ATACMS © UPI通信社
【詳細】ロシア ウクライナに軍事侵攻(11月18日の動き) 2024年11月19日 0時04分
ロイター通信 “射程の長いミサイル 近日中に攻撃に使われる”
アメリカの主要メディアが、バイデン大統領がウクライナに対し、ロシア領内への攻撃にアメリカが供与した射程の長いミサイルを使うことを許可したと伝えたことをめぐり、ロイター通信は近日中に攻撃に使われるとの見通しを伝えました。
ロシア側からは反発の声が上がっています。
アメリカの複数のメディアは17日、アメリカ政府当局者の話としてバイデン大統領がウクライナに対しすでに供与した射程の長いミサイルATACMS(エイタクムス)をロシア領内への攻撃に使用することを許可したと伝えました。
ロシア西部のクルスク州で越境攻撃を続けるウクライナ軍を防衛するため、ロシア軍と北朝鮮軍の部隊に対し使用される見通しだと報じています。
これについてロイター通信は、情報筋の話として「ウクライナは近日中に最初の攻撃を行う計画だ」と伝えました。
米シンクタンク “効果は限定的“との見方
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「クルスク州の軍事目標に対する射程の長い兵器の使用制限を部分的に解除しても、ロシア軍の聖域をなくすことにはならない」と指摘し、効果は限定的だとの見方を示しました。
一方、ロシア議会下院で国際問題を担当する委員会のスルツキー委員長は17日、国営のタス通信に対し「きわめて深刻なエスカレーションを招くことは避けられない」などと述べて反発しました。
アメリカのメディア、ブルームバーグは17日、北朝鮮が今後、兵士を順次派遣しその規模はあわせて10万人に達する可能性があると一部の国が分析しているという関係者の話を伝えていて、ウクライナがATACMSを使って両国の部隊を食い止められるかが焦点です。
専門家 “戦況を大きく変えるとは思えない”
防衛省防衛研究所の山添博史米欧ロシア研究室長はアメリカの主要メディアがバイデン大統領がウクライナに対して、ロシア領内への攻撃で射程の長いミサイルの使用を許可したと伝えていることについて「ウクライナにとって大きな力になることは確かだがより大きな力が必要だ。そういう意味で戦況を大きく変えるとは思えない」と述べ、効果は限定的だという考えを示しました。
また、バイデン政権がこの時期に決断したとされることについては、「バイデン大統領の政治生命がみえていて、アメリカとして政権的に難しい段階であっても強い決断を進める力があるとロシアに示す意味合いもある」と述べ、ウクライナ支援に消極的な姿勢を示すトランプ氏を意識し、アメリカとして支援は揺るがないという姿勢を示したかったのではないかとの見方を示しました。
さらに、「北朝鮮が入ってきてアメリカやウクライナが何か“しっぺ返し”をする必要性があるという思惑が高まってきたのではないか」と述べ、ロシアと北朝鮮の軍事協力が進む中、バイデン大統領としては何らかの対抗措置を示す必要があったとの分析を示しました。
”ウクライナにロシア領内への長距離ミサイル使用許可”米報道
アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズなど複数のメディアは17日、政府関係者の話としてバイデン大統領が、ウクライナに対し、すでに供与した長距離ミサイルをロシア領内への攻撃のために使用することを許可したと伝えました。
使用を許可したのは精密攻撃が可能とされる射程の長いミサイル、ATACMSだとしています。
ウクライナ政府はロシア領内への攻撃に射程の長い兵器を使うことを許可するよう、繰り返し求めてきましたが、バイデン政権は、緊張が過度に高まることを懸念して、認めていませんでした。
ATACMSの使用の許可は、ロシアが北朝鮮の兵力を戦闘に投入する決断をしたことに対応するためで、ロシア西部のクルスク州で越境攻撃を続けているウクライナ軍を防衛するため、ロシアと北朝鮮の部隊に対して使用される見通しだとしています。
ニューヨーク・タイムズは、これはアメリカの政策の転換を意味するとし、ウクライナへの追加支援の制限を主張してきたトランプ次期大統領の就任を2か月後に控えた時点での決断をめぐっては、バイデン大統領のアドバイザーのあいだでも意見が割れたと伝えています。
アメリカ製 地対地ミサイル ATACMSとは
ATACMSは、地上から発射され、地上の標的を攻撃する、アメリカ製の地対地ミサイルです。
製造する「ロッキード・マーチン」によりますと、最大射程はおよそ300キロで、GPSを使った精密な攻撃が可能だとしています。
ウクライナに供与されている軍事車両にロケット弾の発射システムを搭載した高機動ロケット砲システム=「ハイマース」から発射できます。
ATACMSは23年10月にウクライナ軍が使用を開始したことが確認されていますが、バイデン政権はロシア領内の奥深くへの攻撃に使用することを許可してきませんでした。
