(前編は7月24日に掲載)
Ⅲ:護衛艦を空母化するって?
① 憲法9条下の現実と護衛艦
念のためにひとこと。この国は、1947年日本国憲法を最高法規として制定した。第2章「戦争の放棄」に第9条を定め掲げてきた。「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。/②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と。
しかし占領国米国は、占領下の日本に「再軍備」を求めてきた。こうして、1950年に警察予備隊、52年に保安隊、54年に自衛隊が創設・改変されていく。戦争を放棄し、武力を持たず、交戦権も持たないと定めた日本国は、実際は嘘で塗り固め、軍隊を造りだし強化してきたのだ。「自衛隊」と称し、防衛軍を装ってきた。だから戦車を「特車」と呼び、駆逐艦・巡洋艦を「護衛艦」と呼んできた。ここでは深く立ち入らないが、アジア諸国を押さえる米国の軍事力を補完する軍隊として創設された自衛隊が「護る物」は米国の権益を多分に含んでいるだろう。
それでも、60年反安保闘争などの日本民衆の闘いは、この日本国憲法の存在を楯として、政権に「専守防衛」の立場をとらせてきた。この「専守防衛」とは、(ア)我が国に対する急迫不正な侵害があること、すなわち武力攻撃が発生したこと(イ)これを排除するために他の適当な手段がないこと、(ウ)必要最小限の実力行使にとどまる限りの防衛力だと、歴代の政権は考えてきた。
ところで、「護衛艦」と言えば防衛が主と勘違いする向きもあろうが、現代戦では防空力の強化なしに艦船は生存できず、攻撃もできない。海上自衛隊の「護衛艦」は、領海を遙かに超えた世界の海を跨ぎ、対艦ミサイル、対空ミサイル、対潜ミサイルを装備するバリバリの攻撃能力を保有している軍艦だ。
②2014年7月Ⅰ日、集団的自衛権の「合憲」解釈を批判する
安倍政権は2014年7月Ⅰ日、「集団的自衛権の一部合憲化」を閣議決定した。本稿の主題である護衛艦を空母化することも、この改竄なしに考える事はできまい。戦後日本の歴代政権は、上記の通り「専守防衛」を掲げ、「集団的自衛権」を認めてこなかった。それを安倍政権は「3 憲法第9条の下で許容される自衛の措置」を打ち出し、「我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、如何なる事態に於いても国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、これまでの憲法解釈では必ずしも充分な対応ができない恐れがあることから」検討し、「自衛の措置はあくまでも外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態に対し、国民のこれらの権利を守るためのやむおえない措置として初めて容認される」(1972年の政府資料「集団的自衛権と憲法との関係」を引用)し、自国への攻撃に限定した文言を、敢えて「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るため他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使すること」は許容されるとしたのだ。
私は最低限次の2つの点を示しておく。(ア)ここで取り上げられている憲法第13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」から引かれているはずだ。国家は個人の人権擁護に徹すべしが本意であり、国家が他国からの武力攻撃から個人の権利を守る/守れるかの如く言うことは、恣意的であり、あまりにも僭越だ。これまでに武力を武力で守れたことがあったのか?! 彼らは先ず過去のこの国がやってきたことを総括してから言うべきだ。日本の侵略によって「犯し、犯されてきた」事実を私は忘れない。私たちは忘れてはならない。
(イ)米日同盟(多国間安保)の強化を図りたい安倍政権は「わが国を取り巻く安全保障環境の変化」なる文言を極めて都合良く使っている。ここで政権が想定していることは、主に北朝鮮と中国の動向だろう。朝鮮半島の核・ミサイル開発を抑止することは、朝鮮戦争以来米国がつくり出してきた核安保体制がかの国に重石になっており、「目には目を」の暴力の論理を引き下げる努力なくして、深みに嵌まるだけだろう。このことを直視しなければ、この争いは収まらない。
中国に対しては2010年の防衛計画大綱が打ち出した「島嶼防衛策」以来、日本政府が琉球の島々にミサイル配備を進めており、「安全保障環境の変化」の米日側の動きを顧みない一方的なものであり、軍事衝突・破綻を招きかねない。こちらから匕首(ミサイル等)を突き出しながらでは、全く説得力を持たないだろう。
③「日米防衛協力のための指針2015」を経て
