2012年6月9日(土)
ゆ~ちゃんの保育園の写真の中に、おやつを食べているゆ~ちゃんの
写真が載っていたよ。(^^)
そこで、ゆ~ちゃんのエッセイを・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「母子手帳」
娘のゆり(仮名)が、「暑い夏が来る前に、九ヶ月になる孫のゆ~(仮名)の
ポリオの予防接種をするので、その時、自分も一緒に予防接種をする」
と電話をしてきた。ゆりの予防接種を私は待ちに待っていたので、ようやく接種して
くれるのかと安堵した。
ゆりには、幼児の頃にポリオのワクチンを飲ませた。だが、ゆりが二十歳を過ぎた
頃、私の友人で、ゆりの幼馴染のけいちゃんのお母さんから、
「けいやゆりちゃんたちの年代のポリオワクチンは精度が悪かったんですって。
最悪、子供のポリオワクチンを接種する時に、お母さんがポリオにうつる危険性が
あるんですって」
という思いもしなかった情報が入ってきたのだ。市の保健センターに問い合わせる
と、事実だという。対策は、今からもう一度、ポリオワクチンの接種を受けることだ
そうだ。
だが、当時大学生で下宿していたゆりに電話で事情を話し、
「すぐに近くの保健センターでワクチンを接種するように」
と言ったのに、私の危機感が伝わらないようで、「分かった」と言うだけで、
ゆりはなかなか行かなかった。休みで帰ってくると、「どうなの?」とせっつき、
「けいちゃんは、ちゃんとワクチンの接種に行ったそうよ」
と唆したりもしたが、ゆりは、「そのうちに」と、暢気なものだった。
〈それまでに、どこかでポリオにうつったら、どうするの〉
子育ての終盤に急に、卒業単位が足りませんと指摘されたような気持で、私の心の
底に不安と焦りが燻ぶった。そのまま、十年もたち、ゆりが結婚するときに、
とうとう私は、
「絶対に、予防接種をしておきなさい!」
と、ゆりに厳命した。ところが、ゆりが問い合わせた保健センターでは、
「お子さんのポリオワクチンの接種のときに、お母さんも一緒に受ければいいでしょう」
と言ったそうで、私の心配はまた肩透かしをくってしまっていた。
「それで、病院で、私の母子手帳も、出来たら持ってきて下さいって言われたのよ。ある?」
と、ゆりは続けた。大切なものだから、もちろんどこかに仕舞ってあるはずだけれど、
さて、どこに仕舞ったろう……。
夫の使っていたライティングデスクの引き出しを開けてみると、ドンピシャリ、
子供達三人の母子手帳や通知表を入れたファイルケースが入れてあった。ゆりの
「母子健康手帳」と記された表紙には、クレヨンのようなあわいタッチで母と幼児の
絵が描かれている。懐かしくそのページを繰ると、「出生届け済み証明」
「妊婦の記録」「出産の状態」「出産時の児の状態」と続き、「血液検査」の結果も
貼ってある。あの頃は、生まれてすぐやっていたけれど、最近は、生まれて一年
くらいは血液型が安定しないからとやらないそうで、きっとゆ~の母子手帳にはないページ
だろう。そして、後ろのほうに、「予防接種の記録」。そこに、接種済みの券が貼って
ある。ピンク、黄色、オレンジ……、そして、あった、
「急性灰白髄炎(小児まひ) 経口ポリオワクチン」と書かれた水色の券が、二枚。
券は、触ると、セロテープの部分からはらりと外れた。あの頃は、ママバッグを肩に、
入園前の二男の手を引き、ゆりを抱いて予防接種会場に並んだものだった。家に戻り、
これで小児麻痺は安心と、券をセロテープで貼り付けたのだが、それが劣化するほど
時は過ぎていた。
時計を見上げると、もう四時になる。明日は郵便局が休みだしと、私は急いで
封筒に母子手帳を入れ、郵便局へ持っていった。
一週間後にゆりから、ポリオの予防接種をしてきたと言う電話があり、ほっとした。
ゆ~はちょっと泣いたそうだ。そうか、そうか。そして、
「私の母子手帳にも、今回のポリオの予防接種済みの判子を押してもらったのよ」
と、言う。三十年以上も前の母子手帳、最後のお役にたった……。ゆりは、
「お母さん、私の九ヶ月ぐらいの頃のところに、『また、熱を出す』って書いて
あったよ。『また』ってところに、お母さんの気持ちが出ているね」
と、笑った。そうだ、娘はしょっちゅう熱を出す子だった。私の
〈ついこの間、熱が下がったばかりなのに、どうして、また……〉
と、肩を落とした気分が出てしまったのだろう。私は、その笑い声に、
『信じられるのは、ここだけ』というように、熱い頬を私の胸に押し付けてきた
ゆりを抱きしめた日を遠く思い出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜、NHKで、井上陽水を見た。
ダンナがカラオケで歌っていた「少年時代」、やっぱり良いなあ・・。(^^)
