「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

済々黌先輩英霊列伝㉕「回天」天武隊・八木 悌二「散らば蕾で散り果てむ、咲かで散るのが花の華」

2021-04-02 18:17:48 | 続『永遠の武士道』済々黌英霊篇
人間魚雷特攻「回天」天武隊
八木 悌二(やぎ ていじ)S18卒
「散らば蕾で散り果てむ、咲かで散るのが花の華」
   
 八木悌二は、大正15年2月に阿蘇郡黒川村で生れた。父親は小学校校長をしていた為、後に熊本市に移っている。黒髪小学校六年のとき剣道、相撲ともに主将を務めた。13年4月済々黌入学。同校でも頭角をあらわし、文武両道に秀で、四年生のとき生徒長をつとめ学業成績は一番。視力不足のため海軍兵学校をあきらめ、海軍機関学校と陸軍士官学校を四年在学中に受験し、両方とも合格した。

 16年12月、海軍機関学校(第54期生)に進んだ。19年夏には戦艦「大和」や戦艦「金剛」で分隊士を務め、9月に海軍少尉に任官した。

20年には潜水学校に学び、更に回天特攻隊員となった。4月の沖縄作戦で「大和」を旗艦とする日本海軍の海上部隊は殆ど全滅し、航空部隊と潜水部隊のわずかが残った。この残り少ない潜水部隊も従来の様な局地への突入作戦を続行したなら早期の全滅を免れない。そこで、4月下旬から潜水艦作戦は回天も含めて洋上作戦へと切り替えられた。八木等8名は「天武隊」と命名された。

 4月22日、八木が搭乗する回天を載せた伊三六潜水艦は光基地を出撃、27日黎明、沖縄とサイパンを連結する線の中央付近で、敵の大輸送船団に遭遇した。直ちに回天4基が出撃、突入して多大の戦果を収めた。八木中尉19歳での戦死だった。八木中尉には家族宛の書簡や「出撃前の所感」が残されている。

【出撃前父母宛書簡(20年4月20日)】
 拝啓 祖母様はじめ皆様、益々御元気のことと推察致しおります。私も、益々士気旺盛、訓練に邁進致しおりますれば、御安心下さい。戦局は、日に日に重大の度を加え、吾等青年士官の血は躍り、肉盛り上るの感を深からしめます。敵の侵攻意図は一頓挫を来たしたかの感を与えますが、決して侮るべからざる攻撃力と精神力により、再び来襲するでありましょう。我等もまた、其の機に備えるべく、毎日、夜を徹して努力いたしております。人間到る所青山あり、と昔より言われておりますが、武人たるべき者は、青山が武人の価値を支配します。宜しく武人は、武人にふさわしい青山を選ぶべきであり、近き将来、必ずや八木家の名を此の世に現さしめるでありましょう。期して、其の報をお待ち下さい。
 八木家の跡継ぎは元気旺盛なる逸郎によって、立派に保たれるでありましょう。後顧の憂いなき私は何んと幸福者でありましょう。
 断じて征かん南海の涯まで。
 最後に皆様の御健康と御多幸を祈ります。
 四月二十日            悌二
父母様

【出撃前、当時小学校4年生の弟宛書簡(同)】
 逸郎さん、元気で学校に通っていますか、兄さんはこの前の休暇の時(三月十日)、逸郎さんの元気そうな顔を見て、毎日安心して訓練しております。兄さんが戦死したら、逸郎さんです。兄さんは誰にも負けないような手柄をきっと立てます。
 逸郎さんは、兄さんよりさらに立派な人になって、お国のために働いて下さい。兄さんの最後のお願いは、それだけです。幼い時から、逸郎さんが好きだった兄さんは、きっと戦死した後も、草葉のかげから見守ることでしょう。
では、おばあさん、お父さん、お母さん、お姉さんの言われることを良くきいて、なまけた時は、兄さんの最後のお願いを思い出し、きっと、お役に立つ人になって、兄さんを喜ばして下さい。では兄さんは、今から元気で征きます。
 四月二十日            兄より
逸郎さん

【出撃の前夜の所感】
 敵神州に侵攻す。我れ神風となり、今より壮途につかんとす。余の本懐、之に過ぐるはなし。唯、敵艦轟沈あるのみ。生を神州に享けしより二十年、後顧の憂なきは、上は陛下、下は父母弟妹、親族一同、諸先輩の御蔭にして、余の最も感謝しおる所なり。
 断行を期す。最後に、皇国の必勝を祈念すると共に、皆様の御健闘をお祈りし最後の言葉となす。誓って期成功(成功を期す)
今頃は父母も夢路を辿(たど)るらん
今より征(ゆ)くぞ敵轟沈に
彼も人我も人なり同じ人
断じて敗けじ大和九州男(やまとくすお)は
あだどもを撃ちてし死なむ君のため
何か惜しまむ捧げたる身を
幾年(いくとせ)を雲湧く阿蘇に住みなして
耕す人ぞなつかしきかな
阿蘇山の峰谷々に白雲の
湧くや筑紫の海のつづきに
 大和桜は朝日に匂ふ
    散らば蕾で散り果てむ
        咲かで散るのが花の華



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