くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(20)

2023-11-05 00:00:00 | 「王様の扉」

 王様の“夢の扉”に話しかけていたパフル大臣が振り向くと、赤い顔をしたガッチがさらに顔を赤くして、元どおりになった王様の扉の取っ手をつかみ、なんとか開けようとしていた。

「――こらっ、ガッチ。よさんか」

 と、パフル大臣があわてたように言った。
「なにをしておる、ガッチ。不用意に扉を開ければ、どこに飛んでいってしまうか、わかったもんではないぞ」
「閉じた扉を開けてみなけりゃ、向こうになにがあるのか、てんでわかったもんじゃないだろ」と、ガッチが息を切らせて言った。
「まったく――」と、パフル大臣が王様の“夢の扉”から離れると、夢の扉の奥から、

「ガオウーッ」

 と、獣の鳴き声が聞こえた。
「――すみません、大臣」と、マジリックがハット帽を手に申し訳なさそうに言った。「目を離した隙に、助手のレイラさんが扉の奥に入っていってしまいました」
「なんだって?」と、パフル大臣は驚いたように言った。「さっきまでおとなしくしておったろうが」
「大変だ」と、又三郎は王様の“夢の扉”に近づくと、扉に耳をあてがって中の様子をうかがった。
「ガオウーッ」という鳴き声が、扉のすぐ裏側から聞こえてくるようだった。

「どうやら、遠くには飛ばされていないみたいです」

 と、又三郎は大臣に言った。
「いつの間に入りこんだのか……捜索隊を派遣しなければならないな」と、大臣は考えるように言った。
「いえいえ大臣」と、マジリックはパフル大臣に言った。「彼女は私の助手です。手品を披露する舞台でも、なにか予期せぬ失敗があった場合の対処法は、いつも確認し合っています」
「――で、どうするのじゃ」と、パフル大臣は頭を掻き掻き言った。
「私が扉の向こうに入ります」と、マジリックは胸を張って言った。
「――」と、大臣は一瞬考えたが、すぐに「それはできぬ」と、首を振った。
「私の腰にロープを巻きつけていれば、不測の事態になっても扉に飲みこまれることはないはずです」と、マジリックは真剣な表情で言った。
「ふむ。捜索隊なら、そのようにして扉の中に入っていくがな」と、大臣は困ったように言った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

王様の扉(19)

2023-11-05 00:00:00 | 「王様の扉」

「うむ。なにか言っているようじゃな」
「ほんとかよ――」
 と、ガッチも大臣の後に続いて、耳を澄ませた。「おい、コイツなんかしゃべってるぞ」
「少し音が小さすぎましたね」と、マジリックが見えないつまみをひねるような動きをすると、

 ガガガガ、ガガガ――……。

 と、壊れたラジオのような耳障りな音が聞こえ、しかしその音は、すぐに言葉に変わった。

「たいへんだ。はやく、はやくたすけなきゃ。たいへんだ。はやく、はやく」……。

 王様の“夢の扉”は、抑揚のない調子の言葉を繰り返していた。
「この扉は、話ができるのか?」と、パフル大臣は困ったように言った。「おまえのイタズラ、ではないだろうな」
 じろり、と大臣に睨まれたマジリックは、降参したように両手を挙げて「いえ、いえ」と、首を振った。 
 「さきほど王様の“夢の扉”を間近で見た時、なにかささやき声のような、かすかな吐息にも似た音を聞いたんです」と、マジリックは言った。「もしやと思いましたが、この扉は、自分の意志を言葉で伝えるだけじゃなく、受け答えもできそうですね」
「王様の“夢の扉”に、まさかそんなことができるとは、思ってもいなかったわい」と、パフル大臣が言った。「どこからか落ちてきた王様の扉は、どうじゃ」
「同じように、私達にも声が聞こえるようにしたんですが――」と、マジリックは残念そうに言った。「やはり、魔法で元どおりの形に戻すだけでは、この王様の扉の能力を引き出すことはできなかったようですね」
「――残念です。この扉から事情を聞ければ、くわしい経緯がわかったかもしれなかったんですが」と、又三郎が悔しそうに言った。
「まぁ後は、王様の扉から、向こうに行けるかどうか、でしょうね」と、マジリックは言った。「扉の向こうがどこであるかはわかりませんが、なにかよからぬ事件が起こっているのだけは、間違いなさそうですね」

「扉よ、おまえはなにか知らぬか? 王様の扉が落ちてきたのは、どうしてか知ってはおらぬか」と、パフル大臣は王様の“夢の扉”に話しかけた。

 しかし、扉は「たいへんだ。はやく、はやくたすけなきゃ。たいへんだ。はやく、はやく」と、繰り返すばかりだった。
「――だめだ。こいつ、おれ様の力でもびくともしないぜ」と、ガッチは力のこもった声で言った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする