JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
 猫小説とか色々書いています。
 

転生したら飼い猫だった件 (転生編)4

2022-12-23 14:02:24 | 日記

ーーあれから数日が過ぎた。

ーー人間は我が三毛猫の雌だと知っても扱いを変えることはなかった。

ーー食事も、水も十分に与えられ、虐待せれることもない。

ーーもっとも、新しい飼い主とやらは毎朝決まった時間にでかけ、だいたい決まった時間に帰ってくる。なので我と向かい合うのも、朝出かける前の時間と、帰ってきてからの数時間ーー。

ーーそれも、我の食事の用意と、汚してしまった物の片付け、あとは我の身体を暖かな布で拭いてくれたり、頭や身体を撫でたり…。

 ………。

ーー人間よ、それでよいのか?

ーー我は別に良いのだぞ。

ーー美味な食事を与えられ、新鮮な水を与えられ、暖かでふわふわの寝床を与えられ…。

ーーじゃが、人間になんの得があるというのか…。

ーー人間と暮らすということはもっと、飢えや痛みが伴うものと思うておった…。

ーーだが、待てよ。

ーーあの、公園に現れた同胞…。

ーー公園から消え、しばらく立って現れた同胞は毛艶もよく、動きも軽やかになっていたあの同胞は…。

ーー人間に名を貰い、食事・水を饗され、撫でられたり、抱かれたりと、愛情を注いでもらっている、と申していたではないか…。

ーー我はそれで人間に夢を見た。

ーー結果、その夢はこれ以上ないほどの虐待で裏切られた…。

ーーじゃが、今の状況雄は…。

ーー我は、今は飼い猫なのか…。

ーー部屋を見回す。

ーー静かだ…。

ーーここには我を脅かすものはなにもない…。

 ………。

 

■ ■ ■

 

ーー我は物音で気がついた。

ーーいかん、我は暖かな布の敷かれた箱に入り、眠り込んでしまっていたようじゃ…。

ーーこの音は…。

ーー女が帰ってきた音か…。

「ミケちゃん、ただいま」

ーーこれこれ、そんなに不躾に我を見るでない。

ーー我はそっぽを向いた。

ーーそっぽは向いたが、人間の気配には気を配っておる。

ーーいきなり物を投げつけられたり、我のいる箱を蹴飛ばされてはかなわんからな…。

「ミケちゃん、いい子にしてた?」

ーー一旦、我の許を離れた女が、我の箱を覗き込んだ。

ーーおおッ。

ーーか、顔が変わっておる。

ーーこの女は朝と夜では顔が変わるのだ。

ーー朝、起きると我の食事の水の支度、あとは我のトイレのチェックをしたあと鏡に向かう。そこで顔に何をを塗りたくったり、パタパタしたり、なんちゃらして、顔を変えてしまうのだ。

ーーで、帰ってくると元の顔に戻す…。

ーー人間とは変わったことをする生き物なのだな…。

ーーだが、我を虐め抜いたあの人間はやっておらなんだから、顔をパタパタする人間は我らを虐めぬ人間なのか…。

ーー解らぬ、人間という生き物が我には解らぬ…。

「ーーいい子にしていたミケちゃんには、コレです」

ーー人間が空になった皿を下げたあと、新たな皿に目新しい食事を盛り付け、我の前に差し出した。

ーーな、なんと。

ーーコレは特級おやつ”チュール”ではないか?

ーー公園にいたときは、ごくたまに、少量しかもらえんかった幻のおやつ…。

ーーチュール。

ーーこれ、我がもらっていいの?

ーー全部?

ーー我は人間を見上げた。

「赤ちゃん用のチュールだよ。栄養がたくさんあるからいっぱい食べてね」

ーー我は目の前に差し出されたチュールを食した。

ーーうまいッ!

