映画もののけ姫の中に印象的なセリフがあって、
「雅な椀だな」
朝廷の密偵が主人公アシタカの椀を手に取って発する言葉なのですが、私にはこの言葉に大きな意味を感じました。
時代場面設定から「食事の前に石鹸で手を洗う」「常に安全な食べ物が準備されている」時代ではないですよね。
安全に食べ物を食べるために、食物を加熱し、食器を使って衛生的に食べる(生命を維持する)。
多分こうして健康(命)を維持し、健康(精神)を良い状態に維持してきたのだろうと思います。
「食器は健康を維持するために必要な道具」だったのではいかなあ。
私もこういった時代に相手の人間性、生きるチカラ、総合的な強さ、を判断するのであれば、剣ではなく椀を見ると思います。
椀の管理は毎日毎食の習慣ですから、良い椀を良い状態で維持できる人間は強い人間だったのでしょうね。
また雅ということばから「椀の質の良さ」を感じます。使う食器の質が良い→故郷の生産技術の高さ、出自の良さなど。
劇中の密偵は、椀から主人公の強さだけでなく生きてきた様々を読みとったのではないかなあ。
昭和中期、小中学生だった私の健康を守ってくれた椀はプラスティックの給食の食器で、
丈夫なそれは、大きな食器洗浄機で洗われて、雑菌食中毒から私を守ってくれました。
ベビーブームの時代、大人数の食事を守るためにそれはとても合理的だったと思います。
だからなのか、私の記憶の食器の大部分は、まやっと存在したイエローベージュのプラスティックと真鍮のメッキです。
もうすぐ新しい春がきます。私は、進学就職で旅立つ若者(アシタカ)に故郷の漆器を贈りたい。
毎回食事の後で食器を洗い仕舞う。自分の健康を自分で管理する。生活習慣を自分で維持する。
誰に見せても誇ることができる、故郷の椀を贈りたい。
「誇ることのできる漆器文化のある故郷」を持たせたい。
その椀(アシタカの椀)を作ることは地元で漆を塗ることの根幹ではないかなあ。
最近はそう思って漆を塗ることが多いです。