「――うわーん。ごめんよう、もうしないよう……」
と、二人の横を、両手で顔を覆いながら走り去っていったのは、“あこがれの町”を出る時に逃げていった、夢封児だった。
「――あいつ、どうしたんだろ」と、マコトが苦々しい顔をして言った。
「ああ」と、ジローはうなずいた。「町に戻って、また悪さをしなければいいけどな」
どこに向かって行ったのか、夢封児はあっという間に小さくなって、すぐに見えなくなってしまった。
夢封児の行方から目を離し、二人がまた歩き始めると、川に架かった橋が現れた。
と、ジローは橋の上にいた子供に目をとめ、はっとして足を止めた。
「どうしたの?」と、ジローを追い越して、マコトは言った。
「――あれ? お姉ちゃん……。なわけないよな」
マコトが首を傾げている横を、ジローはゆっくりと、正面に見える女の子に近づいていった。
半袖の白いワンピースを着た女の子は、橋の欄干に足を掛け、キラキラと光を反射しながら流れていく川面を見ながら、なにやらきゃっきゃっと嬉しそうに笑っていた。
「こんにちは」と、ジローは女の子に話しかけた。「お嬢ちゃんは、この辺に住んでるのかい」
橋の上に下りて振り返った女の子は、ジローの顔を怪訝そうに見て、小さく首を振った。
と、チチッ……と鳥の鳴き声がしたかと思うと、女の子の頬をくすぐるように、青い翼のカワセミがひらりと飛んできた。
怪訝そうな顔をしていた女の子は、頬に触れた翼のくすぐったさに首をすくめ、嬉しそうに、きゃっきゃっと声を上げながら、飛び交うカワセミから身をかわしていた。
女の子をからかっていたカワセミが器用に肩に止まると、ようやく落ち着いた女の子は、ジローを見上げて言った。
「ううん。わからない」
「おまえ、どこから来たの」と、マコトが言うと、女の子は「――」と、大きく首を振った。「ケイコ姉ちゃん。なんて、知らないよね」
マコトの質問に目を白黒させている女の子を見ながら、ジローが驚いたように言った。
「――マコト、なにか思い出したのか」
「うん」と、マコトは嬉しそうに言った。「ラジオを聞きながら歩いていたからかもしれないけど、確かぼくには、ケイコお姉ちゃんがいたと思うんだ」
「よかったじゃないか」と、ジローは言った。「この子のことは、見覚えはないかい」
「――」と、マコトは首を振った。「なんとなく、ケイコお姉ちゃんと見た目は似てるんだけど、ぼくより年下だし、やっぱり違ってた」