ーーこの人間に関わってから、我はうまいものしか食しておらん。

ーー我は、本当に飼い猫になれたのか…。

ーーこの人間は、本当に我を虐めたりはせぬのか…。

ーーチュールは美味いが、我の心は晴れん。

ーーこの何不自由のない生活が、この人間の気まぐれであったなら…。

 

 ■ ■ ■

 

ーー残念ながら、我の予感は的中してしまった…。

ーー昨日の夜から、我は食事を与えられなくなった…。

ーー水は少しはもらえるが…。

ーー気のせいか…人間の様子も沈んでおるような…。

ーーそうか、もう我に飽きてしまったのか…。

ーーそれもよい、我を虐めさえしなければ…。

ーーなんなのだ、この心に荒む寒風は…。

ーー我は、人間になんて、なんの期待もしていなかったもんね。

ーーそしてこれからも…。

ーー我は人間に掴み上げられ、ゲージに入れられた。

ーーそうか、我はあの公園に帰るのだな…。

ーーだが、感謝しようぞ人間。そなたは我を虐めることだけはせなんだな…。

 

■ ■ ■

 

ーー予想に反して我が連れて行かれたのは、あの”病院”という場所であった…。

ーー人間はしばし椅子に座り、ケージの端から手を入れ、我を撫でたり声をかけたりしておったが…意味はあまりわからんかった。

ーーただ「ごめんね」という言葉は聞き取れた。

ーーやがて、人間は扉を開け”先生”と呼ばれる人間の前に我を引き出した。

ーー先生は我の身体を色々触り、人間と何やら小難しい話をしておったが、やがて我を抱き上げ、並んだ檻の一つに我を入れ、そっと扉を閉めた。

ーーここは…。

ーーここは、我が最初に意識を取り戻した場所。

 ………。

ーー我はどうなるのだ?

 

■ ■ ■


転生したら飼い猫だった件 転生編 3

2022-12-22 02:47:27 | 日記

ーーミケ…三毛…。

ーー我は三毛猫であるのか?

ーー三毛猫…。

ーー三毛猫の雄といえば、人間の間ではレア的な存在ではないか…。

ーーそれで、この人間も我を虐めぬのか…。

ーーそもそも我らの毛皮の模様で待遇が変わるのには納得がいかぬが、それでもあのような虐待を受けなくて良いのなら…。

ーー三毛猫バンザイッ!

ーー我は有頂天であった。

ーーだが、その幸せは、長くは続かなかった…。

 

■ ■ ■

 

「三毛猫の雌ですね」

ーー最初に、我が意識を取り戻した病院、とやらで「先生」と呼ばれていた人間の言葉に我は打ちのめされた。

ーー三毛猫の雌…。

ーー我はこの間までは立派な雄猫であったのに…。

ーーなんで、雌?

ーー我は男の娘になっておったのか…。

ーーあぁ…。

ーーこの人間は我が雌だと解ったら、どういう反応をするのだろう。

ーー三毛猫の雌は、珍しい個体ではない。

ーーならば、我は、我は、また…。

ーー嫌だ、もう、あのような目に遭うのは…。

ーー苦痛と飢餓と絶え間ない恐怖…。

ーー我は…我は…。

「それじゃあ、怪我はそう酷くはないので、この間の薬を飲ませて、ご飯で栄養をつけてあげて下さい」

ーー先生の言葉を聞きながら、女が我をケージに戻した。

ーーこの間は箱だから、元気になった今なら脱走の望みもあったが、今は頑丈なケージ…。

ーーコレでは脱走することもままならん。

「はい、解りました。あとは避妊ですね」

ーーこれは、女の声。

「そうですね…」

ーー頭上で難しい言葉が飛び交っているが、どうでもよい。

ーーあぁ、我はこれからどうなるのか…。

ーーどうしてこんなことになったのか…。

 我は途方に暮れた。

 


転生したら飼い猫だった件 (転生編)2

2022-12-17 01:08:08 | 

ーーな、何ということだ、我が仔猫になっておる。

ーーど、どういうことじゃッ

ーーなどと、慌てているすきに我は箱の中に…。

ーー出せ、出さぬかッ!

ーー我をどうする気ぞッ!

ーー嗚呼、箱が揺れておる。

ーーなんぞ、何をする気じゃッ!

ーー箱の動きが止まった、今じゃ。

ーーだが、登れんッ。

ーー少し前までは、こんな高さは一飛びであったのに…。

ーー爪も立たん、嗚呼…仔猫になってしまったからか…。

ーーだが、何故じゃ。

ーー何故、こんな姿に…。

ーーまた、箱が動き出しおった。

ーー我はどこかに運ばれておる。また、あの地獄が始まるのか…。

ーーやっと、開放されたと思うたのに…。

ーー我は震えた。

ーーまた、あの飢餓・苦痛・恐怖…。

ーー我は耐えられぬ、また、あの…。

ーー我は恐慌に全身を包まれ暴れ、鳴き叫んだ…。

ーー箱の揺れが止み、置かれたのが気配で解った。

ーーいよいよ始まるのか、あの地獄が…。

ーー箱が開かれた。

ーー?