バイデン政権はことし5月にロシア軍がウクライナ東部ハルキウ州で攻勢を強める中、アメリカが供与した兵器でロシア領内の国境沿いに集結するロシア軍の部隊などを攻撃することを許可しましたが、ATACMSの使用には制限を課してきました。
アメリカのAP通信は17日、アメリカ政府当局者などの話として今回、バイデン大統領がこうした使用制限を緩和したと伝えています。
また、CNNテレビは、ATACMSはウクライナ軍が越境攻撃を続け、北朝鮮の兵士がロシア軍とともに軍事作戦を始めたとされるロシア西部クルスク州で使用される可能性が高いと報じています。
ロシアとの国境に接するウクライナ北東部スムイ州の州都スムイから射程300キロのATACMSを発射した場合、クルスク州全域が射程に入ることになります。
バイデン大統領 政策変更決断の思惑とは
バイデン大統領が今回のタイミングで政策の変更を決断をした背景には、大統領としての任期が残り2か月あまりとなるなか、ウクライナをできるだけ有利な立場においたうえで政権を引き継ぎたいという思惑があります。
トランプ次期大統領は、選挙期間中から、自身が当選すれば就任前にウクライナとロシアの戦争を終結させると主張し、停戦交渉の仲介に乗り出す可能性を示唆してきました。
これを意識してか、ロシアのプーチン大統領は、西部のクルスク州で越境攻撃を続けるウクライナ軍に対し、北朝鮮から派遣された兵士と合わせ、5万人規模の部隊を近く投入する計画だと伝えられています。
バイデン大統領としては、この2年半続けてきたウクライナへの軍事支援の成果が、大きく損なわれかねないとの危機感があるとみられます。
安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官はバイデン大統領が出席するG20の首脳会議に先だって記者団に対し、「バイデン大統領はヨーロッパの首脳らと、ウクライナを強化する方法を見いだし、次期政権に可能な限り最善の状態で引き継ぐことができるよう、話し合う予定だ」と話していました。
バイデン大統領は、ドイツやフランス、イギリスなどNATO=北大西洋条約機構のメンバー国も参加するG20の機会が、決断に対する理解を得やすいタイミングだと捉えた可能性があります。
ただ、ウクライナがATACMSをロシア領内に向けて実際に使用すれば、プーチン大統領の怒りを買い、紛争が拡大するリスクも伴います。
アメリカメディアによれば、ATACMSの使用が戦況を大きく変える可能性は低いとの見方もあり、使用の許可については、バイデン大統領のアドバイザーの間でも意見が割れたということです。
さらに、トランプ氏がバイデン大統領の決断を引き継がない可能性もあるとみられていて、今後の戦況への影響が注目されます。
ウクライナが使用を求める背景
アメリカのバイデン政権は、自国が供与した兵器についてウクライナ国内での使用に限定してきました。
方針が変わったのはことし5月です。
ロシア軍が東部ハルキウ州の北部で国境を越えて州内に侵入し、国境周辺の複数の集落を掌握したことを受けて、ウクライナに対し、ロシア領内の一部の地域への攻撃を許可しました。
ただ、その後も国境から離れたロシア領内を攻撃することは、認めてきませんでした。
一方、ロシア側はロシア領内からウクライナの東部や北部の市街地に滑空爆弾などによる攻撃を繰り返し行っているほか、北朝鮮から供給されたミサイルでも攻撃を行い、ウクライナ側には市民の犠牲が相次いでいます。
このためゼレンスキー政権は空からの攻撃を防ぐためとして、ロシア領内の基地や弾薬庫などを攻撃できるよう、射程の長い兵器についても使用制限の撤廃を強く求めてきました。
制限の撤廃を求めてきたとみられるのが、アメリカから供与された最大射程がおよそ300キロとされるミサイル、ATACMSや、イギリスとフランスから供与された射程が250キロ以上の巡航ミサイル「ストームシャドー」と「SCALP」(スカルプ)です。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」はことし8月下旬の時点で、ロシア領内の16の空軍基地を含む少なくとも245の軍事施設などの標的がATACMSの射程内にあるという分析を示しています。
“使用許可” ゼレンスキー大統領は否定も肯定もせず
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日のビデオ演説で、アメリカがロシア領内への攻撃で供与した長距離ミサイルを使うことを許可したと伝えられていることに触れ「攻撃はことばで行われるものではない。そういったことは発表されない。ミサイルがみずから語る」と述べました。
ゼレンスキー大統領は否定も肯定もしなかったものの、許可が出たかどうかは実際のミサイル攻撃という形で明らかになると示唆しました。
