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相次ぐ引き出し屋の被害(上)ひきこもり自立支援施設の手法は拉致・監禁、元生徒7人が初の集団提訴へ

2020年10月26日 | うつ・ひきこもり

加藤順子:フォトジャーナリスト、気象予報士

 News&Analysis   2020.10.25 

    ひきこもりや無職等の状態にある人の自立支援施設を運営する団体とそのスタッフに対し、今月28日、関東在住の元生徒7人が集団で提訴する。7人は、ある日突然、自室に現れたスタッフらに、ひきこもりや無職等の状態であることを理由に、施設で自立支援を受けるよう迫られ、「強引に連れ出され、抑圧された生活を強いられた」などと主張している。(ジャーナリスト 加藤順子)

 

ひきこもりや無職等の状態を理由に

寮に連れ出された7人が集団提訴

 ひきこもりや無職等の状態にある人の自立支援施設として知られる「ワンステップスクール(以下、ワンステ)」を運営する、一般社団法人若者教育支援センター(東京都港区、広岡政幸代表理事)とそのスタッフに対し、今月28日、関東在住の元生徒7人が集団で提訴する。

 広岡代表の著書によれば、同校は2008年設立で、神奈川県中井町や静岡県御殿場市に主な拠点を構える。元生徒7人は、ある日突然、自室に現れたスタッフらに、ひきこもりや無職等の状態であることを理由に、同社の施設で自立支援を受けるよう迫られ、「強引に連れ出され、抑圧された生活を強いられた」などと主張している。

 集団提訴に踏み切る元生徒7人は、関東在住の20〜40代の男性。入寮は17〜19年とバラつきがあり、サポート期間も、最短で3週間あまり、最長で2年2カ月と幅がある。

 同センターは「ピック」と称し、家族の依頼を受けた数名の男性スタッフが支援対象者本人を予告なしにいきなり訪れ、そのまま寮に連れ出す手法を用いる。このため、俗に「引き出し屋」などとも呼ばれている。

 元生徒7人のピック場所は、東北地方から沖縄本土にわたり、同センターの活動範囲の広さを物語る。そのうち5人は、17年11月から19年12月までに中井町の湘南校からそれぞれ脱走し、福祉施設に保護された経緯がある。また、サポート期間中に、湘南校から神奈川県内の精神科病院に医療保護入院をさせられた30代男性もいる。

筆者は広岡代表に対し、意に反して連れ出すピックや、自由を奪って生活を強いる支援に関する違法性の認識について問い合わせたが、23日(金)17時の期限までに回答を得られなかった。同代表はこれまでも、本人の意に沿わない引き出し行為について、自著やメディア各社取材で繰り返し否定しており、訴訟の争点の1つになるとみられる。

 同様の支援手法を用いる業者は各地に存在するが、なかでもワンステは、突出して被害を訴える元生徒の数が多い。ある日突然のピックのみならず、主な拠点である湘南校や、職業訓練校である御殿場校での寮生活やプログラムについても、元生徒たちから批判の声が上がっている。

 代理人の一人である徳田暁弁護士(神奈川県弁護士会)は、「声を上げられずにいる被害者が他にもたくさんいるはず」とみて、提訴翌日の29日には、専用ダイヤルを設置し、被害情報を集める予定だ。

代表のカリスマ化と市議選出馬に

危機感を募らせる被害者たち

 広岡代表は今年2月、拠点のある御殿場市の市議会議員選挙に無所属で出馬した。当選には至らなかったが、わずか7票差の次点という結果に、ワンステに対する強い被害感情を持つ元生徒たちの間では大きな衝撃が広がっている。

「選挙の結果に、恐怖を覚えました。彼が、表向きの支援の良い部分だけを語って市民の代表に選ばれてしまうことは、とても危険なことです。ワンステで実際に何が行われてきたのか、その違法性を知ってもらうためにも、やっぱり訴訟をしなければと思ったんです」(30代被害者)

 広岡代表は、17年春に自著を出版したほか、インターネット上でも法人サイトとは別に、個人サイトの運営や動画チャンネルの開設、SNSの個人ページ開設などセルフプロデュースに余念がない。