ーーそこは我が思っている場所とは違ごうた。

ーー我がさっきまでいた部屋は暗く、乱雑で、匂いも酷い場所であったが…。

ーーここは違う、明るくて、酷い匂いもない。

「猫ちゃん、今日からここがあなたのお家だよ」

ーーあの”飼い主”とやら呼ばれていた女が我に呼びかけおった。

ーー家などどうでも良い。早う我を放たぬか。

ーー人間の姿など見とうもないわ。

ーー我はあの公園で、また自由気ままに暮らすのだ。

「はい、猫ちゃん、ごはん」

ーー暴れる我を僅かな時間放置しておった女が、何やら我の前に差し出しおった。

ーー途端、我は身をすくませた。

ーーまた、打(ぶ)たれるのだと思うた。

ーーだが、目の前に置かれたのは皿で、中には香りの良いものが置かれておった。

ーーこれは…。

ーー我は知っておるぞ。これは猫缶というものぞ。

ーーこれを、食してよいのか?

ーー我が?

ーーいやいや、我は人間など信じてはおらん。

ーーどうせ、我が口にしようとした瞬間に、皿を遠ざけるに決まっておる。

ーーえ?

ーー食してよいの?

ーー我は我の様子を伺う女を見上げた。

ーー女には皿を取り上げる気配がない。

ーー本当に、食して良いのか?

ーーいやいや、それなら、なにか良からぬものが入っているとか…。

ーー前は猫缶の中に辛い刺激物を入れられ大変な目に遭ったのぞ。あの人間はそれを見て、さらに四角い物体を我にかざし、笑っておったわ。

ーー我は、あの顔は忘れはせぬ。

ーーあの苦痛も、屈辱も忘れはせぬ。

ーーだが、辛いところを除ければ食べれんこともないかも知れん。

ーー我は、空腹に負けてしもうた。

ーー!

ーーうまいッ。

ーーなんじゃ、この食べ物は。

ーーさっきのものも美味であったが、コレはコレで…。

ーー我は一時ではあるが警戒心を忘れ、ただ、ひたすら目の前の食事を平らげた。

ーーうまい、本当にうまい、身に染みる。

ーー我は、これだけで、仔猫にされたことを忘れた。

「水も置くね」

ーー不意にかけられた声と、目の前にもう一つの皿を置かれた気配に、我は飛び退いた。

ーー途端に箱に身体が当たり、目の前の食事と、新たに置かれた皿を倒してしもうた。

ーー痛恨なり…。

ーーあの男は汚い部屋に住んでいながら我が物を倒したりすると、我を頭上まで持ち上げ、そのまま床に叩きつけ、蹴り、隅に逃げた我を引きずり出し、何度も壁に叩きつけおった。

「ごめん、ごめん、猫ちゃん、驚いたね」

ーー女は我の身体を掴むと箱から取り出し…。

ーーそっと、傍らに置くと、箱の中の物を取り出し、汚れたシーツを外し、ついでとばかりに箱の中に何かを入れたり出したりしはじめおった。

ーーあの…。

ーー何もせぬのか?

ーーそうだ、逃げよう。

ーー今なら女の気は箱の中に逸れておる。

ーー今のうちに逃げ出し、あの自由な公園へ…。

「あッ、逃げちゃダーメ」

ーー声を発した女に我は掴まれ…。

ーー床に叩きつけられるッ、それとも壁かッ!

ーーと、思うたときにはまた元の箱の中にそっと置かれ…。

「お水もどーぞ」

ーーあの…箱に戻しただけ?

ーーな、なにもせぬのか?

ーー本当に?

ーーでは、もう少し食すとするか…水も、少し…。

ーープハ。

ーーうまかった。ここの水も透明で、うまかった…。

ーー我は満足じゃ。

「それじゃぁ、失礼して」

ーー美味な食事と、透明な水で満足をした我の身体を女が掴み上げた。

ーーな、何をするのじゃッ!

ーーやはり、やはり、図っておったかッ!

