一昨日2月27日に安倍首相が全国の小中高校に向けて臨時休校を要請したのに対し、滋賀県湖南市長の谷畑英吾氏(公式サイト)が、同日深夜に自身のフェイスブックで下記の文書を発信しました。私が普段から安倍政権に感じている体質を見事に表現していると思ったので、紹介します。
原文はこちらで読めますが、ここにも貼りつけます。長いですが、私は一気に読みました。ぜひ最後までお読みください。
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さて、私の心は今、とても冷静だ。
昨日18時からの政府新型コロナウイルス対策本部での内閣総理大臣発言で、今、全国の自治体がひっくり返っている。私の電話も全国の市長のみなさんからの連絡でじゃんじゃん鳴っていて、今、0時30分。いつまでもみなさんの怒りを伺っていると、こうして文章を編むいとまもない。まさしく、これは、合法的な憲法第8章違反であり、内閣総理大臣による地方自治への不当な介入であり、土足による蹂躙でもある。
おそらく論拠は学校保健安全法第20条の「学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部または一部の休業を行うことができる」と規定される「臨時休業」なのであろう。法治主義国家が守るべき法律には、あくまで権限者は「学校の設置者」と書かれてあり、内閣総理大臣の「要請」なるものに従う必要性は微塵もない。しかも、その「要請」なるものは、口頭で空に向かって叫んだだけなのだ。
しかし、内閣総理大臣が政府対策本部で高らかに宣言し、マスコミが無批判に全国津々浦々まで宣伝したあとで、うちだけ止めますなどということが言える首長はほぼいないだろう。法律上は学校を臨時休業しない選択肢もないわけではないが、その場合は、むしろ、学校現場に混乱を生じ、その結果責任を問われることになる。すでに臨時休業が既成事実として無批判に宣伝され切った後で、それに反する決定を行うためには、挙証立証責任を全面的に背負い込む覚悟と能力がなければ、不可能である。内閣総理大臣は、「要請」と言いながら、無批判なマスコミを通じて「事実上の命令」を下したのも同然なのだ。
ここのところ、首相官邸のTwitterへのリツイートやコメントは首相批判しかなかった。ご自慢の自民党ネットサポーターズにも尽す手はなかったと見える。お手上げ状態だった。その一方で、昭和52年にコレラ騒動で甚大な風評被害に見舞われた和歌山県は、済生会有田病院での院内感染に対して、知事が前面に出て全力投球で県民の不安を打ち消す活動を展開した。それに対して、北海道では、最初の感染者発生に際して、担当職員が記者発表して質問に十分に答えることができずに、知事が会見に引きずり出されて何とか収まった。
それ以降、知事が会見をしてきたが、その成功体験で一歩踏み出しても構わないと感じたのであろう。26日、突然、全道で学校閉鎖を「要請」したのであった。そして、北海道という土地柄からか、道内の市町村はそれを素直に受け入れてしまった。10年前の新型インフルエンザの際に、湖南市として学校閉鎖をしないと決めた直後に滋賀県知事が一方的に湖南市も閉鎖だとマスコミに発表して学校現場が混乱した挙句に学校閉鎖に追い込まれた苦い記憶を持つために警戒していたが、北海道は陥落したと感じた。
そして、そこに光明を見出したのが官邸だっただろう。前日まで、そんなそぶりはまったくなく、厚生労働大臣が汗をかきながら国民の批判の矢面に立って来ていたのに、突然昨日、内閣総理大臣は政府として全国すべての小中高校と特別支援学校に対する3月2日から春休みまでの臨時休業を「要請」したのだ。要請先は設置者である(ほとんどが)首長であるにもかかわらず、そのことには触れずに、「誰か」に向かって臨時休業を要請したのである。
「誰か」と言われれば、県立学校の設置者は知事、一般的な小中学校の設置者は市区町村長である。そして、あろうことか、「要請」する理由として「子どもたちの健康・安全を第一に考え」と言い放ったのである。大陸での7万人に及ぶエビデンスのどこに子どもたちの健康・安全を「第一」に考えなければならない数字があったのか。これまで政府が言ってきたのは、季節性インフルエンザとの比較をして過度に恐れるなであり、それに次いでは高齢者や基礎疾患のある人の重症化を防ごうということではなかったのか。
本来であれば、春陽の頃に武漢市から大陸全土に広がった500万人が運んだウイルスを防止するために、1月中旬には大陸全土からの人の動きを止めるべきだったのだ。それが、春節のインバウンド特需に目がくらんで、国民の命と健康を天秤にかけたと言われても仕方がない政権の判断の選択だった。ガメラ2のセリフではないが、ここで花が咲いてしまっているので、今の負けは分かりきっていたことでもあるのだ。しかも、その後も今に至るまで国境を閉鎖しないことについては、大陸の首領である人民解放軍中央軍事委員会主席と、大陸の奥深くまでサプライチェーンが伸びた経団連に忖度したのかと言われても反論はできないのではないか。
大陸での死者の数が重ねられ、世界各国が大陸からの渡航を禁止するなか、唯一と言っていいほどわが国が暴風の吹き荒れる大陸への窓を開けっぱなしにしたことについて、命と健康への脅威に対する国民の強烈な反発は、政権にとって予想外だったようだ。常識で考えればわかるようなことに対する想像力が届かないのであれば、本来、政治を扱う資格はない。そして、本当であればウイルス対策の初期に動員すべき医療資源をダイヤモンド・プリンセス号の対応に投入し続け、ただでさえ少ないわが国の資源をすり減らしてしまったうえ、ウイルスの国内侵入を許してしまった。次に行うべき手段は、ワクチンも即効薬もない以上、ウイルスの感染拡大の防止しかない。
