26.
病気になる以前から、私は漢方薬をよく利用していた。常用はしていなかったが、風邪のひき始めや体が冷えているとき、肩こりがひどいときなどに葛根湯を頓服として何回か使うとたいがい悪化は防げ、とても重宝している。薬剤師である地元の友人Qさんが以前漢方系のクリニックに勤めていたので、彼女から回してもらう数種類の漢方薬には、家族で本当にお世話になった。中でも私は、抗生物質を服用すると婦人科系の病気を発症してしまう*ため、極力その使用を避けてきたので、漢方薬の恩恵に負うところは大きかった。
私が漢方に興味を持つようになったのには、ヨガのS先生の影響があるかもしれないが、何年も前にたまたま古本屋で見つけた本との出会いが大きく影響していた。
それは、石野尚吾氏による『女性のための漢方全科』*という著書で、体質別・体力別・症状別に自分で漢方薬が選べるようになっている。体の中で気・血・水の何がどれくらい滞っているか、また体力面の充実度が実証・中間証・虚証のうちのどれに当てはまるかについて、まず自己診断できる。それから、症状別にチャート式の質問に答えていくと、自分の体と症状に合った薬がわかる仕組みなのだ。西洋医学との違いや併用に際しての注意点についても詳説され、また症状に合わせたツボ刺激の方法も教えてくれる、なかなかの優れもので、私は長年愛用してきた。読みやすいばかりではなく、何より読み物としておもしろいので、用がないときもよくめくっていた。
今回も、Y先生の診療を待つ間、今の自分に合う漢方薬を求めて、これをあちこちめくっていた。冷え、ほてり・のぼせ、腰痛・肩こり、疲労・倦怠感、更年期の不定愁訴…これらの症状別にチャートを辿っていくと、どこでも必ずご対面するのが八味地黄丸(はちみじおうがん)*だった。これが私の今の体に合うに違いない…そう確信するに充分だった。
そこで、「私には八味地黄丸が合うと思うのですが…」と先生に言ってみると、先生はくだんの本をパラパラとめくり、成分を見て、「茯苓(ぶくりょう)が入っていますから、いいかもしれませんね」と言う。先生がよく用いるという桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)*の主成分が茯苓だからだろうか。それが根拠として充分なのか、いまいち説得力に欠ける気がしたが、私の希望が通るならそれでいいと思った。しかも、保険が適用されると言うので、被爆二世としての医療助成も受けられる。とりあえず3週間分出してもらうことになった。
Y先生は、処方箋を書きながらこんなことを言った。「のんびりさんはのんびりさんでいいですが、K畑さんのように『転ばぬ先に杖』タイプの人も、決して悪い方向へはいきませんのでね。早め早めに対処できますから…」 これは私に対する励ましなのだと思った。と同時に、この先生は私のセルフメディケーションを信じ、後押ししてくれているのだと感じた。私の性格や考え方を把握した上で、そうすることが改善につながると判断したのだろう。
私が声を上げて苦笑すると、先生も快活に笑った。
*抗生物質が悪い細菌ばかりではなく良いものまで抑えてしまうため、抗生物質が効かないカンジダ菌などの真菌類が相対的に活性化、増殖してしまう結果発症する。婦人科の医師ならずとも医師はこのメカニズムを知っているので、抗生物質の処方が必要なときはその旨を伝えると、量を減らすなり弱い薬を出すなりの匙加減をどんな医師も必ずしてくれる。
* 『女性のための漢方全科』はAmazon扱いの「女性の医学に関する書籍の売れ筋ランキング」で17位に入っている。(2008年10月6日現在)
* 八味地黄丸
* 桂枝茯苓丸
病気になる以前から、私は漢方薬をよく利用していた。常用はしていなかったが、風邪のひき始めや体が冷えているとき、肩こりがひどいときなどに葛根湯を頓服として何回か使うとたいがい悪化は防げ、とても重宝している。薬剤師である地元の友人Qさんが以前漢方系のクリニックに勤めていたので、彼女から回してもらう数種類の漢方薬には、家族で本当にお世話になった。中でも私は、抗生物質を服用すると婦人科系の病気を発症してしまう*ため、極力その使用を避けてきたので、漢方薬の恩恵に負うところは大きかった。
私が漢方に興味を持つようになったのには、ヨガのS先生の影響があるかもしれないが、何年も前にたまたま古本屋で見つけた本との出会いが大きく影響していた。
それは、石野尚吾氏による『女性のための漢方全科』*という著書で、体質別・体力別・症状別に自分で漢方薬が選べるようになっている。体の中で気・血・水の何がどれくらい滞っているか、また体力面の充実度が実証・中間証・虚証のうちのどれに当てはまるかについて、まず自己診断できる。それから、症状別にチャート式の質問に答えていくと、自分の体と症状に合った薬がわかる仕組みなのだ。西洋医学との違いや併用に際しての注意点についても詳説され、また症状に合わせたツボ刺激の方法も教えてくれる、なかなかの優れもので、私は長年愛用してきた。読みやすいばかりではなく、何より読み物としておもしろいので、用がないときもよくめくっていた。
今回も、Y先生の診療を待つ間、今の自分に合う漢方薬を求めて、これをあちこちめくっていた。冷え、ほてり・のぼせ、腰痛・肩こり、疲労・倦怠感、更年期の不定愁訴…これらの症状別にチャートを辿っていくと、どこでも必ずご対面するのが八味地黄丸(はちみじおうがん)*だった。これが私の今の体に合うに違いない…そう確信するに充分だった。
そこで、「私には八味地黄丸が合うと思うのですが…」と先生に言ってみると、先生はくだんの本をパラパラとめくり、成分を見て、「茯苓(ぶくりょう)が入っていますから、いいかもしれませんね」と言う。先生がよく用いるという桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)*の主成分が茯苓だからだろうか。それが根拠として充分なのか、いまいち説得力に欠ける気がしたが、私の希望が通るならそれでいいと思った。しかも、保険が適用されると言うので、被爆二世としての医療助成も受けられる。とりあえず3週間分出してもらうことになった。
Y先生は、処方箋を書きながらこんなことを言った。「のんびりさんはのんびりさんでいいですが、K畑さんのように『転ばぬ先に杖』タイプの人も、決して悪い方向へはいきませんのでね。早め早めに対処できますから…」 これは私に対する励ましなのだと思った。と同時に、この先生は私のセルフメディケーションを信じ、後押ししてくれているのだと感じた。私の性格や考え方を把握した上で、そうすることが改善につながると判断したのだろう。
私が声を上げて苦笑すると、先生も快活に笑った。
*抗生物質が悪い細菌ばかりではなく良いものまで抑えてしまうため、抗生物質が効かないカンジダ菌などの真菌類が相対的に活性化、増殖してしまう結果発症する。婦人科の医師ならずとも医師はこのメカニズムを知っているので、抗生物質の処方が必要なときはその旨を伝えると、量を減らすなり弱い薬を出すなりの匙加減をどんな医師も必ずしてくれる。
* 『女性のための漢方全科』はAmazon扱いの「女性の医学に関する書籍の売れ筋ランキング」で17位に入っている。(2008年10月6日現在)
* 八味地黄丸
* 桂枝茯苓丸