整理をしていたら、「けやき」というビデオが出て来た。
映像作家である、勝又幸宣さんの作品で、第16回の東京ビデオフェスティバルで特選を受賞した作品のビデオだった。
8分強の作品、全編に流れているのは、僕の3rdアルバム、「千の砂漠の夢」に入っている「The Tree of Life」
勝又さんは、御殿場に暮らし、富士山と、その廻りの世界の姿を、若いときから撮り続ける、映像作家だ。
「The Tree of Life」
タイトルの「生命の木(いのちのき)」が、この「けやき」と言う作品のテーマとまさにぴったりだったのと、
「けやき」を発表する1年前、当時は最先端だった映像記録媒体、レーザーディスクで発売された、
勝又さんのライフワークと言える、長い間撮りためた富士の映像を、四季を始め、いくつかのテーマにまとめた作品
「富士山麓」の音楽を担当させていただいた縁で、使っていただいた。
(「富士山麓」で書き下ろした音楽は、後に「Airs」としてCD発売している)
この「The Tree of Life」は、自分の作品の中でも、少し心に引っかかる楽曲だ。
元々は藤子・F・不二雄さんの「おれ、夕子」と言う作品の為に書いた曲だった。
藤子・F・不二雄さんと言えば、ドラえもんなど、子供向けの作品が有名だが、
短編作品に、えも言われぬ味わいの、とてもステキな作品があることはあまり知られていない。
その作品集も、「藤子不二雄少年SF短編集」「異色短編集」「少年SF短篇」などと呼び名を変えて、
編纂し直したものが時代時代に出ていたが、20年ほど前だろうか、OVA(オリジナルビデオアニメ)
として、ビデオとレーザーディスクで発売されることとなり、僕が音楽を担当させていただいた。
物語の内容は、大切な人を失う、と言う事と、命のありようについての話で、とてもせつないストーリーだった。
そして、この作品の音楽を書いていた時、ちょうど父が危篤状態で、僕は、現実と物語の区別がつかないような状況の中で、
音楽を作っていたのだ。
「The Tree of Life」は、音響監督に我がままを言わせていただき、いくつかのシーンをつなぐ、長い一曲として作った。
夕子がピアノをつま弾く所から、そのつま弾きにあわせ、メロディーを作り展開させて行った。
アニメーションの映像にあわせて曲を作り、気がつくと父の事を思い演奏していた。
「おれ、夕子」の為に書いた曲は、そう言う訳で、どれも僕の心に引っかかる。
オープニングとエンディングシーンに書いた曲は、弦カルの曲で、短いシーンのための曲だったから、
その後作り足して一曲の曲にした。
饗応離宮で初めて演奏したその曲は、まだCD化出来ていない。
「The Tree of Life」は、どうしてもアルバムに入れたくて、ピアノを入れ直し、サードアルバム「千の砂漠の夢」
におさめた。
「おれ、夕子」や父の事を考えていて、「生命の木(いのちのき)」と言うタイトルになった。
そして、「けやき」と言う映像作品も、同じ感情からずれていないことを、うれしく思う。
サードアルバムの「The Tree of Life」「おれ、夕子」「けやき」
いろいろな表現で、一つのことを言っている。
フレデリック・ディーリアスのレクイエムのように、
僕にとってこの曲はレクイエムであり、同時に生への讃歌なのだ。
次の饗応離宮で、初演をしようと思っている。