2013年5月14日(火)
今日は、エッセイサークルの日。そこで、今日のウィステのエッセイ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一晩、家のシャッターをガタガタと揺らし続けた春の嵐は、夜が明けても、近くの高圧線の
電線をキューンと鳴らしている。ガラス越しに入る三月の光は明るいけれど、こんな日に
外に出て土ぼこりにまみれることもないと、私は午前中、家に篭っていた。昼近くなって、
隣りの母の家の様子を見に行くと、駐車場に吹き寄せられた枯れ葉の中に肌色のなにかがある。
近寄ってみると、それは、女性用の肌着のパンツだった。ちらっと見て、若い人のものでは
ないとは分かるが、もちろん、入院中の母のものではない。ご近所のどのお宅から飛ばされて
きたのだろう?強風の中に洗濯物を干すなんてと、辺りを見回したが、向こう三軒は物干し場が
こちらからは見えないし、右隣のベランダには何も出ていない。左隣は我が家だから、違う。
風向きからすると、右手の坂の上の方から飛んできたような気もする。この時、さっさとそれを
拾って、近所のインターフォンを鳴らして、問い合わせをしていれば良かったのかもしれない。
可愛い赤ちゃんの靴下だったとしたら、私は熱心に近所に問い合わせたろう。だが、パンツだった
のだ。ものがものだけにふっと躊躇い、私はそれを、母の家の低い石垣の上に置いた。
通りに面しているし、高さも頃合いだから、探しに来た人も見つけやすく、気まずい思いをせず、
そっと持っていけるだろうと思っていた。
しかし、夕方になっても誰も取りに来ない。私なら、近所の人にパンツを発見される前に、
慌てて探し回るけれど……。夜には強い雨が降り、翌朝には、泥はねに汚れてしまっていた。
持ち主を探し回るには、洗濯をしなくてはならないか、いや、そこまでは、と迷い、
ますます気が進まない。毎朝、母の家に行くたびに汚れていくそれに目をやり、
「こんなに汚くなってしまったのは、私の判断ミスかしら?いつまでもパンツがあるのも
なんだかいやだけれど、人の物だし、勝手に捨てる訳にもいかないし、どうしたものか」
と、気に病んだ。
一週間以上たつと雑巾のように石垣の上にべたっと広がったそれを見ると、
「飛んできた厄介ごと」という気分にかられる。
〈これは誰も探しに来ないだろう。それでも、処分した後に何か言ってこられても〉
と、ぐずぐずしていた。そこで、回覧板を持っていくついでに、一人で背負い込んでも
しょうがないと、自治会の班長さんのお宅に相談に行った。班長さんは、
「うちのじゃないだろうな」
と、呟いた後で、
「風で飛ばされて、自宅敷地内に落ちてきた物は、処分して良いって、法律で決まっているんですよ。
それ、処分してかまわないですよ」
と、教えてくれた。犬などが銜えてきた場合は別なのだそうだ。法律に詳しそうな班長さんに、
捨てることへのお墨付きを貰えたと安堵した。
欲しかった「班長さんの承認」に背中を押され、もう堂々とパンツを回収しに行って良いはず
なのだが、誰かの物を捨てるという行為は人目を避けたく、おまけに、まだ使える物を
だめにしたのは、私のミスかもとパンツに対しても後ろめたく、私は夜になるのを待って、
持ち主にも見捨てられたようなそれを拾いに出た。そして、ひんやりとした風に頬を晒しながら、
急いで家の中に戻った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「パンツだからなあ」と、みなさんにウィステの戸惑いを分かってもらえたわ。
本当に困った・・。(^^;)
今日は、新しいエッセイ誌が1年半ぶりに出来、お昼はその話で盛り上がりました。(^^)
今日は、エッセイサークルの日。そこで、今日のウィステのエッセイ。
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一晩、家のシャッターをガタガタと揺らし続けた春の嵐は、夜が明けても、近くの高圧線の
電線をキューンと鳴らしている。ガラス越しに入る三月の光は明るいけれど、こんな日に
外に出て土ぼこりにまみれることもないと、私は午前中、家に篭っていた。昼近くなって、
隣りの母の家の様子を見に行くと、駐車場に吹き寄せられた枯れ葉の中に肌色のなにかがある。
近寄ってみると、それは、女性用の肌着のパンツだった。ちらっと見て、若い人のものでは
ないとは分かるが、もちろん、入院中の母のものではない。ご近所のどのお宅から飛ばされて
きたのだろう?強風の中に洗濯物を干すなんてと、辺りを見回したが、向こう三軒は物干し場が
こちらからは見えないし、右隣のベランダには何も出ていない。左隣は我が家だから、違う。
風向きからすると、右手の坂の上の方から飛んできたような気もする。この時、さっさとそれを
拾って、近所のインターフォンを鳴らして、問い合わせをしていれば良かったのかもしれない。
可愛い赤ちゃんの靴下だったとしたら、私は熱心に近所に問い合わせたろう。だが、パンツだった
のだ。ものがものだけにふっと躊躇い、私はそれを、母の家の低い石垣の上に置いた。
通りに面しているし、高さも頃合いだから、探しに来た人も見つけやすく、気まずい思いをせず、
そっと持っていけるだろうと思っていた。
しかし、夕方になっても誰も取りに来ない。私なら、近所の人にパンツを発見される前に、
慌てて探し回るけれど……。夜には強い雨が降り、翌朝には、泥はねに汚れてしまっていた。
持ち主を探し回るには、洗濯をしなくてはならないか、いや、そこまでは、と迷い、
ますます気が進まない。毎朝、母の家に行くたびに汚れていくそれに目をやり、
「こんなに汚くなってしまったのは、私の判断ミスかしら?いつまでもパンツがあるのも
なんだかいやだけれど、人の物だし、勝手に捨てる訳にもいかないし、どうしたものか」
と、気に病んだ。
一週間以上たつと雑巾のように石垣の上にべたっと広がったそれを見ると、
「飛んできた厄介ごと」という気分にかられる。
〈これは誰も探しに来ないだろう。それでも、処分した後に何か言ってこられても〉
と、ぐずぐずしていた。そこで、回覧板を持っていくついでに、一人で背負い込んでも
しょうがないと、自治会の班長さんのお宅に相談に行った。班長さんは、
「うちのじゃないだろうな」
と、呟いた後で、
「風で飛ばされて、自宅敷地内に落ちてきた物は、処分して良いって、法律で決まっているんですよ。
それ、処分してかまわないですよ」
と、教えてくれた。犬などが銜えてきた場合は別なのだそうだ。法律に詳しそうな班長さんに、
捨てることへのお墨付きを貰えたと安堵した。
欲しかった「班長さんの承認」に背中を押され、もう堂々とパンツを回収しに行って良いはず
なのだが、誰かの物を捨てるという行為は人目を避けたく、おまけに、まだ使える物を
だめにしたのは、私のミスかもとパンツに対しても後ろめたく、私は夜になるのを待って、
持ち主にも見捨てられたようなそれを拾いに出た。そして、ひんやりとした風に頬を晒しながら、
急いで家の中に戻った。
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「パンツだからなあ」と、みなさんにウィステの戸惑いを分かってもらえたわ。
本当に困った・・。(^^;)
今日は、新しいエッセイ誌が1年半ぶりに出来、お昼はその話で盛り上がりました。(^^)