ーーおのれ、人間ッ!

ーー許さぬぞッ、人間めッ!

ーーお、これ…な、何をしておる。

ーーそんな、温かいティッシュで、我の大切な場所を刺激するでないわ。

ーーこれは、もしや…、しゅ、羞恥プレイか。

ーー我の、猫族の自尊心をなんだと思うておるッ。

ーーやめろ、やめんかッ! さもないと…。

 チー。

ーーあ、我としたことが、とんだ粗相(そそう)を…。

「上手にデキたね、偉い、偉い」

ーー女は我の身体を箱にそっと戻し、我の粗相を吸収したテッシュを箱の中に設置された更に小さな箱の中に置くと…。

「ここがトイレだよ、ほら…」

ーー女は我の身体を再び掴み上げると、小さな箱の中にそっと下ろした。

ーーこれは…砂か…。

ーー公園のものとは違うが…。

 掻(か)いてみる。

 ザッシュ、ザッシュ…。

ーーウホ、楽しい。

ーー公園時代を思い出す。

「猫ちゃーん、寝るのはこっちね」

ーー砂を掘りまくる我を、女が掴み上げた。

ーー何をするのだ、我は、もっと砂で遊ぶのだ、砂の上の方が落ち着くのだ。

ーー再び砂の入った箱に登ろうとする我を、女が押し留めた。

ーー何をするのだ、人間、我はこっちのほうが好きなのだ…。

ーーだが、はたと我は我に帰った。

ーー人間に逆らえば、また虐待される、ということを思い出したからじゃ。

ーー我は一瞬で身を強張らせた。

ーーその身を女が掴み上げ、さっきはなかった柔らかなタオルの上に我を乗せた。

「寝るのはこっち、ご飯とお水はこっちで、チッチはこっち」

ーー女は、我の身体をいちいち対象物に向けながら、我に声をかけ…。

ーーそれから、我の身体をタオルの上に置き、そっと上からまたタオルをかけた。

「猫ちゃんは元気だねー」

ーー女は我に語りかけた、静かな、低い声でゆっくりと。

ーーあの人間のように一方的で、攻撃的ではなく、ゆっくりと、まるで我に語りかけているかのように…。

「猫ちゃんはね、お母さんとはぐれちゃったみたいで、その後、探し回っているときにカラスに狙われて怪我をしちゃったんだって、他にも、身体は衰弱しているし、ノミとかもいたから治療をしてもらったんだよ。怖かったね、大変だったね」

ーー何を言う、我をこのような身体にしたのは人間ぞ。

ーーあの人間が、我の身体を切り刻み、我にありとあらゆる暴力を加え、我をーー我をーー。

「可愛そうだったね」

ーー不意に、女が我の頭を指で撫でた。

ーーそのあまりの自然さに、我は躱(かわ)すのも攻撃することも忘れた。

「もう大丈夫だからね、私と一緒に暮らそうね」

ーー一緒に暮らす? 冗談ではない、二度と人間などと暮らすものか、我はあの公園へ帰るだ。

「そうだ、猫ちゃんの名前を決めないとね」

ーー女が我の頭を指で撫でながら口を開いた。

ーー名などいらん、もう、もう二度と人間になんぞ関わるなどごめんじゃ。

 我は女の手から逃げ回った。

 だが、女の掌(てのひら)は我の動きを読むように、我の頭をなで上げる。

「猫ちゃんは三毛猫だから、ミケでいいね」

 女は優しく我の頭を撫でおった。

 


転生したら飼い猫だった件 転生編

2022-12-14 00:08:29 | 

ーー痛い…。

ーー苦しい…。

ーー寒い…。

ーー許さぬ、許さぬぞ…人間め…。

ーー嗚呼(ああ)…もう…どれほど飯を食っておらんのか…。

ーー嗚呼、痛い、苦しぃ…そして…。

ーー恨めしい。

ーー我は信じたのだ。

ーーあの、伝説を…。

 

