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先月の7日に今年も武蔵野美術大学のテキスタイル,工芸工業デザイン科の3年生の学生に「紬織りと着物」をテーマに特別講義をしてきました。
この日、朝は雨が降っていまして、また少し遅くなってしまい、着物ではなく洋服で行こうかと、チラッと頭をかすめたのですが、多少遅くなっても普段着の着物姿を見る機会のない学生たちに見てもらうためにもやはり着物が良いと思い、着て出かけました。
案の定と申しましょうか、教務補佐をしている若い方が、私がこの日着ていた薩摩絣の着物が「綺麗!」と言ってたくさん写真を撮ってくださいました。修業を終えたあとの30年程前に、母からお金を借りて買った着物です。
なめらかな絹のような木綿の着物です。古びていないので、30年前のものと思えないということも言われたのですが、質の良い着物は古びないのですね。
帯は太い真綿引き出し糸(もう引いてくれる人はいないのですが)で織った自作の帯です。均質な着物地にザックリした帯の取合せです。
浴衣は着たことがある学生もいましたが、ほとんどの学生は「紬」を知りませんでした。
大学から、学生の感想と、講義風景の写真が届きましたのでほんの一部ですがご紹介します。
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繭から1本の糸を引き出すために、箒草を使い表面の糸を集め、引き出し始めたところ。
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黒い紙にゆっくりと糸を巻き取ってもらってます。しばし無言「・・・」でしたが、ようやく「美しい・・・」と声が漏れ聞こえてきました。「それが聞きたかったぁ!」と私からもお返し。
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「よ~く糸を見てください」と最初に言ったのですが、目が寄ってますね。。。一人1個ずつ、小さなボウルにお湯と煮た繭が入ってます。
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男子も夢中!
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真綿からも糸を引っ張り出し、太ももで纏めるやり方もしてもらいました。
こちらの方が技量を要します。
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この糸はなんで染めたと思いますか?この窓からも見えてますよ。「・・・」「・・・」
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「この糸の色はどんな風にかんじますか?」「・・・」「・・・」「・・・」
「わかりました・・・私はちょっと休憩しますのでこの場を去ります・・・」
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その直後にこんな光景がありました。^^
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私の紬の着物を、「着たい!」と手を挙げた二人の学生に服の上からですが、手助けしながらですが、自分で着てもらうこともしました。
半幅帯は持っている人が家から用意してくれました
着てみると「軽い!色が綺麗!」と、とても喜んでくれてました。
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最後の締めは畳み方。
省スペースでも畳めて、収納場所も取らず、重ねた着物の重みでアイロン替わりになることなど、着物の合理的な点をアピールしました。
感想もみなさんたくさん書いてくださったのですが、入力が大変ですし、重複している感想も多いので、一部の方のを代表として掲載します。読むのも大変ですね。^^;
若い無垢な方々の感想ですが、この気付きや感想を頭の片隅に留めてもらえたら嬉しいです。
N.S.
繭から糸を引く行為が非常に繊細で、蚕が口から出した自然の形をしていて、本当に美しかったです。
着物は普段の生活から少し離れたものと思っていましたが、案外簡単に着ることが出来て、収納も小さくなり、合理的に作られているんだなと思いました。着物を身近に感じられるようになりました。
先生の“着物は人が着るもの”という言葉が正に真をついていて、絵画的にしないというのはなるほどなと思いました。
とても楽しかったです。
O.M.
生木で染めるということにとても興味を持ちました。市販の植物染料で染めた経験もなくて、手をつけづらかったのですが、自宅の庭木でちょっと染めてみようと思います。
前回の課題で、私は和紙を撚って紙糸をつくってたのですが、、そのとき私も、先生がおっしゃっていたような糸のふぞろいな、不安定な美しさのようなものを実感できました。手でつくられたものものならではのよさはあると思います。
M.M.
真綿から糸をとる作業や繭から糸をとる作業、その糸自体も美しいですが、作業をすることに美しさを感じました。
さくらで様々な色に染まる糸の微妙な染まり方の違いがとてもきれいで、植物染を是非やってみようと思いました。とても興味深く、面白くて楽しかったです。
M.Y.
私は小学生の時に教室で蚕を飼っていたことがありました。その時はもちろん蚕の口から出ているものがそのまま糸になるとは思っていませんでしたし、白くて柔らかくてグロテスクだと思っているだけでしたが、先生が今日仰っていた、糸が真っ直ぐになっていなくて波打っている状態であることが、あの蚕が頭を振って繭を作っている過程でできたものだと知って、驚きました。
私は織りが苦手でテキスタイルの課題でもシルクスクリーンしかやったことがありませんでした。糸とウマが合わないという苦手意識があったので、今回の授業で先生が何回も連呼していた糸の美しさということが、なんとなくわかったような気がしました。
というより、蚕が生きていたその息吹が糸から感じられたのが、新鮮でした。
着物の着付けも、私は美容室に行って着付けもしてもらっていたので、今日の授業を見て、自分で是非着てたたむところまでやってみたいと思いました。単衣物の合理性も改めて知ることができたので、本当に有意義な時間でした。
S.Y.
着物と帯はセットで、着物のデザインをする時は、帯の入る余地を残すという話が印象に残りました。強い主張をして終わるのではなく、バランスを大事にするということ、また桜の染めや着付け~たたみ方までのお話を聴いて、常に無理をしない、逆らわない、自然に素直なままに手を動かすという、とても摂理にそったやり方だと思いました。
本来創作・制作というものは何かから力を得て、するものではないかと思います。その何かは命だったり、自然だったり、感情だったりさまざまで、、そのようなものを大事にしていかなければならないと感じました。
S.Y.
桜で染められた糸の色がとてもきれいでした。草木染には“この色”ということができない色が出てくる魅力があると思いました。私も染めてみたいと思いました。
繭から1本糸を引いていく行為は無心になり、ずっと続けられると思いました。管理された糸でない不揃いさがとてもきれいで、見ても触っても素敵なものだと感じました。
着物はあまり着る機会はありませんが、今日先生やクラスの2人が着ているのを見て、もっと身近にあるものであってもいいなと思いました。
今日は中身の詰まった充実した時間でした。
E.K.
糸がこんなに美しいとは思っていませんでした。繭から出る一本一本は細く白く、すごく魅力的でした。
草木染は今まで一回もやったことがなかったので、全然詳しく知らなかったのですが、桜で染めた糸を見てやってみたいと思いました。
周りにある草・木・花でやってみようと思います。
もっと早く中野先生の講義を聴きたかったです。