あらかじめ覚悟していたのか、手回しよく土産のお金を入れた挺斗袋を用意していたのであろう。
名主、村役人に金百疋(一分)、若衆中の世話人六人に二百疋(二分)を贈った。
若者への丁重な挨拶は異例である。村役人は村の公権力であるので、それなりの挨拶は必要と
考えられるが、何故に若者に村役人の二倍の金二分を贈らねばならないのか、
若者組は村の婚姻、性に対して絶大な権限を有していた。
徳は夫千代松を亡くした後家ではあるが、若者組は未婚の娘以上に、後家の性に対しては厳しい
監視下に置いていた。村外の三右衛門を後見とし。世話を受けるとならば、尚更若者組の承諾は
不可欠である。若者に何らの挨拶もなく徳と、三右衛門が結びつくとなると、若者は暴力集団を
なして、何をしでかすかわからない。
その辺のことは百戦錬磨の顔役三右衛門のことであるので、百も承知であったのであろう。
続く