「疲れたんだろうね――」
と、サオリを抱きとめたグレイは言った。
「びっくりしたぁ。誰も手を繋いでいなかったから、危なかったよ」と、マコトはほっとしたように言った。
「すまないな、グレイ」と、ジローが言うと、グレイはサオリをそっと背中に担いで言った。「十七号は宿を探してくれているから、サオリはぼくに任せておいて」
「――ああ。悪いけど、頼むよ」と、ジローは言うと、サオリの背中に止まっているアオも、キキッと、なにか励ますような声で言った。
宿屋を探しながら歩いていると、にぎやかな通りから少しはずれた所に、一軒の宿屋を見つけた。
二階建ての宿屋は、『まんぷく亭』と書かれた看板を掲げていた。外から見る限り、それまで空き部屋があるか尋ねた宿屋と、同じたたずまいをしていた。宿泊を断られた宿屋と同じく、追い出されてしまうのではないか、宿屋のドアを開ける前から、ついついそんな不安を抱いてしまいそうだった。
「ちょっと待っててくれ」と、ジローは一人、宿屋のドアを開けて、中に入っていった。
――――
ドアを抜けると、正面に受付のカウンターがあった。誰の姿も見えなかったが、
「すみません。部屋は空いてるでしょうか」
と、ジローが言うと、ふっくらとしたおかみさんが、カウンターの奥の部屋から顔を出した。
「はいはい、ご用ですか――」
「今晩、泊まりたいんですが、部屋は空いているでしょうか」と、ジローは言った。
「あら、お兄ちゃん一人だけかい?」と、おかみさんは言った。「部屋なら空いてるけど、おとぎ話の青騎士を見に来たんなら、期待はずれなだけだよ」
「――」と、ジローは首を傾げた。
「あら。そういんじゃないのかい」と、おかみさんは言って、ジローの顔をまじまじと覗きこんだ。「もう、ずいぶん前だったような気もするけど、子供の迷い人と手品師が家に泊まったことがあってね。言い伝えや昔話に出て来る青騎士の本物が現れて、大騒ぎになったことがあるんだ。――ここいらじゃあんまり見かけない服を着てるし、ひょっとしたら恐い物見たさで部屋を借りに来たのかと思ったよ」
「五人。いや、四人で旅をしています」と、ジローは言った。「王様の城に向かっている途中です」