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またまた間隔が空いてしまった2連詩100題ですが、今回は散文詩で、かつつながりのあるものにしました。それって見かけ上はほとんど小説と同じで、どう違うのかって訊かれると書いた本人も説明に困るところがあります。
途中まで書いて捨てたものもいくつかあって、今までになく苦労しましたが、詩においては苦労した方が出来はよくないみたいです。まあ、人生においてもしばしばそうなのかもしれませんが。……もうこんなことはしない方がいいという教訓を得たのが収穫かなと思います。
041 システム
来週の土曜日、彼が東京に来る。
何年ぶりだろう。
あの島を出てから、あの島の人間に会ったことはない。
同窓会にも行かない。
島が好きだとか、嫌いだとかじゃない。
あたしの中にいつもあの島はあって、あたしの行動と思考を操作している。
別々の街に住んでいる彼も同じだろう。
退屈な島はそんなことをしているのが楽しいのかな。
042 十字架
あたしたちは子どもの頃、海辺に出て、砂に何が埋もれているか当てっこをして遊んだ。
あの貝殻は海の怪物の耳なの。
あの瓶は秘密基地のドアのスイッチなんだ。
ある日、ずっと遠くの浜まで歩いて行ったときに杭のようなものが立っているのを見つけた。
波が木を食う虫のようにその表面を浸食していた。
あたしたちは顔を見合わせただけで、お互い何を思ったかわかった。
あの杭の下には園にいるイエス様が埋まってるって。
043 正直
シスターは嘘つきな子が大嫌いだったから、あたしたちは嘘ばかり吐いてた。
時々船に乗ってやって来る神父さんは清潔好きで、子どもたちに触りたがらなかった。
「大人って好きなことを嫌いなフリをするんだ」
彼はそう言って蟹を捕まえて脚をもいでいった。
父親のいないあたしと母親のいない彼は雲のない空みたいだった。
自由で空虚で、捉まえどころがない。
小学校から中学校まで、島にいる間ずっと一緒に孤独だった。
今でもカレーを食べるとシスターの作る黄色のカレーライスを思い出す。
044 情報操作
島の人たちは腰をかがめ、目を合わせないようにして歩いていた。
夏のじりじりする陽射しの下でも、冬の飛ばされそうになる潮風の中でも。
午前と午後1回ずつ船が来るけれど、海が荒れると何日も来ない。
人通りも減って、島のシステムが起動する。
観光地もなければ、おいしい魚も獲れないのにたまに旅行客が来た。
煤けた民宿に泊まって、3日もしないうちに帰って行く。
港でくらげだらけの海面を覗き込みながら待ち遠しそうにしていた。
045 知らんぷり
海流のせいで港には絶え間なく砂が流れ込んできた。
赤錆びた浚渫船がカタンカタンと退屈な音を響かせていた。
子どもたちはその音を口真似しながら下校して行く。
二日酔いでふらふらする頭で、彼と曇って蒸し暑い渋谷で会った。
お茶をしながら話したけれど、島の話はしなかった。
あの音が耳鳴りのように聞こえていたけれど。
046 好きだから
彼はこの間行ったという九十九里浜の話を何回もしていた。
あたしの見たことのないどこまでも続く砂浜。
島影のない丸みを帯びた水平線。
おおらかで単調な海のようなセックスをあたしたちはした。
初台から渋谷に向かって波が砕け落ちる。
砂と砂のような人たちが交差点と駅とビルを埋めて行く。
047 スタイリッシュ
朝凪の前にイエス様に会った話を彼がしてくれた。
「真っ黒なスーツをビシッと着こなして、カタギじゃない感じ」
おかしくて笑いが止まらないから、体がぶつかってぴちゃぴちゃ音を立てる。
「表参道とか六本木とか人気のスポットに現れるのかしら?」
「心の貧しい人がいっぱい集まるからね」
シスターや神父さんが決して行かないところにと言いかけて、やめた。
048 ずっと一緒
ホテルを出て、バイバイと手を振って別れた。
誰もいないサウナのような部屋に戻るのがイヤで、街を歩き回った。
たくさんの人と行き交い、何人かの人に声を掛けられ、誰ともわかり合えなかった。
渋谷でも時々潮のにおいがするんだよと言うのを忘れていた。
あたしはいつも離れてから自分の気持ちに気づく。
こうやってあたしが思っていることを彼は少しでも想像してくれてるかな。
049 聖杯
また夜が来て、あたしはあたしの孤独に帰った。
500円のワインをデンマーク製のグラスに注ぐ。
生暖かい息を吹きかけると舌触りがやわらかくなる。
シスターが血を流した時、その美しさに目が釘付けになった。
島はそうやってあたしにヴィジョンを投げてくる。
焦ることもなく、単調に執拗に呼びかける。
050 セレナーデ
いつか午後の船に乗って、あたしは島に帰るだろう。
航跡を追いかけてくる海鳥を見ながら。
陽に照らされて鈍く光る桟橋に影を落とし、揺れる船から下りる。
砂浜に埋まっているものを夕暮れまで探してから、坂を登る。
海が見えない窪地に園があって、その小ささに驚く。
カレーライスのにおいに乗って、お祈りの歌が聞こえる。
途中まで書いて捨てたものもいくつかあって、今までになく苦労しましたが、詩においては苦労した方が出来はよくないみたいです。まあ、人生においてもしばしばそうなのかもしれませんが。……もうこんなことはしない方がいいという教訓を得たのが収穫かなと思います。
041 システム
来週の土曜日、彼が東京に来る。
何年ぶりだろう。
あの島を出てから、あの島の人間に会ったことはない。
同窓会にも行かない。