 我の住む公園という場所には野良猫と呼ばれる同胞がたくさんおった。

 我々だけではない、鳥や、虫や、様々な生き物がそれぞれに生活をしておった。

 我らはいつも空腹で、食べるものを探し、己の縄張りを死守することのみが生活であった。

 だが、そんな我々を助けてくれる人間がおった。

 その人間たちはよく我らに食事を与えてくれた。

 我々のいる公園にはたくさんの同胞がいる故に、毎日が満たされる訳ではなかったが、うまい食事が得られることはこの厳しい世界での唯一の救いと安らぎであった。

 そんな中、我々の仲間がその人間に連れ去られる事もあった。

 何でも地域猫活動、とかで我らを捕獲し、避妊手術をし、許の場所に放つーー。

 という活動らしい。

 我らの許に戻ってきた同胞の話では、ちと狭いがそこでは食事も水もふんだんに与えられ、温かい寝床も与えられ、そして腹にちと痛みは走るが、なんの問題もなく生活を送ることができる、との話であった。

 だが、中には戻ってこない同胞もおった。

 ある日、一匹の同胞がやってきた。

 だが、其奴(そやつ)は見違えるほど毛並みが整い、眸や爪の色艶も良くなっておった。

 動きも軽やかで、何でも名をもらい、飼い猫になった、という話であった。

 飼い猫とは、人間と一緒に暮らすこと。

 好きなときに食事と水を与えられ、心地よい寝床が用意され、ときに人間に遊んでもらうーーという何不自由のない生活を送っている、とのことであった。

 我は憧れた。

 その飼い猫生活に。

 我は信じた、人間に連れ去られ、この場に戻らぬ同胞は何不自由のない飼い猫になったのだと。

 人間には我らに興味のない者。

 興味があり、我らの幸せを願いながら、我らの生活の手助けをしてくれる者ーーコレが地域猫活動とかいうものらしい…。

 そして、一緒に暮らすと決めた我らに食事と寝床を供し、責任を全うする者。

 我は憧れたのだーー。

 いつも、食事を運んでくれる人間…。

 たまに頭や身体を撫で、我の身体を抱き上げ、その腕に包んでくれる人間。

 もっと触って欲しかった。

 もっと、その腕に包んで欲しかった。

 だから、その伝説級の「飼い猫」という存在に憧れたのだ…。

 飼い猫になれば、もう飢えることも、熱暑に喘ぐこと、極寒に凍えることもないと、そう思うておった。

 だから、ワシはその籠に入った。

 だが、我は知らなんだ。

 人間には我が思いも及ばん人種ががおったことをーー。

 公園には我らを邪険にし、時には物をぶつける不届き者も確かにおったし、たちの悪いいたずらをする者がいたことも事実じゃ。

 だがーー。

 我を捕まえ、このような暴虐を加える種類の人間がおったとは…。

 

ーー無念じゃ…。

ーー我はこの密室で、あらゆる暴虐を受けた。

ーー身体は血まみれぞ。

ーー籠ごと水につけられ、身体は冷え切ておる。

ーーもう、回復する気力も体力も残ってはおらん…。

ーーおのれ、人間…。

ーー必ず、この恨み晴らさず置くものか。

ーーいつか再び見(まみ)えたときには、我は必ずこの恨みを晴らす。

ーー今はもう、剥ぎ取られてないが、必ずこの爪でうぬの身体を引き裂き、この牙を打ち立て、引き千切り、必ず、必ずこの恨み晴らさず置くものか…。

ーーおのれ、人間…。

ーー呪って、祟って、必ず目にもの見せてくれるわ…。

ーーあぁ、もう目が見えん。

ーーあぁ、我は…われ、は…。

………。

 

■ ■ ■

 

ーー光り輝く場所、幸福感が我を包んでおる。

ーーなんじゃ、目の前に光輝くものが浮いておる…。

ーー猫さん、お疲れさまでした。お辛い目に遭われましたね…。

ーー誰じゃ、そなたは? 「お辛い」じゃと? そんな生ぬるいものではないわ。嗚呼あれ程の痛み飢餓感がない、そうか我は死んだのか?

ーーよかった、もうあの苦痛を味合わなくてすむ。

ーー嗚呼、本当に良かった…。

ーー猫さん、あなたはこのまま逝かれて良いのですか?

ーー誰じゃ、そなたはさっきから。

ーー我はこの世にはうんざりじゃ、この世には恐怖と苦痛と屈辱と空腹しかなかったわ。嗚呼ーー思い残すのはあの人間…あの人間を八つ裂きにしてやらなんだことは残念じゃが、致し方がない、我はもうあのような苦痛も恐怖も味わいたくはないわ。

ーー嗚呼、人間とは本当に恐ろしい生き物ぞ。思い出すだけで全身が総毛立つわ。

ーーあなたはそのままでいいのですか?