実は、新型インフルエンザ等対策特別措置法では、第32条第1項で「政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与える恐れがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(略)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(略)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする」と「緊急事態宣言」が定められている。
宣言が行われた緊急事態において、政府対策本部の「基本的対処方針」に基づいて行う都道府県知事等に対する政府対策本部長(首相)による総合調整に基づく措置が実施されない場合には、「必要な指示をすることができる」とまでされているのである。政令で定めるウイルス性疾患として新型コロナウイルスを「閣議決定」で指定すれば、この総合調整権に基づく指示を行うことができたはずであるのだが、それでは内閣総理大臣に責任が生じてしまう。内閣総理大臣の責任を回避するための知恵が「要請」行為ではなかったのか。
しかし、ウイルスの感染拡大の防止は、学校閉鎖だけで実現できるものではない。社会として面的に防衛しなければ、子どもたちだけを止めても、その一方で、経済活動も流通活動も人の移動も全面的に継続しているなかでは、どんどんウイルスはまん延していくだろう。「子どもたちの健康・安全を第一に考え」と言いながら、経済活動も流通活動も人の移動も許しているので、ウイルスのまん延は収まらない。それなのに、なぜ学校だけが閉鎖されるのか。それは自治体には言いやすいが、経済活動や流通活動を止めろと経団連に対しては言えないからではないのか。
そもそも、安い労働力を確保するために製造業への派遣労働を解禁し、女性活躍の名のもとで女性を短時間労働で雇用し、一億総活躍の名のもとで高齢者労働力を生み出し、外国人を労働力としてだけでなく地域コミュニティへの「移民」として増やしてきた。それに唯々諾々とした政策を組み立ててきたのだから、地域の疲弊はムベなるかなである。
そこまでして、日本経済に忖度しておきながら、今回の突然の学校閉鎖は、経済の場で活躍するべき女性を直撃する。ひとり親家庭や共働き家庭の子どもが学校に行けなければ、学童保育所に行けばいいじゃないかというかもしれないが、待機が出るほどの爪先立った状況の現場で、明日から学童保育所の指導員を増やしますなどと簡単にできるはずがない。預けるところがなければ、自分たちが休んで子どもの面倒を見るほかない。そうすると収入を絶たれることになる。
北海道知事の26日の「要請」は、今日になって、家庭で子どもの面倒を見なければならない看護師たちが多数出勤できなくなり、緊急対応ができなくなった帯広厚生病院に集約された。これが3月2日以降の日本の姿だ。医療現場だけでなく、女性の労働力に依存してきたあらゆる中小企業現場がこれで崩壊する。女性だけではない。休むのは男性でもよいが、1億総活躍で家庭生活に余裕がないくらい爪先立って共働きを強いられた労働者が一斉に中小企業の現場から家庭に戻れば、人手不足で倒産が重なることになるだろう。
本来は、経済活動を止め、流通活動を止め、人の移動を止めて子どもたちの受け皿を作ったうえで学校を閉鎖すべきだったのだ。経済活動や流通活動を止める際には、経営補償をすればよいのだが、その金をケチったとしか思えない。緊急に赤字国債を発行すれば何とでもなっただろうが、財務省が止めたのだろう。経済活動や流通活動に対する補償をせずに、学校だけを閉鎖し、母親が家庭に戻っても、自主的なことなので国はその補償はする必要がないし、人手不足で中小企業が倒産しても自己責任なのでその補償をする必要もない。そして、それを「要請」した内閣総理大臣には責任がないのだ。いったい誰がこんなことを考えついたのか。
しかも、言うに事を欠いて、特別支援学校まで閉鎖しろという。現場を知って発言しているのだろうか。知らないのであればそれもひどいが、それよりも知っていて、小中高校のついでに加えたのであれば、国民一人ひとりに寄り添う気持ちが全くないと言える。鯛は頭から腐るという罵詈雑言を浴びせられて怒っていたようだが、怒ることもできない国民生活と国民経済は末端から腐っていくことだろう。
しかし、私たち首長は、政府に雇われているわけではなく、政権を守るためにいるのではない。全国の市長たちからの電話を受けていろいろと話し合ったが、やはり、私たちは住民のために責任を果たさなければならないのである。夜が明ければ、全国の首長たちが住民生活と地方経済を守るために立ち上がることだろう。そろそろ帰ろうかな。
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(※文中の段落分けは、ブログ管理人によります。読みやすいように、改行されている箇所に単純に空白行を挟んだだけです。)
谷畑氏は、2018年6月から約1年間、「全国市長会」の副会長を務めた実績があるのですね。それで、「私の電話も全国の市長のみなさんからの連絡でじゃんじゃん鳴っていて」なのですね。
日本の近代社会史を勉強していると、日本の政界と経済界・財界との癒着構造が朝鮮戦争後の特需時期に端を発し、現在まで延々と続いてきたことがよくわかります。今回の新型肺炎への政府の対応にも、それが表れているということですね。
この構造とアメリカへの従属を変えられない限り、同じことが何度も繰り返されることでしょう。一国民としてできることは何か…それぞれが真剣に考えないと、本当に日本社会は崩壊してしまうかもしれません……。