くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(48)

2023-11-19 00:00:00 | 「王様の扉」

 ジローは、すれ違った女の人に訊いた。
「すみません。“希望の町”へは、この町からどのくらいかかるでしょうか」
 買い物をしていたのか、鞄を手に提げた女の人は、立ち止まって言った。
「あら、どこかに旅をしているの? “希望の町”なら、この町からは一日も歩けば到着するわよ」
 よかった――。と、ジローはほっと胸をなで下ろしたように言った。
「だけど、今は難しいと思うわ」と、女の人は残念そうに言った。「この先の山で、サルの化け物が出るらしいの」
「サル?」と、マコトは首を傾げながら訊いた。「――って、木に飛び移ったりする、こんな動物ですか」
 マコトの物まねを見て、女の人は考えるように言った。
「――たぶん、そんな化け物だと思うわ。でも、サルに似ているっていうだけで、誰も姿を見たことがないの。ただ、木から木に飛び移って、道行く人の後をつけてくるんですって」
「そうだよ。やっぱり猿だ」と、マコトは大きくうなずいた。
 しかし、二人のやり取りを見ていたジローは、一人難しい顔をしていた。
「町長の家は、どちらでしょう? 迷惑をかけるかもしれないので、挨拶に伺いたいんですけど」と、ジローは言った。
「――あら」と、女の人は驚いたように言った。「見かけによらず、ずいぶんしっかりしているのね。町長の家は、少し先の丘の上に建っているわよ。赤い屋根の色をしているから、すぐにわかると思うわ」
 ジローはお礼を言うと、町長の家を目指して歩き始めた。
「ねぇ17号」と、ジローに替わって、サオリの手を引いているマコトが言った。「どうして、町長の家に行くの」
「おれ達は別の場所からやって来たらしいからな」と、ジローは言った。「なんでもこれから、青騎士とかいうやつが追いかけて来るらしいじゃないか。それはこの国の人達にとって、とっても恐ろしいことのようだから、先に事情を説明しておかなければ、町の人達が困ってしまうだろ」
 マコトはつまらなそうな顔をすると、言った。
「なんか緊張するし、行きたくないなぁ……」
「マコトは黙っていればいい」と、ジローは言った。「話しはおれがするさ」
 ジロー達は、町の様子を見ながら、石が敷き詰められた大通りを進んでいった。
 話を聞いた女の人が言っていたとおり、道の先に見える小高い丘のような場所に、数軒の家が建っていた。赤い色の屋根をした家は、その中に一軒だけだった。
「あそこだよね」と、マコトが指を差して言った。
「――大丈夫か?」と、ジローは二人を見て言った。「ずいぶん歩きっぱなしだけれど、疲れてないか」
「ぼくは大丈夫。サオリは?」と、マコトが訊くと、サオリはジローの顔を見上げて、どちらともいえない感じで首を振った。
「はっは……」と、ジローは声を出して笑った。「もう少しだから、頑張って行こう」

 

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王様の扉(47)

2023-11-19 00:00:00 | 「王様の扉」

 森に入る前は、まぶしいほど明るかった空が、たっぷりの木の葉に遮られ、薄暗く感じられるほどだった。
 周囲の変化に敏感だったのは、サオリだった。薄暗い空間を、どこか恐ろしげに感じるようだった。ジローと繋いでいる手に、汗ばむほど力が入っていた。
「大丈夫だよ。少し暗くなっただけだから」と、ジローはサオリを励ますように言った。
「――」と、サオリはぶるりと大きく首を振った。「違うの。誰かこっちを見てる――」
 と、サオリが言い終わらないうちに、煙がかき消えるような素早さで、ジローが動きだしていた。
 ジローは、足元の小石を手に取ると、気配を感じた方向に向かって、投げつけた。

 カッツン――……。

 大きな壁のようにも、天にも届く建物のようにも見える木が、乾いた音を立てた。
 見れば、ジローの投げた石が、深い皺を刻んだ木の幹に、半ばまで突き刺さっていた。
「どうしたの?」と、あわててサオリの腕を引いたマコトが、きょろきょろと辺りを確認しながら言った。
「動物か人かはわからないが、なにかがおれ達のそばから、様子をうかがっているようだ」と、ジローは言った。
「――えっ」と、マコトは驚いたように言った。「ぼく達を食べるのかな」
「それはわからない」と、ジローは言った。「姿を見せないから、なんとも言えないが、このすばしこさは、猛獣のものではないよ」
「沙織をお願いできるかい」と、ジローはマコトに言うと、マコトはこくりとうなずき、サオリの手をしっかりとつかんだ。
「町にたどり着くまで、気を引き締めていこう」と、ジローは言って、先を歩き始めた。「なにかあればその場にしゃがむか、手近な木の陰に隠れるんだ」
 マコトは「わかった」と言って、ジローの後ろを離れず、ぴったりとくっついて歩いて行った。
 と、ジローの投げた小石が、深々と木の幹に刺さっているのを見つけたマコトが、驚いたように言った。
「すげぇ力。なんかサイボーグみたい――」
 背中を向けていたジローは、黙ったまま、町に向かって進んでいった。

 ――――……

 三人が目指していた町は、“麓の町”というらしかった。
 町に近づくと、これまで訪れたどの町とも違い、ちらほらと人の姿があった。
 人々の生活している様子が、聞こえてくる音からも、漂ってくる匂いからも、しっかりと感じられた。
 どのくらい滞在できるのか。夜が来るまでに山越えをするのがきびしいのなら、宿泊することも考えなければならなかった。

 

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