EU上級代表 加盟国と協議する考え示す
ウクライナがロシア領内への攻撃で射程が長いミサイルを使うことをアメリカが許可したと伝えられていることをめぐり、EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表は加盟国と協議する考えを示しました。
ボレル氏はミサイルを使用できるようにするべきだとしたうえで「加盟国がウクライナが必要とするあらゆる支援を行うよう望んでいる」と述べました。
またフランスは、射程の長いミサイル「SCALP」をウクライナに供与していますが、フランスのメディアは、ロシア領内への攻撃に使用することについてフランス政府がこれまでミサイルの一部にアメリカ製の部品が使われていることを理由に許可していなかったと伝えています。
これについてフランスのバロ外相は、「ロシアがウクライナの領土を攻撃している拠点を標的とするのであれば、選択肢だとしている」と述べ、許可する用意があることを示唆しました。
林官房長官「戦況や情勢への影響含め 動向を注視」
林官房長官は18日午前の記者会見で「コメントは控えるが、政府としてウクライナでの戦況や情勢への影響を含め、関連の動向を注視したい」と述べました。
一方で、「北朝鮮によるロシアへの兵士の派遣を含む、最近のロシアと北朝鮮の軍事協力の進展の動きを強く非難する。こうした動きはウクライナ情勢のさらなる悪化を招くのみならず、わが国を取り巻く地域の安全保障に与える影響の観点からも、深刻に憂慮すべきものだ」と述べました。
ウクライナ北東部でロシア軍がミサイル攻撃 11人死亡
ウクライナの当局は北東部のスムイで、17日夜ロシア軍のミサイルが住宅街の建物を直撃し、これまでに9歳と14歳の子ども2人を含む
11人が死亡し、89人がけがをしたと発表しました。
400人以上の住民が避難を余儀なくされたということで、地元当局は「日曜日の夜が地獄になった」とロシアを非難しました。
地元当局によりますと、ロシア軍はその数時間後に再びスムイに対しミサイル攻撃を行い、市内では停電が発生したということです。
ゼレンスキー大統領は17日夜のビデオ演説で「もう1000日近く、ロシアは同じことをしている。モスクワの誰かと話すためではなく、ロシアに本当に戦争を終わらせるために時間を費やすべきだ」と訴えました。
キム総書記 “米と西側が軍事的介入を拡大するための戦争”
北朝鮮の国営メディアは、キム・ジョンウン総書記が、11月15日に、首都ピョンヤンで開かれた軍の大隊長らの集会で演説したと18日伝えました。
この中でキム総書記は、ウクライナ情勢について、「アメリカと西側が実戦経験を増やして、軍事的な介入の範囲を全世界に拡大するための戦争と見なければならない」と主張しました。
その上で、「多くの国が巻き込まれ、第3次世界大戦が起きかねないという不安を増大させている」などと非難し、戦争への備えを急ぐよう強調しました。
一方で、演説でキム総書記が、ロシアへの兵士の派遣について、言及したのかは伝えられていません。
韓国の通信社、連合ニュースは、専門家の話として、「ロシアへの派兵などについて、一線にいる将校たちの不満や動揺を事前にコントロールする意図が読み取れる」と伝えています。
ロシア軍 ウクライナのエネルギー施設を攻撃 全土で計画停電へ
ウクライナではロシア軍が各地のエネルギー施設を標的に、この3か月で最大規模とされるミサイルと無人機による攻撃を行ったことを受けて、18日に全土で計画停電が実施されることになり、本格的な冬を前に影響が広がっています。
ウクライナ軍は17日、ロシア軍が極超音速ミサイルだとする「キンジャール」や巡航ミサイルなどあわせて120発のミサイルと90機の無人機で攻撃を仕掛け、このうち102発のミサイルと42機の無人機を撃墜したと発表しました。
標的はウクライナ全土のエネルギー施設だとしていて、首都キーウの当局は、これだけ強力な攻撃が行われたのはおよそ3か月ぶりだとしています。
地元の当局などによりますと、これまでに南部のオデーサ州やミコライウ州、西部のリビウ州であわせて5人が死亡し、東部ドニプロペトロウシク州では鉄道の施設が被害を受け、鉄道会社の職員2人が死亡しました。
このうちオデーサ州ではインフラ施設に被害が出て、停電や断水となり、暖房の供給も止まりました。
また、リビウ州でも地域の暖房システムが被害を受けたことで、6000人が一時的に暖房の供給のない状態に陥ったということです。
国営の電力会社「ウクルエネルゴ」は、攻撃でエネルギー施設が被害を受けたとして、ウクライナ全土で18日の午前6時から午後10時の間に計画停電を実施すると発表し、本格的な冬を前に影響が広がっています。
ウクライナではロシア軍の攻撃でことし3月から8月にかけて発電所などが深刻な被害を受けていて、日本政府は16日にオデーサとハルキウにエネルギー支援として新たな発電機などの供与を発表したばかりでした。