安倍政権は、こうした無理筋解釈改憲を強行し、「日米防衛協力のための指針2015」(日米軍事指針2015)を2015年4月27日、米日間で改訂した。この新たな軍事指針は、1997年の軍事指針を抜本改定したものだ。2015軍事指針は、国内外「アジア太平洋地域及びこれを超えた地域」(世界中)での濃密な軍事協力が堂々と謳われている。本稿の範囲を超えてしまうので、概要だけ示したい。
構成は、「Ⅰ:防衛協力と指針の目的」、「Ⅱ:基本的な前提及び考え方」、「Ⅲ:強化された同盟内の調整」、「Ⅳ:日本の平和及び安全の切れ目のない確保」、「Ⅴ:地域の及びグローバルな平和と安全のための協力」、「Ⅵ:宇宙及びサイバー空間に関する協力」、「Ⅶ:日米共同の取組」、「Ⅷ:見直しのための手順」となっている。
Ⅰはこの軍事指針(ガイドライン)の基本性格を示している。●切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応、●日米両政府の国家安全保障政策の相乗効果、●政府一体となっての同盟としての取組、●地域の及び他のパートナー並びに国際機関としての取組、●日米同盟のグローバルな性質。
軍事力において核戦略から何から盤石な体制をとると。
Ⅱは従来からの「専守防衛」「非核3原則」などの形式的な確認。Ⅲは共同計画策定の更新の取り決めなど。Ⅳが本題。「A平時からの協力措置」「B日本の平和及び安全に対して発生する脅威への対処」「C日本に対する武力攻撃への対処行動「D日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」「E日本における大規模災害への対処における協力」と、それぞれ取り決められている。集団的自衛権の一部合憲化が反映されている。Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷは略す。
こうして現実に、米空母を含む「米艦防護」、朝鮮半島への米爆撃機の「護衛」に空自戦闘機が当たるなど「武力による威嚇」に日本国は加担してきたのだ(2017年朝鮮危機など)。
こうしたガイドラインと実績にたって、安倍政権は2018年に、この国の軍事政策である防衛計画大綱を改定した。多国間安保体制や宇宙・サイバー・電磁波を加えた総合的な作戦など、より攻守の力を結集しようとしている。ここから空母導入が持ち上がってくるのだ。
③「護衛艦」が「専守防衛」を装いながら空母を持つ時代に
さていよいよ本題に入りたい。「防衛計画大綱2018」の「Ⅳ防衛力強化に当たっての優先事項」にでてくるのだ。「さらに、柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸機(STOVL)を含む戦闘機体型の構築等により、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ない我が国太平洋側を始め、空における対処能力を強化する。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性を向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とする」ともってまわった言い草だ。
「専守防衛」の建前を維持しつつ、太平洋・東シナ海などに防空圏を拡大しながら島嶼防衛を進めてきたが故に航空母艦を持ち、「防衛圏」を拡張するつもりだろうか。2019年から2023年の中期防衛計画にも同じ文言が出てくる。いずも型護衛艦の改修を行うとしながら、「憲法上保持し得ない装備品に関する従来の見解には何ら変更はない」とシラーとしている。STOVL搭載艦は空母にあらずとの珍説をマジに開陳。言葉の嘘と拡張主義がちらちらしている。
また、この中期防別表にはF-35A 45機とあるが注に45機のうち18機をSTOVL機とするとしており、隠したい気持ちが表れている。こおSTOVL機こそF-35Bなのだ。だが同じ2018年12月の国家安全保障会議は45機を147機に、うち42機をB型―STOVL機とするというのだ。安倍の爆買いがSTOVL艦=航空母艦を拡充していく流れを明確にしていったのだ。
話が複雑に大きくなってしまったが、私が悪いのではない。この国の歴代政権の嘘が大嘘となり、敵基地攻撃が公然と語り出されてきたのだ。島嶼防衛・スタンドオフ防衛能力・STOVL搭載護衛艦・総合ミサイル防衛能力の果てに、この国が向かうのはどこなのだろうか。
私たちは、沖縄における新基地建設とSTOVL=F-35Bの軍事拠点化(与那国島・石垣島・宮古島・下地島・沖縄島・伊江島・奄美大島・馬毛島など)の拡大と、空母と考えれば、面的な広がりが大きくなり、それだけ「防衛圏・防衛線」が拡張されることは、論を待たないのだ。「この道はいつか来た道」、「米国同伴だから問題ないのか」と、きっちりと向き合うことが重要になってしまったようだ。
新田原基地のF-35B配備反対、STOVL搭載護衛艦改修(空母保有)反対の声を共に全国的な課題に押し上げよう。