「お父さんって、沙織ちゃんの?」と、ジローは困ったように言った。「沙織ちゃんを置いて、どこかに行っちゃったのかい――」
「わーん」
と、両手で目を押さえながら、サオリはただ泣き続けるだけだった。
マコトと顔を見合わせたジローは、相談するように言った。
「早く進みたいけれど、この子を置いてはいけないな」と、ジローの考えに賛成するように、マコトは小さくうなずいた。
「しょうがないよね。こんな小さな子、一人で置いていけないよ」
「――そうだな」と、ジローは言って、橋の上から周りを確かめた。「なにもないように見えるが、この子がいるんだから、近くに町があるはずだ」
「うん」と、ラジオを耳にあてたマコトが言った。「この辺に町があるみたい。中の人が、町ならこの近くにあるって、話しかけてくるよ」
「――」と、ジローはマコトの言葉を疑いつつ、ラジオから流れてくる放送を聞かせてもらった。
“――橋のみんなも、遊びに来てください。そこは、今も昔も楽しめる町ですよ”
と、ボリュームを上げたラジオから、女性の声が聞こえた。
「橋のみんなって、もしかして――」と、ジローは言った。
「そうだよ」と、ジローの言葉にマコトはうなずいて言った。「ぼく達のことだよ、きっと。“あこがれの町”を出てからずっと、ぼくのことを励ましてくれてたんだから」
「ラジオの、この人がかい」と、ジローは疑うように言った。「どこで見てるんだ」
「そんなの、わかんないよ」と、マコトはラジオを元に戻すと、唇をとがらせて言った。「この女の人は、エスって言ってたよ。なんか、聞いてるぼくらの気持ちが通じるみたいなんだ」
“さあ。みんなサオリに力を貸してあげて。青騎士なら大丈夫、まだあなた達を追いかけてこないから”と、ラジオからエスが言った。“町はすぐそこよ。だけど、時間にだけは気をつけてね――”
マコトが橋のたもとに戻って、周囲を探るようにゆっくり顔を向けていくと、手にしたラジオから“そっちだよ”と、まるで見えているかのように声が聞こえた。
どこか自慢げにほくそ笑んでいるマコトを見て、ジローはまだ信じられないというように、どこか浮かない表情で唇を結んでいた。
「さぁ、もう泣かないで」と、ジローは膝を突くと、サオリと目線を合わせて言った。「みんなで沙織のお父さんを探してあげるから。一緒に町に行ってみようよ」
ヒック……と、小さくしゃくりあげていたサオリは、肩を震わせながら目を開けると、ジローを見て大きくうなずいた。