モダンローズの祖先:カタログその2 と バラの絵師ルドゥーテ
前回は、モダンローズの祖先としての基本種3品種(R.ガリカ、R.ダマスケナ、R.アルバ)を紹介した。
いずれも、1800年代初期のマルメゾンの庭園にあったジョゼフィーヌのバラたちであり、
現在のバラ図鑑と異なるところがあるはずだ。
3人の皇后に愛されたルドゥーテ
これを描いたのは、バラの絵師ルドゥーテ(Pierre-Joseph Redouté 1759-1840)で、
彼の若い頃の生い立ちを「ゼラニュウムをペラゴニュウムに名前を変えた男」の項で紹介した。
若き画家ルドゥーテを育てたのは、レリティエール(L'Héritier de Brutelle, Charles Louis 1746-1800 )。
自分の著書の植物画を描くアルバイトを探していたところルドゥーテにあった。
彼は、植物画に必要な植物学をルドゥーテに教え、イギリスまで連れて行った。
このイギリスで輪郭線を取り除く銅版画の新しい手法をルドゥーテが学んだ。
フランスに戻ってからは、マリーアントワネット皇后のところでの働き口を紹介し、
ここから、ジョゼフィーヌ皇后、マリー・ルイーズ皇后に仕えることになる。
ただし、マリー・ルイーズの場合はルドゥーテの絵画教室の生徒でもあった。
フランス革命をはさんだこの時代に生きたレリティエールは暗殺、マリーアントワネットは断首刑、
ジョゼフィーヌはナポレオンとの離婚後病死、マリー・ルイーズはナポレオンの失脚後の変遷など
ばら色とはいえない物語だが、後世に燦然と輝くのは、ボタニックアートの傑作『バラ図譜』であり、
マリーアントワネットの庭園、ジョゼフィーヌの庭園に咲いていた美しくもトゲがあるバラだった。
アートとして、植物として我々の時を潤してくれる。
モダンローズの祖先たちのカタログとしては情緒的な始まりだが、4~7番目に移ろう。
4.ロサ・ケンティフォーリア(南ヨーロッパ)
Rosa centifolia Linnaeus ロサ・ケンティフォーリア
※ ビジュアルは、Rosa Centifolia Foliacea(一般名: Leafy Cabbage Rose)
・英名キャベジ・ローズCabbage Rose プロバンス・ローズProvence Rose
・花はソフトピンクを中心とした花色
・大輪で中心が4つに分かれる。花弁数は約100枚でケンティフォーリア・ローズ(百枚花弁の花)と呼ばれるゆえん。
・英名のキャベジ・ローズもキャベツに負けないほどの花弁の巻きをさしている。
・樹高100cm、株はいわゆるブッシュローズ
※ダマスケナ系とアルバ系の雑種といわれるが、紀元前数千年からの自然実生で、コーカサス東部で野性のものが見つかる。フェティダやガリカのように人為的に西に移されたと考えるようになってきた。
※ヨーロッパには1596年に移入したという説があり、17世紀後半にオランダで品種改良がされる。
5.ロサ・フェティダ(イラン・イラク・アフガニスタン)
Rosa foetida Herrmann ロサ・フェティダ
※ビジュアルは、Rosa Foetida Bicolor(Austrian Copper Rose)
・英名Austrian Brier Rose(オーストリアン・ブライアー・ローズ)
・原産地は、黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス山脈の山麓といわれる。
・花は濃黄色で、黄色のモダンローズの品種改良で重要な役割を果す。
・この変種である上記版画のRosa Foetida Bicolor(英名オーストリアン・カッパー・ローズ)は、花弁の外側が赤又はオレンジで、内側が黄色となる。
・花径5-7cm、花弁数5枚
・乾燥期の香りは臭いほど強い。種小名のFoetida(悪臭のある)もこれによる。
・1542年にヨーロッパに伝わり、オーストリアから入った。
・Rosa foetida bicolor (Jacquin)Willmottロサ・フェティダ・ビコロール(英名オーストリアン・カッパー・ローズAustrian Copper Rose)の学名上の母種
※ルドゥーテ『バラ図譜』では、169品種描かれた中で2品種しかかかれていない。ジョゼフィーヌの庭園にもこの品種は少なかったのだろう。理由はお分かりのように悪臭のせいだろう。
※しかし、'''黄色のバラの品種改良では重要な存在'''となる。
6.コウシンバラ(中国)
Rosa chinensis Jacquin ロサ・キネンシス
※ビジュアルは、- Rosa Chinensis Cruenta(Blood Rose of China)
・和名コウシンバラ、中国名月季花、長春花、英名China Rose Bengal Rose
・コウシンバラの意味は庚申=(かのえさる)で60日に一度あることをさす。
・中国四川省、雲南省原産で野生種は一重咲き。
・花は濃い紅色、1枝に3―5輪つく
・花径5-6cm、花弁数10-15枚外側がやや剣弁になる。
・花は薬味風の香りがある。
・樹形は直立性
・四季咲き性によりガリカ系のバラと交雑が繰り返され、'''現在の四季咲き大輪のバラが確立された重要な基本種'''。
・1752年にスウェーデンに入り、1792年ヨーロッパに紅色花で八倍体のコウシンバラが伝播する。
※ルドゥーテの『バラ図譜』には2種掲載されており、この図鑑で最初に掲載されたバラが何とコウシンバラだ。それだけ1800年初期には貴重なバラだったのだろう。
7.ノイバラ(日本原産)
Rosa mulltiflora Thunberg ロサ・ムルティフローラ
※ビジュアルは、Rosa Multiflora Platyphylla(Seven Sisters Rose)
・和名ノイバラ、英名Mulltiflora Japonica
・花は白色、
・花径2.5-3cm、花弁数5枚、
・花期は5-6月、円錐花序で多数の花をつける。
・香りよい。
・耐寒性、耐暑性、耐乾性、耐湿性、耐病性が強いため、改良品種の基本種となる。
・'''ポリアンサ系、フロリバンダ系の親'''となる。
※日本の野生種のバラは、明石の古墳から三木茂が1936年に採取した化石があり、今から400万年―100万年前ののものという。
※ルドゥーテの『バラ図譜』では2品種が掲載されているが、花の色が白ではなく品種改良されたものがマルメゾン庭園に存在していた。ということは、1800年以前にヨーロッパに伝わっていた。
※実際のノイバラ :(参照:リンク:ボタニックガーデン)
(続く)