日曜日に母ちゃんと一緒に 父ちゃんに会いに行った時
父ちゃんの呼吸が ちょっと苦しそうでした。 でも、オイラ達は もう慣れてしまって
「 父ちゃん、息が大変そうらねぇ、 大丈夫か? 」 とか言う程度で、苦しそうなのは可哀そうだと思いましたが
まだ 持つだろうと 勝手に思っていました。 もう、何度も山を乗り越えてきた父ちゃんでしたからね、
こんな状態の中 反応する場所は まつ毛を触ると まぶたが少しだけ ピクリと動く程度ですので
そろそろ これ以上の山は 越える事は出来ないとは知っていました。
そんな状況なのに この日は オイラ達に動かない身体を動かしていたり 口を開いたり閉じたりしています。
何だか苦しいのとは別に 何か言いたいような感じがします。
母ちゃんが 「 どうしたん? 何か言いたいんかね? でも声も出せんと 可愛そうやなぁ 」
いつもは おちゃらけて 父ちゃんをネタに喋っていた母ちゃんも 少し変だと思ったのか
「 何処も動かせんはずなのに 一生懸命 何か言いたそうにしとるで、 」
オイラもそのように見えます。 それでも少しは元気になったのか 息が大変そうなのにそんな事は無いはずだよな・・・。
とかも思いましたが ここのところ、オイラも母ちゃんも たくさん喋りかけて もう喋るネタも無いほどなので
二人とも やるだけの事はやったと思っています。
この日は 一時間ちょい 父ちゃんに喋って、「 また明日くるからね! 」と言って 施設を後にしました。
この後、オイラは そのままでしたが 母ちゃんは胸騒ぎがしたので この日にもう一度父ちゃんの所に行ったそうです。
そして、その時はオイラが居ないので 誰の邪魔もされずに 出会いから今までの事を 父ちゃんに喋っていたそうです。
「 一時間半くらいやかなぁ、 父ちゃんはちゃんと聞いてくれてたで、途中から父ちゃんも涙流してたで、 」
と、あとで教えてくれました。
翌日 月曜日の朝6時20分頃 仕事前のシャワーを浴びて 頭を洗っていた時に 銭婆が オイラの携帯が鳴っていると言って
携帯を持ってきました。 オイラはピンときて濡れた手で携帯に出ると
「 先程、お父さんの呼吸が止まっているとの連絡が入りまして、ご連絡差し上げたのですが、
先に お母さんに電話しましたが 出られません、どうしましょう、 」 と言ったので
「 あのババア、 最近はいつもタイミングが悪いんですよ! 行って家に置手紙を置いて すぐにそちらに向かいます。 」
オイラはすぐに 準備して コピー用紙に 大きく置手紙を書いて 母ちゃんの家の中に放り込んで そのまま施設に飛んで行きました。
行く道中、 会社に 理由を言って 休ませてくれるようにお願いしました。
7時前でしたが 会社の事務所に人がいてくれて助かりました。
施設に入ると すぐにスタッフの人達も来てくれましたが 喋る余裕はないので 目礼だけして父ちゃんの部屋に入ります。
部屋の中の父ちゃんは 顔に白い布を被せられていて一人で待っていました。
すぐに布をめくりあげて顔を見ると 昨日見た父ちゃんと何も変わらない顔をしてました。
それまではいつも 死んでいるのか生きているのか解らないほど動かないので
被せてあった布を取っても 息耐えているはずですが 気が付くと少し動きだしそうな気がします。
目も開いたまま 天井の隅を見ています。
「 父ちゃん、朝らよ! 早よ 目ぇ覚ませってばっ! どうしたん? 本当に魂が抜けたんか? 起きれ! 」
当然、父ちゃんは目を覚ましてくれませんでした。
いつもみたいに まつ毛をチョンと触っても 何の反応もありません、
「 ほれ、どうした! 一日でいいから生き返れ! 」
肩を揺らすと 首が 揺らした肩と逆方向に揺れます。 今見ているベッドの姿が そのまま何年も続いているので
自分の中では 生と死の分別が解らなくなっています。
不思議なもので 頭の中では 死んでしまったと解っているのに、 オイラの身体の中が死を受け入れていない状況に
自分自身不思議な感覚です。
スタッフから 「 これから死亡診断書を持ってお医者さんが来ますから立ちあって下さい
それから 少し手続き等をしますので ヨロシクお願いします。 」
と言われ 父ちゃんの身体を清めるので 外で少し待って下さい。と言われて 応接室で待たされることになりました。
何だか頭が白くなって 一人では何も解らないと思い、 携帯で銭婆に 来てくれと頼んで来てもらいました。
お寺にも電話して 車を回してくれるように頼みます。
30分程して銭婆が来ると 気持ちも落ち着きます。 何だか少しは安心、
そしたら 母ちゃんから電話がきました。
オイラが 「 こんな時に何やってんだ! 」 と言うと 「 近所に行って朝から草刈りしてたんや! 」と言って、
しばらくすると 母ちゃんもやってきました。
三人揃って少しすると 「 お父さんが整いましたのでいつでもどうぞ 」と言われて
父ちゃんの部屋に行きますと、 浴衣を着せられて 整った父ちゃんが 待っていました。
母ちゃんは 「 父ちゃん! 父ちゃん! はよ起きよ、 」 といっていつもみたいに ホッペタをペチペチ叩いたり
組んだ手を握ったりしてます。 オイラはもう一度 まつ毛をチョンチョンと触ってみましたが当たり前ですが反応しませんでした。
銭婆を含め 他の人達は 父ちゃんを拝んでいましたが その行動が不思議な光景に見えました。
『 何を縁起の悪い事をしているんだろ! 』 と、瞬間的に思いましたが オイラはまだ手を合わせて無い事に気付き
同じく 手を合わせて無い母ちゃんに 「 ウチらはまだ父ちゃんに手を合わせて無かったよ 」
といって、オイラと母ちゃんは初めて父ちゃんに対して 手を合わせました・・・。
「 いい子にしてたらホントにオヤツくれるの? 」
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