ジローは、すれ違った女の人に訊いた。
「すみません。“希望の町”へは、この町からどのくらいかかるでしょうか」
買い物をしていたのか、鞄を手に提げた女の人は、立ち止まって言った。
「あら、どこかに旅をしているの? “希望の町”なら、この町からは一日も歩けば到着するわよ」
よかった――。と、ジローはほっと胸をなで下ろしたように言った。
「だけど、今は難しいと思うわ」と、女の人は残念そうに言った。「この先の山で、サルの化け物が出るらしいの」
「サル?」と、マコトは首を傾げながら訊いた。「――って、木に飛び移ったりする、こんな動物ですか」
マコトの物まねを見て、女の人は考えるように言った。
「――たぶん、そんな化け物だと思うわ。でも、サルに似ているっていうだけで、誰も姿を見たことがないの。ただ、木から木に飛び移って、道行く人の後をつけてくるんですって」
「そうだよ。やっぱり猿だ」と、マコトは大きくうなずいた。
しかし、二人のやり取りを見ていたジローは、一人難しい顔をしていた。
「町長の家は、どちらでしょう? 迷惑をかけるかもしれないので、挨拶に伺いたいんですけど」と、ジローは言った。
「――あら」と、女の人は驚いたように言った。「見かけによらず、ずいぶんしっかりしているのね。町長の家は、少し先の丘の上に建っているわよ。赤い屋根の色をしているから、すぐにわかると思うわ」
ジローはお礼を言うと、町長の家を目指して歩き始めた。
「ねぇ17号」と、ジローに替わって、サオリの手を引いているマコトが言った。「どうして、町長の家に行くの」
「おれ達は別の場所からやって来たらしいからな」と、ジローは言った。「なんでもこれから、青騎士とかいうやつが追いかけて来るらしいじゃないか。それはこの国の人達にとって、とっても恐ろしいことのようだから、先に事情を説明しておかなければ、町の人達が困ってしまうだろ」
マコトはつまらなそうな顔をすると、言った。
「なんか緊張するし、行きたくないなぁ……」
「マコトは黙っていればいい」と、ジローは言った。「話しはおれがするさ」
ジロー達は、町の様子を見ながら、石が敷き詰められた大通りを進んでいった。
話を聞いた女の人が言っていたとおり、道の先に見える小高い丘のような場所に、数軒の家が建っていた。赤い色の屋根をした家は、その中に一軒だけだった。
「あそこだよね」と、マコトが指を差して言った。
「――大丈夫か?」と、ジローは二人を見て言った。「ずいぶん歩きっぱなしだけれど、疲れてないか」
「ぼくは大丈夫。サオリは?」と、マコトが訊くと、サオリはジローの顔を見上げて、どちらともいえない感じで首を振った。
「はっは……」と、ジローは声を出して笑った。「もう少しだから、頑張って行こう」