玉村宿役人の巻返しと想える事
火札騒ぎにめげず、外堀を埋め、内堀もほぼ埋める目星がついて、ちょうど一息という四月六日、
大津屋源助店一条に支障あり、との知らせか、五目牛の徳のところへ入った。
確かに大津屋は内諾し、三右衛門の〆の酒を受け取ってはいた。 しかし公式の承認は、
玉村宿が他の人別送りを受領するかに懸かっている。 手続上の問題とはいえ、
かつて五目牛村の千代松家に入籍するとき、徳は辛酸を舐めている。
雑務に追われる三右衛門は不安気に事実のみを簡略に記している。
「四月六日、テンキヨシ 早朝ニ五目牛村徳来り候由、新万や祐吉申来ル、借宅之事、
四丁目日野屋代次郎殿取扱ニ来ル」
前夜にでも他の耳に不吉な情報が聞こえたのであろう。
徳は取るものも取敢えず、 真実を確かめようと、飛んで来た。借家一件の事の成り行きには、
大津屋へ贈った〆酒を買った日野屋代次郎が、立会ってくれることになった。
続く