「待て!」
と、ジローも必死で追いかけたが、マコト達を二人きりで残しておく訳にもいかず、あきらめて引き返すことにした。
「どうだった?」
と、戻って来たジローにマコトは訊いた。
「――」と、ジローは残念そうに首を振った。「逃げられたよ」
“ごめんってば”
はっとして、三人は声の聞こえた方を向いた。肩をすくめたサオリは、マコトの手を離してジローの後ろに身を隠した。
見ていると、森の奥、猿に似た影が逃げていった方角から、誰かがこちらに向かって近づいてきているようだった。
「――なんだろう」と、マコトが木の幹を背に、不安そうに言った。
「痛い、痛いよ――。もう叩くのはやめてってば――」
やって来たのは、けして綺麗とは言えない、古びた服を着た少年だった。頭を守るように腕で支えた少年は、なにかにしつこく追いかけられているようだった。
「あっ、青だ――」と、サオリは少年の後ろを飛んでいるカワセミの姿を見つけて、嬉しそうに言った。
「アオ?」と、同じくカワセミの姿を見つけて、ジローは考えるように言った。
「助けてっ」
と、ぼさぼさの髪をした少年は、ジロー達の所に駆けこむと、三人が背にしている太い木の根元に屈みこんで、「お願い、やめて……」と、繰り返した。
「――おい、もう大丈夫だぞ」
ジローの声にこわごわ顔を上げた少年は、震える声で言った。
「もう、棒でぶったりしないよね」
「誰も、そんなひどいことなんかしないさ」と、ジローは言ったが、少年の目は、サオリの肩に止まっているカワセミを向いているようだった。
「――わかった。もう叩かれるのはごめんだからね」と、少年はうなずくと、すっくと立ちあがって言った。「ぼくは、グレイです。どうしてここにいるのか、わかりません。できれば、帰り道を探すのを手伝ってください」