「もし一つの県から一つの代表的な山を選ぶとしたら、という考えが前から私にあった。
福井県はその県界の白山山脈南半の稜線上に多くの峰を有している。(中略)勝山から大野へ向う間から眺めた荒島岳は、文句なしの立派な山であった。」
(深田久弥「日本百名山』の一節より)
福井県はその県界の白山山脈南半の稜線上に多くの峰を有している。(中略)勝山から大野へ向う間から眺めた荒島岳は、文句なしの立派な山であった。」
(深田久弥「日本百名山』の一節より)
今回の登山の極みは、終わってから始まった。
秋も盛りを過ぎてきて、登山口の木々にはもう葉は残っていない。
枯葉がもたらしてくれた足元の豊かな土壌。踏みしめる毎に足裏に感じるふかふかとした豊かな感触が、命の循環を感じさせてくれる。
今は動物たちが冬を越えるために蓄えをする大事な時期。
ある程度道が整備されている一般コースとは異なり、
上級者コースは誇張でも何でもなく死をいつもより身近に感じられる。
たとえ1,500m級の登山であっても侮ってはいけない。湿った枯葉で不安定な足元。
ロープを手繰り寄せながらでないと絶対に上がることができない急な斜面。全身のバネをフル活用して進みながら、足腰にも、上半身にも疲労が徐々に蓄積する。
途中に何度も出てくる「滑落注意」の警告板。
少しでも足を滑らしたら、二度と帰れなくなるのは目に見えているので、なおさら神経がすり減っていく。
しかし同時にこんな貴重な登りは滅多にないという思いも。
一言、ここは楽しい。
山頂から望む眺めは圧巻の一言。
雪に覆われている様をまだ伺うことはできないが、白山、赤兎山など、これもまた見事な山々が、雲の向こうに見てとれる。
吹きすさぶ風があまりに強く、動画撮影にも使用していたipadも手を離した瞬間に風の精霊たちのおもちゃにされてしまいそう。
頂上で読む深田久弥の一節が大野の素晴らしさを教えてくれる。
下山に向けて食すみたらし団子。暖かい物が食べたい気持ちがあるが、やはりこういった甘い物が私の性質には合っている。
さすがに上級者コースでの下山は無理だと判断し、帰りは一般コースでの下山に。
上級者コースでは一人しかすれ違うことがなかったのに対し、こちらでは30名ほどとすれ違う。登り時に感じていた一種の寂しさからは解放され、帰りは2時間ほどで下山。
しかしここからが今回の地獄。
車を止めた上級者コースの入り口まで戻らなければならない。
道もわからないが幸いにも時間はまだある。午後2時半。さぁ、目的地に向けただ歩く、歩く。
下山した時点で足は笑って痙攣していたが、歩く、ただ歩く。
手持ちの水分も切れてしまったが、お金は車内にあるため、通自動販売機がたとえあっても前を泣く泣く通り過ぎるしかない。
体の痛み、頭痛具合から体内の水分も切れているのがわかる。これは少し危ない凶兆。
ただ、歩く。
ダムの付近のため、傾斜が続く。車がそばを無情にも通り過ぎていく。
休憩を繰り返し、ただ歩く。この時期の午後4時は危険だ。
釣瓶落としのこの季節。一瞬で日は落ちてしまう。
急げ。動け。頑張れ。動け。指示を送るが、もう足も、ザックを背負った肩も限界。
ようやくたどり着いた時には、時計が午後5時半を回っていた。
下山してから3時間を歩いていたことになる。車中に転がるように倒れこんだ。
ちょうど車にたどり着いた時点で警察車両が近くを通り過ぎていった。気のせいかもしれないが、こちらを見ていた気もする。
「さすがにこの時間帯にこの方角へと歩く人の姿をおかしい」と思ってくれた親切な誰かが交番に通報してくれたのかもしれない。
迷惑をかけてしまったと素直に反省。
今回は圧倒的に下調べが足りなかった。
地元福井ということで油断し、地図での下調べをしていなかった。
山の楽しさ、怖さを痛感した1日だった。登山とは、知識のスポーツだとまた実感。
しかし、21㎞か・・・歩きましたな・・・