「行ったら最後、決して戻っては来られないという、危険な場所だよ」と、町長は言った。「だから当然、私もマルコも、話しにしか聞いたことがない。その場所に迷い人を落とすと、青騎士は跡形もなく消え去るそうだ」
「迷い人を、この国から追い出す、ということですね」と、ジローは言った。「望まれずに来てしまった者は、この国に危険をもたらすということで、どこからか現れる騎士に排除されてしまう。ということでしょうか……」
「なにかをする、しないにかかわらず、青騎士はよその国から迷いこんできたというだけで、襲いかかってくるんだ」
「――なら、ここにも遅かれ早かれ、青騎士が現れる」
と、ジローが言うと、町長は深くうなずいた。
「間違いないだろうな……」
部屋の中が、しんと静まり返った。
「この町に居続ければ、君だけじゃなく、町の人達も青騎士の大剣を受けるかもしれない」と、町長のメルクは話しずらそうに言った。
「では、どうすれば――」と、ジローは言った。「青騎士を打ち倒すことはできるんでしょうか。“死の砂漠”に送りこまれる前に、青騎士を撃退できれば、無事にやり過ごせるのでは」
「できればそうしたいが、言い伝えにはその続きがあるんだよ」と、町長はソファーから身を乗り出して言った。「青騎士は、倒されれば倒されるだけ、強くなって蘇ってくるんだ」
「蘇る?」と、ジローは言った。
「迷い人一人に、青騎士は一体しか現れないらしいが、はじめは腕に覚えがあって簡単に撃退できたとしても、蘇った青騎士は倒された時よりも強くなっているということだ。もしもまた撃退できたとして、青騎士はさらに強くなってまた蘇り、迷い人を“死の砂漠”に送るまで、何度でも襲いかかってくるんだ」
「青騎士から逃れるには、やって来た場所に戻るしかない」
と、町長は言った。「なんとしても、忘れたことを思い出し、帰る方法を見つけなければならない」
「――王様の城に行くしかないんだ」と、マルコは言った。「王様の城には、別の世界に繋がっている扉があるそうなんだ。その扉なら、君がいた場所に帰れるかもしれない」
「王様の扉、ですか――」と、ジローは考えるように言った。「ねむり王の城には、どうやって行けばいいんでしょうか」
「王様の城に行くには、“希望の町”を目指さなければならない」と、町長は言った。「この町からは、峠を越えた先にあるんだ。迷うようなことはないと思うが、いかんせん長い道のりだよ」