ーーなんじゃ、お前はキラキラしおってからに…察するにお前さんは我の導き手であろう?

ーーそうです、ですがあなたは本当はーー。

ーー本当は何じゃ、おぉ、お主、姿が消えかけておるぞ、我は、我はどうなるのじゃ?

ーーあぁ、行くでない。そなたに行かれてしまったら我は、我は…。

 

■ ■ ■

 

ーーちゃーんーー。

 ?

ーー猫ちゃん。

ーー誰だ、我を呼ぶものは…。

ーーちゃん。

ーーあぁ、全身が痛い、苦しい…だが、温かい…。

ーー猫、ちゃん…。

ーーえぇぃ、猫ちゃん猫ちゃんうるさいわッ、第一、それは我に対する呼びかけなのか……?

ーー猫ちゃん、頑張って…。

ーー嗚呼うるさいわッ。我にはもう考える力もないわ…。

 

■ ■ ■

 

ーーうん? 明るい…ここはどこぞ?

「あぁ、気がついた」

ーーなんじゃ、うぬは見かけぬ姿ぞ…ん、身体が動かぬ…。

「もう大丈夫、猫ちゃん今日はここでゆっくりしようね」

ーーなんじゃ、気安く我に触るでない、人間風情がッ。聞いておらぬのか? 持ち上げるでない、無礼者がッ!

「猫ちゃん、明日には飼い主さんが迎えに来るからね、もう大丈夫…」

ーー何が大丈夫であるものか、全身は痛いし、声も出ぬし、身体も思うように動かせん。あぁ、眠い、何だこの暖かさは…瞼(まぶた)を開いておれん…。

 

ーー騒がしい、どこだここは…。

ーー同胞の匂いがする…犬や他の動物、そして人間の匂いがプンプンするぞ。

ーーどこなのだ、ここは…。

ーーぬ?

ーー目の前にあるコレは食事と水ではないか…。

ーー我のか? 我が食してよいのか。

 左右を見回し。

ーーうむ、我しかおらぬし、我が食べてもいいよね。

ーー我のだよね。

ーーあとから来ても知らないもんね。

ーーだって、この狭い場所には我しかおらんもんね。

 一口ぱく。

ーーうまいッ!

ーー嗚呼、何という…この柔らかさ、こんなうまい食べ物は食べたことがないわッ。

ーー我、食べちゃうもんね。

ーー全部我のだからね、コレで何日生き延びられるか…。

ーーあぁ、うまいッ! 水も飲んじゃうもんね、綺麗で澄んだ水なんて、何年か振りかだもんね。

「ご飯美味しい? 猫ちゃん」

 !

ーーいつの間にか人間がおる…あの人間ではないが…。

ーーなんじゃ、まだ我を虐め足りんのか?

ーー今度は何をするつもりじゃ、足を切るのか、それとも残ったこの片眼かッ!

ーー許さぬ、許さぬぞ、人間ッ!

「フーフー言ってますよ先生、元気になって良かったですね」

「本当に良かった、連れてこられたときは心拍が弱くて、正直間に合わないかと思ったけど、良かった」

ーーあぁ、もう一人人間が近づいてきたッ。

ーーこちらを見るでないわッ、この場から去らぬとこの爪でッ!

ーー爪で…っていうかなんであんの? あのときに引き抜かれてしまったはずなのに…そしてーー。

ーー小っさッ!

ーー我の手小っさッ爪小っさッ!

ーー縮んだ、我の手縮んだ…?

ーーっていうよりコレって仔猫の手だよね。

ーー何だコレ…?

ーー我は栄養失調と虐待で、精神がおかしくなってしまったのか…。

ーーこの珍妙な現象は何なのだ…。

「ちょうどよかった、飼い主さんが迎えに来たよ」

ーー来たって、飼い主とはあの男か…?

ーー己ーー許さんぞッ! 

ーーこら、我に触るでない、我はここを気に入っておるのだッ

ーー嗚呼ーー我を掴むでないわッ!

 !

ーー掴む?

ーー我、そんなに小さかったか…?

 呆然…。

「おまたせしました、飼い主さん…猫ちゃん元気になりましたよ」

ーー飼い主…誰ぞこの女は?

