「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

対馬の漁民に自警船を強いた憲法九条の冷酷(『祖国と青年』平成17年10月号掲載)

2006-06-10 20:05:11 | 【連載】 日本の誇り復活 その戦ひと精神
「日本の誇り」復活
―その戦ひと精神(四)
対馬の漁民に自警船を強いた憲法九条の冷酷―弁護士会主催の「憲法問題シンポジウム」で紹介した現地の証言

 今年五月に熊本日日新聞で、憲法九条に対する私のインタヴュー記事が掲載された事が契機となり、熊本県弁護士会から同会主催の「憲法問題シンポジウム」のパネリストとしての登壇依頼があつた。日本協議会綱領には、「新憲法・新教育基本法の制定、以て真の独立国家日本を創造する行動家たらん」との文言がある。弁護士会は護憲派の牙城であるが、敵地たればこそ進んで登壇して論破すべきであらう。私は「発表時間など改憲派・護憲派に公平に保証される運営ならば、出演しても構はない」と条件を提示して了承した。その結果、改憲派から私と橋本二郎氏(司法書士・陸軍士官学校出身)、護憲派からは木村浩則氏(くまもと九条の会事務局長・熊本大学教育学部助教授)と加藤修氏(熊本県弁護士会人権擁護委員長)が登壇する事となつた。 
 シンポジウムは九月十七日の午後に熊本学園大学の教室で開催され、約七十名が聴講に訪れた。第一部では日本弁護士連合会を代表して宮尾耕二氏が「憲法は何のために誰のためにあるのか」と題して講演、次に「憲法九条はどうあるべきか」をテーマに各パネリストが発表、その後参加者の質問に答へる形態だつた。
 私は、①世界に誇る「平和憲法」など妄想に過ぎない事の証明、②外国の不当な圧力から国民の人権を守れない現実、の二点から憲法九条を批判した。第一点については、憲法九条に見られる様な平和条項は、憲法を持つ193ヶ国中148ヶ国の憲法に銘記されてをり世界中が「平和憲法」を既に持つてゐる事を提示した。内訳として「平和政策の推進」が48ヶ国、「国際協和」が75ヶ国、「国際紛争の平和的解決」が29ヶ国、「侵略戦争の否認」が13ヶ国、「国際紛争を解決する手段としての戦争放棄」が5ヶ国(日本・イタリア・ハンガリー・アゼルバイジャン・エクアドル)、「(自衛戦争以外の)軍隊の不保持」がコスタリカ・パナマの2ヶ国、などを紹介した。(西修先生の駒澤大学法学部研究紀要『世界の現行憲法と平和主義条項』から引用)
 次に、憲法九条が国家国民の体質となつた結果、戦後日本で如何なる事態が生起したのかといふ観点から北朝鮮拉致事件に言及し、更に対馬に於ける韓国密漁船の問題を話した。実は直前の九月十二日、私は日本会議福岡の梶栗事務局長と共に対馬に調査に赴いてゐた。幸い学生時代以来の同志奥村市郎氏(小学校教諭)が対馬に在住してをり、氏から上対馬町比田勝の有力者の武末裕雄氏に趣旨を話してご協力を戴く事となり、上対馬町の海上保安署と漁業協同組合に案内して戴く事となつた。海上保安署では、韓国の潜水器密漁船について話しを伺つた。今春でも四月に五回、五月に二回確認されてをり、船内外機を二~三基着けて、速力四十ノット(時速七十キロ)で逃走する密漁船の写真も見せて戴いた。上対馬町漁業協同組合では、更に詳しいお話を聞く事が出来た。かつて海上保安部だけでは韓国密漁船を排除出来ない現実があつた為に漁協は自衛策を講じた。昭和五十五年頃に独自の「自警船」を配備、韓国密漁船を発見すると直ちに追跡、海上保安部にも通報した。漁民たちは、なたを持つて密漁ロープを切つて回つた事もある。更に平成元年には北対馬の二ヶ所に漁協独自のレーダーを設置し二十四時間監視体制を敷く。その様な中で悲劇が起こった。平成三年に韓国の大型底引き網船の密漁をレーダーで発見、不寝番の扇勇氏が直ちに自警船で出動し一人で追跡した。海上保安部にも連絡し応援を依頼したが中々到着せず、密漁船は排他的経済水域の境界線を超えて逃走、扇氏も追尾した。その後扇氏からの連絡は途絶えた。翌日、転覆した自警船を韓国船が曳航して来たといふ。扇氏の消息はその後解ってゐない。実は海上保安部は境界線までしか追跡してをらず、扇氏は見捨てられたのだつた。扇氏の息子さんは、扇氏の葬儀の時に涙を流して抗議したと言ふ。それ以外にも単独で追跡する自警船は幾度も事故に会つている。海上保安庁の対応が変化し、取り締まりが強化されたのは平成十三年の九州南西海域における工作船事件が起こり、国家が強い意思を示してからである。それ以来、密漁船は少なくなつて来てゐる。自警船も平成十二年で任務を終了した。それでも、『海上保安レポート2005』によれば、韓国漁船の不法就業は日本領海内で28隻、排他的経済水域内で3167隻が確認されてゐるが、検挙に至つたのはわづかに5隻といふ惨状である。
 現実の重みは大きい、私は、「日本人拉致事件は最大の人権蹂躙問題であり、漁民の生存権・生活権の保護も人権問題である。それに目をつぶるような弁護士会であつてほしくない。」と訴へた。
 一方、護憲派は何を主張したか。日弁連の宮尾氏は「憲法とは個人の人権を保証する為に、国家権力を縛るのが役割。」と未だに国家と個人を対立してしか考えきれないマルクス主義残滓の論を展開。
加藤氏は、「戦後日本の平和は九条のおかげ。憲法改正すればアメリカの戦争に巻き込まれる。国際貢献は非軍事部門ですれば良い。近隣諸国と友好関係を保つのが一番。」と観念的平和主義者の意見を述べた。木村氏も「中国が日本にミサイルを向けてゐるのは日本が敵対してゐるから。九条の会には自衛隊を認める人も入つてゐるが、憲法改正はアメリカと一緒になつてどこへ行つても戦争をする為のもの。」と自虐・反米主義を表明した。 
 私達は、平和を愛さない外国の不当な権力から国民の人権を守れる憲法に改正すべきだ、と主張するのに対して、護憲派は、アメリカに追従して戦争をするのを防ぐ為に九条は必要だと主張するのである。どちらが真実に迫っていたか。終了後、日本会議や日本女性の会の関係者からは、圧勝で気分が良かつたですと賛辞を戴いた。二人の弁護士からも、意見が全く同じですと握手を求められた。

 自警てふ言葉悲しも国境のたみ漁民ら自ら起ちて戦ふ
 海峡に眠る勇士の悲しみを思へば怒り天を衝くかも
  

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