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引きこもったわが子と食事ができるように、両親が守った「社会的距離」

2020年07月24日 | うつ・ひきこもり

池上正樹:ジャーナリスト

 DIAMONDonline 2020.7.23 ライフ・社会 「引きこもり」するオトナたち

 4年生のときに大学を中退し、それ以来引きこもり状態になった息子。そんなわが子を焦らず、慌てず、あきらめずに見守り続けてきた両親がいた。今は家族で一緒に食事をできるようになったご両親は、息子に言われて「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」を守ってきた。新型コロナウイルス感染防止の話ではなく、「親の子どもに対する介入の距離感」だ。(ジャーナリスト 池上正樹)

 

より多くの人が再現できる

引きこもり支援とは?

 前回の連載記事『引きこもり生活20年の40代兄が仕事で社会とつながるまで、妹の奮闘記』で、妹が20年以上にわたって引きこもってきた兄へのアウトリーチ(支援対象者への働きかけ)実践記を紹介したところ、引きこもっている本人やその家族らから数多くの反響が寄せられた。

 その妹は、家から出られない兄の心情に配慮し、「就労移行支援事業所のリモートワーク」ともいえる自宅の中で仕事ができる手法を編み出し、兄と社会とのつながりをつくりだした。

 筆者の元には「妹さん、すごい」という感動的な反応が多かった一方で、「家族がここまでやらなければならないのか…」という、ため息のような声も聞かれた。

 より誰にでもできるような、引きこもり支援の手法とはどのようなものか。そして、その手法をどのように共有していけばいいのか。

 筆者が7月16、17日に生出演したNHKの「クローズアップ現代+」と、「ネタドリ!」という2つの番組では、山梨県の精神保健福祉相談員である芦沢茂喜さんが当事者家族を訪問するシーンが紹介されていた。映像の中では、芦沢さんが引きこもる本人に向かって、部屋のドア越しに「私はそんなに偉い人ではないし、アドバイスできることもない」「ただ、今、何か困り事があるのではないかと思って…」などと、偉ぶらずに声をかけるシーンが印象的だった。

 国は、今年度から32億円の予算を付けて、引きこもっている人の訪問支援の強化に乗り出している。しかし、いろんな事情で引きこもり状態になっている本人からすれば、いきなり見知らぬ人が押しかけてきて、出てくるよう声をかけられること自体、恐怖でしかない。「支援」は、何かしらの暴力性をはらんでいる。

「支援」に評価基準はない。従来は、例えば「半年以内に就労させる」などの数値化されたノルマがあり、支援者側が数値を上げようと焦って先回りして結論を急ぎ、本人を傷つける事態が起きていた。

 しかし、本来の「支援」は、1人1人の中にある傷や恐怖に向き合っていかなければいけない。それには、丁寧なやりとりを通じて本人の意思を1つ1つ確認していく作業が必要で、膨大な時間や手間がかかる。

 評価の基軸はそれぞれが「幸せになる」ことであるはずなのに、それは数値化しにくい。

 山口大学大学院医学系研究科の山根俊恵教授は、月1回の家族心理教育実践編を5グループも開催していて、全国から家族が相談に訪れる。拠点になっているのは、山口県宇部市にあるNPO「ふらっとコミュニティ」で、ひきこもり家族会や居場所なども開設している。

 そんな山根教授が最近、ある父親から嬉しい報告をメールで受け取ったという。家族心理教育に参加している母親の話だ。

両親の息子は、大学を4年生で中退し、引きこもり状態になった。

 息子は部屋からまったく出てこなくなり、生活音もしない。生きているのかどうかも分からない。声をかけても返事がない。何年も顔を見ることができず、母親は毎日食事をドアの前に置いて「お供え」をしている状態だった。

