「いやいや」と、おじいさんは首を振った。「似てるけどね、これは電話だよ。この町は時間がごちゃ混ぜになってるもんだから、用事があっても直接出かけることはほとんどなくって、電話でやり取りするんだ。特にこの町の住人なら、大半のことは電話で済ませるんじゃないのかな。今連絡したのは、この町の通りに近い場所に住んでるやつでね。町を出入りする人なら必ず前を通るもんだから、見たことがないか聞いてみたんだよ」
「――時間がばらばらなのに、どうして電話が繋がるの」と、食べ終わったマコトが不思議そうに訊いた。
「それはね。ちょっと難しいんだけれども」と、おじいさんは電話を手にしながら言った。「時間がばらばらで当てにならないのに、電話だけは奇妙に相手と同じ時間を共有できるんだよ」と、おじいさんは顔を上げ、遠くを見るように言った。「どういうわけか一人一人違う時間の中で生活するようになって、そのうち町に流れる時間もごちゃごちゃに混じり合うようになると、人と合うのが難しくなってしまった。同じ年のはずなのに、昨日会った時は子供で、今日会った時は老人だなんて、どうにもやりきれないんだ。だけど、電話でだけは、いつも自分と同じ時間を共有している人と話をすることができるんだよ」
「くわしくはわかりませんが、このラジオも、聞く人の気持ちが通じるみたいなんです」
「ほっほっ……」と、おじいさんは嬉しそうな笑顔を見せた。「風博士のラジオだろ。放送を捕らえる風車を作るのが難しくて、この町じゃあまり持っている人はいないなぁ。十七号君の言うとおり、たしかに電話と似ているかもしれないな」と、おじいさんは言った。
「ただ、銀河放送は多くの人に向けて語りかけているから、じっくりと話し合うことはできないんだ」
「じゃあ、この放送は信用してもいいんでしょうか?」と、ジローは訊いた。
「――大丈夫だってば」と、ポケットを守るように押さえながら、マコトは怒ったように言った。「このラジオは嘘なんか言わないよ」
「ほっほっ……」と、おじいさんは笑いながら肩をすくめて見せた。「放送の多くは情報だからね。いい物も悪い物もそりゃあるさ。聞く人の思いが正しければ、ラジオはきっと君達を助けてくれるよ。ラジオを聞いていたこの町の人達も、時間がばらばらでつかみ所のない中での生活をあきらめて、次第に町から出て行くようになったんだから」
と、おじいさんはなにかを思い出したのか、手にした電話を耳に当てると、また誰かと話し始めた。
「――ふむふむ。そうかい。ふむふむ。ほほう。そうだったのか。じゃあ、このまま町に向かえばいいんだね。わかった。――気が向けば聞くさ。それじゃ、放送でな……」
ジロー達は、おじいさんが電話で話をしているあいだ、邪魔をしないようにじっと口を閉じて聞いていた。
「残念だがな」と、おじいさんは電話を置くと、ジロー達を見て、気の毒そうに言った。「残念だが、サオリちゃんの父親は見あたらないそうだ」
と、おじいさんは言葉を途切り、すぐにまた話し始めた。
「サオリちゃんを探しに父親が来るようなら、わしがここでサオリちゃんを預かってもよかったんだが、どうやらこの子も、君達と同じ“迷い人”らしい」