野生生物を調査研究する会活動記録

特定非営利活動法人 野生生物を調査研究する会の会員による活動記録です。

2002年キリンビール神戸工場内レフュジアビオトープ創出に関する研究

2018-11-03 | 資料を読む

キリンビール神戸工場内に池がある。工場ができたときにつくられた池である。このころ、ビオトープが注目された時で

この工場内でも、景観を生かした池ではなく、環境に配慮した池をビオトープではじめた報告書である。


キリンビール神戸工場内レフュジアビオトープ創出に関する研究
 1.これまでの経緯
 2001年度の受託研究によって明らかとなったキリンビール神戸工場内ビオトープ池とその周辺の植栽の現状診断結果をもとに,キリンビール神戸工場側と協議し,
神戸工場内ビオトープが目指すべき将来像をまず検討した.その結果,つい30年前まではごくごく普通であった,里のため池とそれに隣接した里山を工場内に再現し,
開発以前に生息していたあるいはその場所が潜在分布域である生物群集の復元を最小限の人為を導入して促す「潜在生物復元型ビオトープ」をその目標とすること,
さらに現在圃場整備や里山の管理放棄等によって絶滅が危倶されている里山やため池に生息する「希少種」の一時的な避難場所としての機能を同時に果たすビオト
ープ(レフュジアビオトープ)をその目標に付け加えることで一致した.
 ここで最も問題になったのは,ビオトープ池創出時に導入されたメダカの処置である.初期に導入されたメダカは,兵庫県尼崎近辺で採集されたものである.神戸市
北区キリンビール神戸工場は,尼崎と同じ武庫川水系に属するが,六甲山をその間に挟み,遺伝的に異なった地域個体群である可能性を否定できない.兵庫県におけ
るメダカ地方個体群の分布情況は複雑で,日本海側に北日本集団,瀬戸内側に南日本集団が分布していることが明らかになっているが,その詳細については未調査
である.兵庫県は,「氷上回廊」という日本海側の由良川と太平洋側の加古川を分ける,本州で最も低い分水嶺があり,またその加古川と武庫川は河川争奪によって
メダカをはじめとした水生動物の交流が過去にあった可能性が高い.
 現在さまざまなビオトープが創出され,そのビオトープにはため池が同時に造成されるのが普通であり.そこに放流される魚類の中でメダカは,最もポピュラーなもの
である.地域個体群の一時的な避難場所レフュジアビオトープをその目標に掲げる限り,メダカの遺伝的差異・撹乱には特に注意する必要がある.このような理由から,
既存メダカの根絶と,同一水系でありかつ近接地のメダカ個体群の再導入を試みることにした.
 水生植物についても昨年度の報告で示したとおり,現在栽培種であるスイレンやベニコウホネが植栽されているが,神戸市北区周辺の在来種であるオグラコウホネ
等の郷土種へ転換を計ることが目標とする「潜在生物復元型ビオトープ」にはふさわしいことを提案した.またビオトープ池周辺に湿地環境を創造することによって,サギ
ソウ.トキソウ等の湿地植物群落形成の可能性も指摘した.今年度は,湿地植物としてサギソウの,水生植物としてオグラコウホネとジュンサイの移植定着を試みた.陸
上植生については,外観的にはある程度の里山の景観を呈しているが,土壌が硬く浅いために群落構造が未発達で,生物多様性が低い状態である.
1
 
2002年3月20日

目次
1.これまでの経緯(ビオレフュジア研究グループ)・・・・・・・・・・・・1
2.樹林の現状と土壌条件(小舘誓治)・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
3.観察された野鳥(川村博史)・・・・・・・・・・・・・・・・..・・・8
4.植物プランクトンの現存量(佐藤裕司).・・・・・・・・・・・・・・12
5.水生植物・湿地植物の導入(永吉照人・鈴木 武)・・・・・・・・・・16
6.既導入メダカの根絶と新規導入魚類(田中哲夫・谷本卓弥)・・・・・・19
7.次期導入候補種の探索(今西将行)・・・・・・・・・・・・..・・・22
8.ホームページ素材(谷本卓弥・牛尾 功)・・・・・・・・・・・・・・23
9.まとめ(ビオレフユジア研究グループ)・・・・・・・・・・・・・・・24