くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(34)

2023-11-12 00:00:00 | 「王様の扉」


「――うわーん。ごめんよう、もうしないよう……」

 と、二人の横を、両手で顔を覆いながら走り去っていったのは、“あこがれの町”を出る時に逃げていった、夢封児だった。
「――あいつ、どうしたんだろ」と、マコトが苦々しい顔をして言った。
「ああ」と、ジローはうなずいた。「町に戻って、また悪さをしなければいいけどな」
 どこに向かって行ったのか、夢封児はあっという間に小さくなって、すぐに見えなくなってしまった。
 夢封児の行方から目を離し、二人がまた歩き始めると、川に架かった橋が現れた。
 と、ジローは橋の上にいた子供に目をとめ、はっとして足を止めた。
「どうしたの?」と、ジローを追い越して、マコトは言った。

「――あれ? お姉ちゃん……。なわけないよな」

 マコトが首を傾げている横を、ジローはゆっくりと、正面に見える女の子に近づいていった。
 半袖の白いワンピースを着た女の子は、橋の欄干に足を掛け、キラキラと光を反射しながら流れていく川面を見ながら、なにやらきゃっきゃっと嬉しそうに笑っていた。
「こんにちは」と、ジローは女の子に話しかけた。「お嬢ちゃんは、この辺に住んでるのかい」
 橋の上に下りて振り返った女の子は、ジローの顔を怪訝そうに見て、小さく首を振った。
 と、チチッ……と鳥の鳴き声がしたかと思うと、女の子の頬をくすぐるように、青い翼のカワセミがひらりと飛んできた。
 怪訝そうな顔をしていた女の子は、頬に触れた翼のくすぐったさに首をすくめ、嬉しそうに、きゃっきゃっと声を上げながら、飛び交うカワセミから身をかわしていた。
 女の子をからかっていたカワセミが器用に肩に止まると、ようやく落ち着いた女の子は、ジローを見上げて言った。

「ううん。わからない」

「おまえ、どこから来たの」と、マコトが言うと、女の子は「――」と、大きく首を振った。「ケイコ姉ちゃん。なんて、知らないよね」
 マコトの質問に目を白黒させている女の子を見ながら、ジローが驚いたように言った。
「――マコト、なにか思い出したのか」
「うん」と、マコトは嬉しそうに言った。「ラジオを聞きながら歩いていたからかもしれないけど、確かぼくには、ケイコお姉ちゃんがいたと思うんだ」
「よかったじゃないか」と、ジローは言った。「この子のことは、見覚えはないかい」
「――」と、マコトは首を振った。「なんとなく、ケイコお姉ちゃんと見た目は似てるんだけど、ぼくより年下だし、やっぱり違ってた」

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王様の扉(33)【3章】

2023-11-12 00:00:00 | 「王様の扉」

         3 迷子
 マルコと別れ、ジローはマコトと一緒に“希望の町”を目指して歩いていた。
 まっすぐに伸びた道は、その幅だけ焦げ茶色の地面がむき出しで、遠くに聳える山に向かって延々と続いていた。
 町長のメルクは、峠を越えた先に町があると言っていたが、高台にさしかかった所でジローが足を止めると、見上げるほど高い山々が、波のように幾重にも重なり合っているのが見えた。

 ――あの先まで進まなければ、“希望の町”にたどり着けないのか……。

 と、頑張って後ろに着いてきているマコトを見ながら、ついつい不安が頭をよぎった。

 ――小さな子供には、無理な行程ではないか。

 しかし、そんな心配は無用だった。
 “あこがれの町”を出て、しばらくは誰ともすれ違わなかったが、ややしばらく進むと、ちらほらと旅人らしい人の姿を見かけるようになった。
 二人の方に向かってくる人もいれば、どこからか来て、またどこか違った道を進んでいく人もいた。なにやら重たそうな荷物を背負っている人も、なにも持っていない人もいた。
 面白いことに、着ている服もまちまちだった。指先まで隠れるほど、袖の長いもこもことした厚いコートを着た人もいれば、涼しげなシャツのボタンを胸まで外し、短いズボンを履いている人もいた。
 その理由は、すぐにわかった。空の青さは変わらなくとも、道なりに通りかかる景色は、遠くも近くも飽きないほど変化に富み、見た目と同じく、暖かくも涼しくも、心地が良いほど絶えず変化していた。
 ゆったりとした上り下りさえしのげれば、子供の足でも楽々と、旅の道のりを刻んでいくことができた。
 どのくらいの時間が過ぎたのか。空は燦々とまぶしく、あいかわらず青いままだったが、峠道を登り始める前に、どこかで休憩をしつつ、腹ごしらえもしておきたかった。
 ジローは周囲に目をこらしつつ、食べ物を分けてくれそうな集落がないか、注意をしながら歩いていた。マコトは、これまで何度か立ち止まったりはしたものの、ずっと歩き続けで心配だったが、マルコに貰ったラジオを耳にあてながら、ジローの後ろにしっかりと着いてきていた。

「うわーん!」

 と、川の見える場所に差しかかった時だった。道の向こう側から、ベソをかいて走って来る子供の姿があった。
 どうしたんだい――。と、言いかけたジローは、こちらに走ってくる子供の姿を見て、言葉を飲みこんだ。

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