「そんなことはないさ。ここでしっかり休んでいけば、すぐにたどり着けるくらいの距離だぞ」と、ジローが言うと、マコトはラジオを岩の上に置き、ボリュームを上げて寝転がった。
“銀河放送局がお届けする、安らぎのひととき――”
ラジオから、エスとは違う男の人の声が聞こえてきた。ゴロウという男の人は、聞いたことはないが、なぜか体の疲れが取れるような、聞き心地のいい素敵な音楽を流してくれた。
――と、
カツン、カツツン――……。
小石が弾んで音を立てた。
音楽を聴きながら寝転がっているマコトと、手持ち無沙汰にきょろきょろしているサオリは、特に気にもとめなかったが、音のした方をさっと振り向いたジローは、なぜか聞き耳を立てるような、難しい表情を浮かべていた。
緊張感を漂わせているジローに気がつき、マコトは体を起こして訊いた。
「どうしたの……。なにかあった?」
マコトに背を向けているジローは、黙って首を振った。
「――なんでもない。気のせいだったみたいだ」と、ジローは言うと、ため息をつくように、詰めていた息をふっと吐きだした。
うっすらと掻いた汗が引いた頃、ジロー達はまた道に戻り、歩き始めた。目指すのは、川の上流に見えた小さな町だった。
途中、旅人らしい男の人が山を下ってきたが、ジローが声をかけても立ち止まらず、逃げるように通り過ぎて行ってしまった。
「ちぇっ。そんなにぼく達が恐いのかな――」
と、黙って歩き去って行く旅人の後ろ姿を見て、マコトが恨めしそうに言った。
「しかたがない」と、ジローは言った。「町のことを聞こうと思ったが、急いでいたんだろう。別の人が来たら、また声をかけるさ」
しかし、しばらく歩いても、山から下りてくる人も、ジロー達と同じく山を登ってくる人の姿も、見えなかった。
もしかしたら、これから立ち寄ろうとしている町も、橋を渡る前に訪れた、“昨日と明日が一緒にある町”のような、ちょっと普通ではない町なのかもしれない。と、無邪気なサオリを除き、ジローもマコトも、どこか不安を覚えていた。
水音の涼しかった川からどんどん離れ、道は次第に木々が茂っている森の中へと伸びていった。最初は細かった木も、道を進んでいくにつれて太さを増し、やがて、一本の木が一つの建物のように太く、一番高い枝を見上げると、後ろにひっくり返ってしまいそうなほど、大きな木に変わっていった。