ゆ~ちゃんの保育園の写真の中に、おやつを食べているゆ~ちゃんの
写真が載っていたよ。(^^)
そこで、ゆ~ちゃんのエッセイを・・
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「母子手帳」
娘のゆり(仮名)が、「暑い夏が来る前に、九ヶ月になる孫のゆ~(仮名)の
ポリオの予防接種をするので、その時、自分も一緒に予防接種をする」
と電話をしてきた。ゆりの予防接種を私は待ちに待っていたので、ようやく接種して
くれるのかと安堵した。
ゆりには、幼児の頃にポリオのワクチンを飲ませた。だが、ゆりが二十歳を過ぎた
頃、私の友人で、ゆりの幼馴染のけいちゃんのお母さんから、
「けいやゆりちゃんたちの年代のポリオワクチンは精度が悪かったんですって。
最悪、子供のポリオワクチンを接種する時に、お母さんがポリオにうつる危険性が
あるんですって」
という思いもしなかった情報が入ってきたのだ。市の保健センターに問い合わせる
と、事実だという。対策は、今からもう一度、ポリオワクチンの接種を受けることだ
そうだ。
だが、当時大学生で下宿していたゆりに電話で事情を話し、
「すぐに近くの保健センターでワクチンを接種するように」
と言ったのに、私の危機感が伝わらないようで、「分かった」と言うだけで、
ゆりはなかなか行かなかった。休みで帰ってくると、「どうなの?」とせっつき、
「けいちゃんは、ちゃんとワクチンの接種に行ったそうよ」
と唆したりもしたが、ゆりは、「そのうちに」と、暢気なものだった。
〈それまでに、どこかでポリオにうつったら、どうするの〉
子育ての終盤に急に、卒業単位が足りませんと指摘されたような気持で、私の心の
底に不安と焦りが燻ぶった。そのまま、十年もたち、ゆりが結婚するときに、
とうとう私は、
「絶対に、予防接種をしておきなさい!」
と、ゆりに厳命した。ところが、ゆりが問い合わせた保健センターでは、
「お子さんのポリオワクチンの接種のときに、お母さんも一緒に受ければいいでしょう」
と言ったそうで、私の心配はまた肩透かしをくってしまっていた。
「それで、病院で、私の母子手帳も、出来たら持ってきて下さいって言われたのよ。ある?」
と、ゆりは続けた。大切なものだから、もちろんどこかに仕舞ってあるはずだけれど、
さて、どこに仕舞ったろう……。
夫の使っていたライティングデスクの引き出しを開けてみると、ドンピシャリ、
子供達三人の母子手帳や通知表を入れたファイルケースが入れてあった。ゆりの
「母子健康手帳」と記された表紙には、クレヨンのようなあわいタッチで母と幼児の
絵が描かれている。懐かしくそのページを繰ると、「出生届け済み証明」
「妊婦の記録」「出産の状態」「出産時の児の状態」と続き、「血液検査」の結果も
貼ってある。あの頃は、生まれてすぐやっていたけれど、最近は、生まれて一年
くらいは血液型が安定しないからとやらないそうで、きっとゆ~の母子手帳にはないページ
だろう。そして、後ろのほうに、「予防接種の記録」。そこに、接種済みの券が貼って
ある。ピンク、黄色、オレンジ……、そして、あった、
「急性灰白髄炎(小児まひ) 経口ポリオワクチン」と書かれた水色の券が、二枚。
券は、触ると、セロテープの部分からはらりと外れた。あの頃は、ママバッグを肩に、
入園前の二男の手を引き、ゆりを抱いて予防接種会場に並んだものだった。家に戻り、
これで小児麻痺は安心と、券をセロテープで貼り付けたのだが、それが劣化するほど
時は過ぎていた。
時計を見上げると、もう四時になる。明日は郵便局が休みだしと、私は急いで
封筒に母子手帳を入れ、郵便局へ持っていった。
一週間後にゆりから、ポリオの予防接種をしてきたと言う電話があり、ほっとした。
ゆ~はちょっと泣いたそうだ。そうか、そうか。そして、
「私の母子手帳にも、今回のポリオの予防接種済みの判子を押してもらったのよ」
と、言う。三十年以上も前の母子手帳、最後のお役にたった……。ゆりは、
「お母さん、私の九ヶ月ぐらいの頃のところに、『また、熱を出す』って書いて
あったよ。『また』ってところに、お母さんの気持ちが出ているね」
と、笑った。そうだ、娘はしょっちゅう熱を出す子だった。私の
〈ついこの間、熱が下がったばかりなのに、どうして、また……〉
と、肩を落とした気分が出てしまったのだろう。私は、その笑い声に、
『信じられるのは、ここだけ』というように、熱い頬を私の胸に押し付けてきた
ゆりを抱きしめた日を遠く思い出した。
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夜、NHKで、井上陽水を見た。
ダンナがカラオケで歌っていた「少年時代」、やっぱり良いなあ・・。(^^)