 山根教授は家族心理教育で、少しずつ引きこもった本人が自分で動きだせるように、親の対応や声がけの方法を具体的に伝えた。

 親が不在の時に1階に降りてきた形跡があった段階で「お供え」をやめ、「ごはん用意してあるよ」と声だけかけて、親は部屋から出てこないようにする。そうすると、息子は1階に食事を取りに来るようになった。親がいないときには部屋の扉が開き、犬の散歩を始めた。さらに、足音などの生活音が親にもはっきり聞こえるようになった。

 最近では、親がメモで依頼すると洗濯物の取り込みなどができるようになった。7月に入ると、息子は自ら部屋から出てきて両親と話をするようになった。この日から、親子で食事も一緒にしている。

 山根教授は、母親と出会ってから2年間、一緒に頑張ってきた。焦らず、慌てず、あきらめない。本人が動けるように仕掛けて、積極的に待つ。そうすることによって、少しずつ引きこもっていた息子が変化してきたという。

 7月19日、山根教授の家族心理教育の日曜グループにてこの母親が、顔を合わせることができなかった子どもと食事ができるようになるまでの報告をすると聞き、筆者もオンラインで参加した。

 ある日、父親がリビングに座っていると、息子が突然2階から降りてきて、父親と話をしたのだという。母親は仕事先で不在だったが、父親から「今、息子と話をしている。帰ったら、“ご飯誘ってあげて”」とLINEのメッセージが届いた。予期せぬ出来事だった。

 母親は職場で長い間、自分で書き溜めてきたノートを取り出し、「言ってはいけないこと」や「踏み込んではいけないこと」を復習。落ち着いて臨もうと自分を戒めた。

帰宅すると、息子は普通に話をしてくれた。「抱きついてはいけない」というアドバイスを思い出した。その衝動を抑え、普通に接することの方が大事だと実感した。

 息子はご飯を一緒に食べ、話をしてくれる。家の手伝いもしてくれるようになった。山根教授から、「生きる力を伝える」と教わっていたので、一緒にご飯を作ったり、買い物に行ったり、家の手伝いにも参加してもらっている。

 親子の会話は、長年途切れているとお互いに緊張する。しかし、テーマをつくることによって会話ができるようになった。

 息子からは「ソーシャルディスタンス(社会的距離)を守ってくれ」と言われる。これは、新型コロナウイルス対策の話ではなく、親の介入に対する距離感だ。

 母親は、こう話す。

「山根先生から『出てくることも引きこもることも本人の意思です。強引に扉をこじ開けるのは違う』と言われ、本人が出ようと思うまで待とうと自分でもそう思えたときから変わってきたのかもしれないですね。先生から『大丈夫だ』と言われ続けたことが支えになり、私たち親にもゆとりが生まれたのかもしれない」

 止まっていた時間が、動き出した。

「つらい思いをさせて、悪かったね」

 母親が言葉をかけると、こう息子は答えたという。

「お母さんは、ドアの前で『悪かった』と言っていたけど、『それは違う』と、いつか伝えたいと思っていた。つらかったところに帰るのではなく、前に向かって歩きたいから」

 引きこもり支援は、本人を外に連れ出そうとか変えようとするのではなく、まず疲弊した家族の支えになって寄り添い、本人の状況に応じた対応や声がけなどをサポートしていくことが大切だ。

※この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方、また、「こういうきっかけが欲しい」「こういう情報を知りたい」「こんなことを取材してほしい」といったリクエストがあれば、下記までお寄せください。

Otonahiki@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)

 なお、毎日、当事者の方を中心に数多くのメールを頂いています。本業の合間に返信させて頂くことが難しい状況になっておりますが、メールにはすべて目を通させて頂いています。また、いきなり記事の感想を書かれる方もいらっしゃるのですが、どの記事を読んでの感想なのか、タイトルも明記してくださると助かります。


今夜8時、全国花火大会。1分半ほどの短いものらしい。3密を避け場所等は不詳。

今日もお散歩中止。
歩こうと100mほど進んだところで膝に違和感。戻ってきました。

朝収穫して井戸水で冷やしたスイカ。やっぱり夏はこれでしょ!