西向きのバルコニーから

私立カームラ博物館付属芸能芸術家研究所の日誌

『二時間目 国語』

2013年08月12日 13時21分00秒 | 妻が読んでいます
 妻が読んでいます その60。

 『二時間目 国語』

 小川義男 監修

 宝島社







「河村君の目は、カワバタコウセイの目と似ているね」

 私が京都にいた高校時代、現代国語の授業中に、担当のM本先生が私の目をじっと見つめながら言った。
 カワバタコウセイとは、作家、川端康成のことであった。授業中、M本先生の目を睨みつけるようにして見ていた私の目が、あの川端康成の眼光を彷彿とさせるものがあったらしい。ノーベル賞作家の目と私の目が似ているなど、いや誠におこがましく、また光栄なことである。

 M本先生は、十代の頃に筋ジストロフィー症を発症。「二十歳までは生きられないと言われたが、今もこうして生きているし、結婚もして子供も出来た」と、よく仰っていた。背丈はだいぶ小柄で、歩くのが少し不自由で、3階にある教室までの階段をまるで登山家ように一歩一歩踏みしめるように上り、授業開始は呼吸を整えるべく、導入は軽い雑談からといった場合が多かった。私の目が川端康成の目に似ているといった話も、そんな雑談の中から生まれた話題であった。

 そうしたM本先生のお陰もあってか、私は当時、現代国語の成績が非常に良かった。おまけに担任のM山先生担当の古典の成績も良かったので、周りの友達からは「国語の神様」などと呼ばれてもいた。
 しかしその一方、数学や英語の成績はクラスでもワーストクラス。余りにもその差が大き過ぎて、担任のM山先生からは「片端(かたわ)やね」と言われたこともあった。

 私たちの担任を外れた後、京都から故郷の広島へ戻られたM山先生。数年後、私が就職活動で地方を回っていて、ちょうど広島のお宅に泊めていただいた際、この昔話を私の口から聞き、思わず顔色を変えて、私に謝罪をして下さったことがある。

「え、私がそんなことを言ったのか? 済まなかった! いや若かったんだな~。今思うと考えられない発言だね。いやいや、それは本当に申し訳なかった」

 M先生には昔懐かしい話をしたつもりが、思わぬ謝罪の言葉を引き摺り出すことになってしまって、何だか申し訳なく、かえって恐縮してしまった私であった。

 その後の私は、コミュニケーションを専門に学び、曲りなりにもお喋りの仕事、つまりは言葉を扱う仕事をしている。また仕事にはなっていないが、短歌や小説、エッセイなどを書いたりしては、ぼちぼち賞をいただいたりもしている。


 それもこれも、高校時代にお世話になった、あのM本先生とM山先生のお陰であることは間違いないだろうと、私は心から有り難く思っている。

8月11日(日)のつぶやき

2013年08月12日 02時16分19秒 | 昨日のつぶやき

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うちのトイレの壁と床の数ヶ所には、赤い蛍光色のペンキの滴が落ちた痕がある。ほんの微量ではあるが、壁も床も白っぽいし便器だって白っぽいし、やはりそこにあるその色は非常に目立つ。トイレ以外でもそんな色のペンキが使われた痕跡は他にひとつもないのに…。団地に暮らして1年、謎の赤色である。