鉄線
ばばの命日に実家に行く。
ばばの形見の「鉄線」が咲いていた。
好きな花だ。昨秋母が作ってくれたドレスにも、
鉄線が伸びやかに刺繍してあった。
これ、「クレマチス」よ。と母は言う。でも私は「鉄線」と言う。
この花の名前は、ばばの少しあとに亡くなった清水先生(声楽の先生)が教えてくれた。
レッスンに行くと、素晴らしい彫刻が施してあるチェストの花模様がそれはもう素敵で、
飽きず眺めていると「鉄線よ」とおっしゃった。
ばばと、先生。大事な二人が同じ年に逝ってしまった。
あれからもう13年か。
鉄線を見るたび、私は怠け者の自分を恥ずかしく思う。
隠れたくなる。
けど、いつも見守ってくれてるのを知っているから、
隠れようったって、だめだね。
風の中で「一生懸命生きなくちゃね」と鉄線が囁いた。
君子蘭が「花なら咲くべし」と言った。