ーー何じゃ、何を話しておるのじゃ、そんな早口で、連続して話すでない。い、意味が解らん。

ーー何じゃ、その箱は。

ーー我を、我を閉じ込めるのか。

ーーその箱を振るのか、それとも水に落とし込むのか、おのれーー許さぬぞッ!

ーー今は我も自由の身、そんな箱に押し込められる前におのれの皮膚をこの鋭い爪で…。

ーーってか小っさッ! ないはずの爪が小ッさッ!

ーーは? なにこの現象?

ーーは?

ーー我、首を摘まれておる…? 我は痩せておるとはいえ成猫ぞ。

ーーガラスになにか映っておる。

ーーそれは先生と呼ばれ、我をこの面会室とやらに連れてきた男と、看護師と呼ばれる女、そして仔猫の首を摘み、反対の掌(てのひら)でその身体を包んでいる女ーー。

ーーその掌の中にいる仔猫とは…。

ーーいやいや、そんな訳はない。

 我は首を左右に振った。

 そして見た、女の掌の中の仔猫も首を左右に振ったのをーーッ!

 

■ ■ ■

 


一色達也殴られる (魔性より)

2022-11-29 16:01:44 | 日記

 一色達也(いっしき たつや)は困り果てていた。

 三條一冴(さんじょう いっさ)の機嫌が悪い。

 原因は解る。

 溝口紫央(みぞぐち しおう)ーー。

 溝口は三條の想い人であった。

 溝口は警視庁公安警察に所属する凄腕の捜査員であった。

 その溝口が、潜入捜査で一色たちの通う高校にやってきた。

 当時、一色たちは三條を中心に教師イジメに専念していた。

 一色たちの親はそれぞれ大企業を経営し、三條の父親に至っては政治家との太いパイプを持った政財界の大物であった。

 一色たちに怖いものはなかった。

 ある夜、一色たちは三條に誘われるまま、男子教師を襲い強姦した。

 鶴見教雄(つるみ みちお)というその教師はその後、自殺をした。

 遺書も残さず、早朝の校舎からの飛び降り自殺であった。

 自体を重く見た警視庁は私立・愛染学苑に潜入捜査員を送り込んだ。

 それが溝口だった。

 一色たちは溝口に逮捕され、少年刑務所に放り込まれた。

 それまで、なんの苦労もなく、将来も約束された一色たちであった。

 当然、報復した。

 捕らえた溝口に筆舌に尽くし難い拷問を繰り返した。

 一時は心神喪失まで追い込んだ溝口だが、一瞬の油断を疲れ、一色たちは半殺しにされ、今度は刑務所に叩き込まれた。

 一色たちは手を引こうとしたが三條は懲りなかった。

 執拗に溝口に固執した。

 そして、生け捕りにした溝口を拷問の末、記憶喪失までに追い込んだ。

 だが、溝口を助け出した者があった。

 溝口は最初に一色たちに捉えられ、過剰なまでに暴行し脱出した時点で警視庁を馘(くび)になっていた。

 だが、それは表向きのことに過ぎなかった。

 溝口は警察が表立って着手できない事件に関わり、殺し屋に狙われていたのだった。

 記憶を取り戻した溝口は一色たちの新しく起こした会社に殴り込んできた。

 その時、一色たちはまだ溝口に執着する三條を持て余していた。

 溝口は三條を支配し、ついでに一色たちも支配してしまった。

 以来、一色たちは溝口の営む小さな探偵事務所でこき使われる日々を送っていた。

 警視庁が表立って関われない事件を裏から捜査するのに、探偵という仕事は都合が良かった。

 少年刑務所と刑務所に相次いで叩き込まれた自分たちを身内は敬遠し、その身柄を溝口に預けてしまった。

 三條以外には、いい迷惑としか言いようがない。

 その三條が機嫌が悪い。

 どこがいいのか、三條は溝口に恋い焦がれていた。

 あまりの執着に溝口は警戒した。

 三條たちは溝口を囚えるために、両親を人質にとっている。

 手元で監視。

 それが溝口の決断だったのかもしれないーー。

 その溝口が2日前から姿を消していた。

 浮気や人探し、などといった探偵の仕事は三條たちと一緒に出向くが、なにか危険な仕事には溝口が一人で出向く。

 それが三條には気に入らないのだ。

