ただ――。
と、マジリックは注意を促すように言った。
「扉を元に戻すだけでは、どうにも中途半端になってしまう気がします」と、マジリックは白黒のハット帽を外すと、中から前髪がカールしているライオンに似た動物を取りだした。
眠そうな顔をした動物は、くるりと巻かれた前髪をいじると、不機嫌そうに言った。
「客が少ないわね。まだ舞台には早いんじゃないの?」
ガオウーッ――。
「おいおい」と、ガッチは驚いて言った。「おまえらの舞台を見る気はないぜ」
「それはひどい言い方ですね」と、マジリックはつまらなさそうに言った。「普段どおりにやった方が、何事もうまく行くもんですよ」
ふーん――と、ガッチはつまらなさそうに言った。
マジリックはライオンに目配せすると、息を合わせて言った。
「それじゃいきますよ」――いいですか「ほいっ……」
マジリックがくるりんぱ、とハット帽を被り直すのと、前髪をカールさせたライオンが大きく吠えるのとは、ほとんど同時だった。
「――おお」と、その場にいた大臣達は、思わず感嘆の声を上げた。
マジリックが帽子を被ったとたん、ばらばらに壊れていた扉が、すっくと元の扉に戻って立ちあがった。
「やるじゃねぇか」
と、ガッチは目を見張って言った。「手品は退屈だが、こりゃ見応えがあったぜ」
「いえいえ。ありがとうございます」
と、マジリックは、まんざらでもないように言った。「このとおり、元の姿には戻りました」けど、「これだけじゃ、ただ形を戻しただけです」
ほい……。
と、マジリックは小さく指を鳴らすと、唇に人差し指をあてがった。
「――」と、広間にいた誰もが、マジリックに促されるまま、しっかと口を閉じて様子をうかがった。
「――おい、いつまで黙ってるんだよ」
と、ガッチは辛抱できずに言った。
「しっ……」と、言ったマジリックは、ガッチ達の顔を一人一人見ながら、耳に手の平を当て、耳を澄ませるような仕草をした。
「……」と、なにかに気づいた又三郎が、目を白黒させて、王様の“夢の扉”に近づいていった。
「聞こえる。なにか、話してるみたいです」
パフル大臣も急いで夢の扉に近づくと、そっと耳を澄ませた。