島が好きだとか、嫌いだとかじゃない。
あたしの中にいつもあの島はあって、あたしの行動と思考を操作している。
別々の街に住んでいる彼も同じだろう。
退屈な島はそんなことをしているのが楽しいのかな。
042 十字架
あたしたちは子どもの頃、海辺に出て、砂に何が埋もれているか当てっこをして遊んだ。
あの貝殻は海の怪物の耳なの。
あの瓶は秘密基地のドアのスイッチなんだ。
ある日、ずっと遠くの浜まで歩いて行ったときに杭のようなものが立っているのを見つけた。
波が木を食う虫のようにその表面を浸食していた。
あたしたちは顔を見合わせただけで、お互い何を思ったかわかった。
あの杭の下には園にいるイエス様が埋まってるって。
043 正直
シスターは嘘つきな子が大嫌いだったから、あたしたちは嘘ばかり吐いてた。
時々船に乗ってやって来る神父さんは清潔好きで、子どもたちに触りたがらなかった。
「大人って好きなことを嫌いなフリをするんだ」
彼はそう言って蟹を捕まえて脚をもいでいった。
父親のいないあたしと母親のいない彼は雲のない空みたいだった。
自由で空虚で、捉まえどころがない。
小学校から中学校まで、島にいる間ずっと一緒に孤独だった。
今でもカレーを食べるとシスターの作る黄色のカレーライスを思い出す。
044 情報操作
島の人たちは腰をかがめ、目を合わせないようにして歩いていた。
夏のじりじりする陽射しの下でも、冬の飛ばされそうになる潮風の中でも。
午前と午後1回ずつ船が来るけれど、海が荒れると何日も来ない。
人通りも減って、島のシステムが起動する。
観光地もなければ、おいしい魚も獲れないのにたまに旅行客が来た。
煤けた民宿に泊まって、3日もしないうちに帰って行く。
港でくらげだらけの海面を覗き込みながら待ち遠しそうにしていた。
045 知らんぷり
海流のせいで港には絶え間なく砂が流れ込んできた。
赤錆びた浚渫船がカタンカタンと退屈な音を響かせていた。
子どもたちはその音を口真似しながら下校して行く。
二日酔いでふらふらする頭で、彼と曇って蒸し暑い渋谷で会った。
お茶をしながら話したけれど、島の話はしなかった。
あの音が耳鳴りのように聞こえていたけれど。
046 好きだから
彼はこの間行ったという九十九里浜の話を何回もしていた。
あたしの見たことのないどこまでも続く砂浜。
島影のない丸みを帯びた水平線。
おおらかで単調な海のようなセックスをあたしたちはした。
初台から渋谷に向かって波が砕け落ちる。
砂と砂のような人たちが交差点と駅とビルを埋めて行く。
047 スタイリッシュ
朝凪の前にイエス様に会った話を彼がしてくれた。
「真っ黒なスーツをビシッと着こなして、カタギじゃない感じ」
おかしくて笑いが止まらないから、体がぶつかってぴちゃぴちゃ音を立てる。
「表参道とか六本木とか人気のスポットに現れるのかしら?」
「心の貧しい人がいっぱい集まるからね」
シスターや神父さんが決して行かないところにと言いかけて、やめた。
048 ずっと一緒
ホテルを出て、バイバイと手を振って別れた。
誰もいないサウナのような部屋に戻るのがイヤで、街を歩き回った。
たくさんの人と行き交い、何人かの人に声を掛けられ、誰ともわかり合えなかった。
渋谷でも時々潮のにおいがするんだよと言うのを忘れていた。
あたしはいつも離れてから自分の気持ちに気づく。
こうやってあたしが思っていることを彼は少しでも想像してくれてるかな。
049 聖杯
また夜が来て、あたしはあたしの孤独に帰った。
500円のワインをデンマーク製のグラスに注ぐ。
生暖かい息を吹きかけると舌触りがやわらかくなる。
シスターが血を流した時、その美しさに目が釘付けになった。
島はそうやってあたしにヴィジョンを投げてくる。
焦ることもなく、単調に執拗に呼びかける。
050 セレナーデ
いつか午後の船に乗って、あたしは島に帰るだろう。
航跡を追いかけてくる海鳥を見ながら。
陽に照らされて鈍く光る桟橋に影を落とし、揺れる船から下りる。
砂浜に埋まっているものを夕暮れまで探してから、坂を登る。
海が見えない窪地に園があって、その小ささに驚く。
カレーライスのにおいに乗って、お祈りの歌が聞こえる。
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なんかいろんなものがあるサイトです。
なんかいろいろしゃべります。
お疲れ様でした。
041の気持ち分かります。
あたしも一時期ずっとそんな感じでした。
都会ばかりを舞台にしてるなって思ったんで、田舎、思いきって島にしました。……でも、結局は都会も出てきましたが
全体にモノクロの、ある種のイメージを作り出すのには成功しているようですが、その中にあって黄色というのがあまり鮮やかに感じられないので、そのあたりが今後の研究課題と思われます。
でも、率直に(手加減はあるんでしょうけど)コメントしていただけるのはありがたいなといつも思ってます。この間作ったカレーもうまくできなかったし
実験的で、完成度がイマイチと(もし)思ってもとりあえずの労作として発表できる場だからいいんじゃないでしょうか。
個々の詩のイメージはそれぞれにおもしろいと思っています。
それをつなげようとするところにかなり苦労のあとが見えて不自然なところがあるのかな、まあともかく、よお最後までがんばりはったね、
自分でもともかく10個書いたからいいじゃんとは思ってますし、それしか取り柄ないないんですが、全体としてはまだ半分なんで既に憂鬱です