 三條は怯えている。

 いつか、溝口が自分の許を去るのではないかとーー。

 そんなことはないと周囲が慰めても、三條は聞かない。

 自分が溝口に好かれる要素がないと、ただひたすらに落ち込む。

「あーあ、しかし、溝口もよー」

 三條の醸し出す陰気さを振り払うように一色が口を開いた。

「ケチらないでもっとヤラせてやればいいのによぅー」

 溝口と三條は身体の関係がある、最も身体の関係があるのは三條だけではない。

 一色・三條・大久保澄也(おおくぼ すみや)犬飼克馬(いぬかい かつま)の4人は溝口を強姦し虐待しまくっている。

 だが、心が通じての関係は三條だけであった。

 だが、滅多にヤラせてもらえない。

 それでいて姿をせすのだから、三條の不安は耐えない。

「大体、今更ケチるような間かよ」

 一色はペットボトルから水を飲んだ。

 一色は外に通じる扉には背を向けていた。

 何気なく見た、三條たちの顔が引き攣っている。

 それを認識したときには頭部に衝撃を受けていた。

「誰がケチだ」

 聞き覚えのある、だが、今は聞きたくない声に、一色は全身を強張らせた。

「いえ、あの…別に、溝口さんのことを言ってるわけじぁ…」

 一色は口ごもった。

「まぁ、いい」

 溝口は席で凝固している4人を見回した。

「溝口ぃ」

 御門真聖(みかど まさき)が溝口の傍らに駆け寄った。

 真聖はただ一人、溝口に敵意見せなかった青年だった。

 溝口も真聖は可愛がっていた。

「溝口さん、だろう? 呼び捨ては駄目だと言ってあるだろう」

 頭を撫でられる真聖を見て、三條がまた不機嫌になった。

「はーい」

 おとなしく頭を撫でられている真聖を見て、犬飼も不機嫌になった。

 犬飼と真聖もデキているのだった。

「よし、行ってよし」

 溝口が真聖を押しやった。

「お前たち、高橋さんに渡す資料はちゃんと纏めたか?」

 溝口が三條に声をかけた。

 高橋とは、先日夫の浮気調査を依頼しに来た主婦であった。

「はい、バッチリ、画像も声も撮れました。コレで慰謝料間違いなし」

 三條が封筒を引き出しから取り出した。

「そうか、なら、お前たち今日は上がっていいぞ」

 溝口が自分の椅子に腰をおろしながら口を開いた。

「え、いいんすか? まだ3時スよ」

 犬飼が身を乗り出した。

「たまにはいい、明日からはこき使う」

 溝口はパソコンを立ち上げながら口を開いた。

「やった、真聖、前に言っていた店に連れて行ってやるよ」

 犬飼が真聖の腕を掴んだ。

「俺達も、羽を伸ばすかなー」

 大久保が一色をうながした。

「そうだな」

 浮気調査といえどもまだまだ調査員駆け出しの一色たちには緊張の連続であった。対象者に気づかれる事があれば、溝口に容赦のない叱責を受ける。

「お前はいいのか?」

 大久保が三條に声をかけた。

「俺は、いい」

 三條は座ったまま溝口を見つめていた。

「あ、そう?」

 一色は大久保を促して事務所を出た。

 凶悪で、乱暴でも、ただ一人の三條の想い人が溝口であった。

ーー報われるといいな、三條…。

 さも、愛おしい者を見るような眸を溝口に向けていた三條の残像に一色は声をかけた。

 荒れに荒れ、人を人とも思わぬ傍若無人な自分たちの前にただ一人立ちふさがり、自分たちを更生に導いてくれたのが溝口であった。

 誰にも心を開くことがなかった三條の、唯一の心の拠り所が溝口であった。

ーーしかし、あの二人が…。

 世の中は解らないものだと、街の雑踏に踏み出す一色の唇が笑みを刻んでいた。

 

■ ■ ■

 コレは前に出した「魔性」のパロです。

 DLsiteさんでダウンロードできます。

 まぁ、本もまだたくさんうちにあるのですがーー。

 凶悪な4人組ですが、今はホンノ180ページ状態です。

 なんか、久しぶりの原稿なのでドキドキしています。

 よかったら感想とかリクエスト、お聞かせ下さいね