日本全国に残っている俄からいくつかを紹介する。
【博多にわか】
〇あの相撲取りゃぁ、朝から晩まで酒飲みづめじゃが、稽古も強かが、土俵に上がっても酔うとる。 ※良く取る
〇今日は十五夜で幸い友達がみな寄っとるけん、月見で飲もうじゃなかや。酒ん肴は何んが好いとるや?
「俺らあ下戸じゃけん望月」 ※餅好き
【美濃流しにわか】
〇トランプ大統領の乱暴な言動は嘆かわしかねえ。「でも本心は優しからしやて」。そらまたどうじゃら? 「トランプにもハートがあるわな」
〇東京五輪は、あげいに巨額のお金をかけてええんかいのう? 「へともなかね」。これまたどうしてじゃな? 「必ずせいかは上がるわな」
【佐喜浜にわか】高知県
〇行政を批判した有識者に市長が「なんぞ確かな証拠かあるか?」と尋ねた。
有識者は腰掛けを取り出し、腰掛けの足をたとえにして、
「一つ一つは小さくもろい(いすの脚)が、大人がしっかりと後ろを支え(背もたれをさす)、行政も”深く腰を据え”て取り組んでみしゃんせ! 姿勢(市政)も良くなるであろうがのう!!
俄の味は方言にある。
全国に残っているどの俄も、その土地の方言を大切にしている。
観客と同じ方言で俄をするからこそ、観客と演者、観る者と演じる者の垣根は無くなり、共感し理解してもらえる。
俄を標準語でやったら、おもしろいこともなんともない。俄の面白さは〈方言性〉にある。
こてこての河内弁の俄を一つ。
A「おい、われ! 何さらしとんねん?」
B「何しとんねんて、見てわからんけ!」
A「見てわからんさかいに、聞いてんのじゃ」
B「薬、探してんねん」
A「どないぞしたんかいな?」
B「田いえから帰ってきて、陰ら入ってひのつりしょと思てな、おいえ、上がろとしたんや」
A「ほんでから」
B「ほんだらや、あがりがまちで足踏み外して、こん転げて、かまいさんの角で、ゲンスケ、えらいいわしてしもたんや」
A「えらいこっちゃ。ほんで薬はあったんか」
B「それが、あるけー」
A「ほんだら、わいが探したろ。そこ、のけ」
B「のけゆうても動かれへんがな。ちょっと、かいな、かしてんか」
A「しゃーないな。ほれ、つかまれ」
B「すまんのー」
A「なにぬかしてんねん」
B「荒くたすなよ。あんじょう頼むで」
A「かまへん。かまへん」
立ち上がらせて座らす。
A「そこの床の間に座っとけ。〔ごそごそと探し出す〕おい、けったいなもんが出てきたで」
B「なんやそれ、お母んが使ことった、電気ゴテやがな」
A「よー、床の間に座らせたこっちゃ。もうこれで大丈夫や」
B「電気ゴテで、大丈夫とは、ハーテ?」
A「ハテ!」
B「ハテわかった。床の間の電気ゴテや」
※つかの間の出来事
※絵は『月百姿」より(国会図書館デジタルコレクションより)
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