不景気である.
友人はどんなに働いても正社員になれる可能性ゼロだし,そのまた共通の知人はいわゆる自動車産業で働いていたのだが解雇された.
いつも元気で明るく,リーダーシップを発揮していた頼れる人だったが,今は消息不明.
カルトに走ったらしい.
それも不景気の影響が大きい.
彼には妻子がいるのだが,解雇された.
以前から彼のリーダーシップを見込んで接触していたらしいカルトから提案があったそうだ.
「同じだけの給料を出しますからうちの教団に来て下さい」
背に腹を変えられない事情もあったことは明白な時代だ.
実を手放した状態でいるか,実も名も手に入れるかという選択だ.
ふっきれたとも聞くが,家族共に消息不明.
日本にいるのかどうかもわからない.
彼が岩塩で味付けした牛肉を豪快に焼いて,奥さんが作った絶品のサルサソースをたっぷりつけて,子どもを笑わせながら食べる.
おそらくもう二度とそんなことはないだろう.
嗚呼,腹が減ってきた―――いや,彼を懐かしく思う.
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