、ためらうことなくY先生の手に委ねることができる…―　天気とは裏腹に、私の心は晴れ晴れとしていた。

　ラッシュアワーの電車の混雑もあまり気にすることなく、私は軽やかに帰宅した。夕食後、図書館でメモしてきた「(財)日本医療機能評価機構」のHP*を、早速のぞいてみる。
　それによると、この機関は、「国民の医療に対する信頼を揺るぎないものとし、その質の一層の向上を図るために、病院を始めとする医療機関の機能を学術的観点から中立的な立場で評価し、その結果明らかとなった問題点の改善を支援する第三者機関として設立された」とある。

　早速N医科大学付属病院やBさんが治療を受けているS医科大学付属病院の評価を見ようとしたが、リストには含まれていなかった。
　調べてみると、単純に両者ともまだ評価を受けていないからだった。全国に何千とある病院のうち、この機関に評価を依頼し、さらにその結果を公表している病院は、まだ多くはないようだ。

　余談になるが、私の居住する東京都稲城市の公立病院はすでに評価を受け、結果を公表している。有名な女性ファッションデザイナーのデザインによる病棟なのだが、「器ばかりが立派で中身が伴っていない」ととかく市民に評されているこの病院の実態が、この評価結果にも表れていた。より質の高い医療を提供するために、一層の努力をしていただきたいものだ。

* http://jcqhc.or.jp/html/index.htm