 そんな発信力のある同代表の、若く、熱意のある支援者としての姿は、メディア各社がこぞって好意的に取り上げ、「ひきこもり」に関する凄腕の解決人のように扱ってきた。

 しかし、ここ数年は同センターの支援手法に対し、広く疑問の目が向けられるようにもなってきた。きっかけは、16年3月21日に「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系列)で放送された激しいピックの様子だった。

広岡氏が、長年ひきこもり続ける40代当事者の部屋のドアを素手で叩き壊し、「降りてこい!」などと怒号を浴びせた上、抵抗を続ける本人を7時間にわたる「説得」で追い込む。こうしたシーンが放送されると、Twitter等で「暴力的だ」などと炎上したのだ。

 翌4月には、『社会的ひきこもり』等の著作のある精神科医の斎藤環氏が、ひきこもり経験者や研究者、ジャーナリストと共に会見。「『支援という名の暴力』を好意的に報道するのは人権意識が欠けている」などと、放送内容を批判する事態にまで発展した。

 批判を受けた広岡氏は、粗暴な振る舞いがあったとして、謝罪の意を公表したものの、TVタックル問題のほとぼりが冷めた翌年の17年7月頃から、再び、テレビメディアに取り上げられるようになった。いずれの番組も、ひきこもる当事者を「家庭に迷惑を及ぼす存在」として批判的に見せる一方で、同センターや広岡代表の活動を好意的に扱った。そして、ひきこもる人々を無理やり引き出すかたちでの支援のリスクに触れることはなかった。

 19年に立て続けに起きた「川崎市登戸通り魔事件」や元農水省事務次官が長男を殺害した「練馬事件」では、メディアの報道が「ひきこもり」を巡って過熱。その際も、ワンステの特集を組み、広岡氏をスタジオゲストに呼んで「ひきこもり」にまつわる社会的課題について解説させた情報番組もあった。

 こうしたメディアの風潮や広岡代表の政治活動に、訴訟に参加する被害者の一人はこう危機感を募らせる。

「テレビで報道されるワンステと、施設内で行われていることは印象が全く異なります。ワンステは広岡さんの出世の装置で、僕たちは、そのための道具にされているだけな気がする」

引き出し業者の介入で

決定的に悪化した家族関係

 広岡代表は自著の中で、ピックした人々を施設で集団生活させる目的について、「親子関係の修復」と述べている。ところが皮肉なことに、全く逆の結果に至る例も少なくない。

今回、集団提訴を決意した7人のうち、2人が過剰な介入を止めるために親に対して調停を申し立てた。調停に至らなくても、親子関係が断絶したり、やりとりはできても非難の応酬になり、対話の端緒がつかめなくなったりするなど、ピック以前に比べて、関係性がさらにこじれた親子が複数組いる。

「つい最近の調停では、母親が『戻ってきて』と言ったのに、過度な干渉を嫌った子の側が受け入れず、『手紙だけは受け取るが、返事も連絡もしない』という結果になってしまいました」(20代男性の調停代理人)

 いわゆる引き出し業者による被害を訴える人たちは、時に「拉致」「誘拐」「だまし討ち」「収容所」「人権侵害」といった表現を使う。突然の連れ出しや、監禁・軟禁・監視下での生活がトラウマとなり、施設脱出後もフラッシュバックや悪夢に苦しんだり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)で働けなくなったりした人も少なくない。

 広岡氏は自著の中で、予告なく本人を訪れ、同センターの支援を受け入れるまで「説得」することを「訪問支援」と称し、その日のうちに寮に入れることを、「保護」だと主張する。

 契約した親たちも、「自分は悪くない」といった思いを抱きがちで、ワンステの介入によってわが子との関係がたとえ深刻化したとしても、なぜか広岡氏を「恩人」と捉える向きがある。

 一方で、ワンステの一連の強引な支援を「被害」と認識する生徒たちは多く、その間には認識の深い溝が存在する。

 多数のワンステの元生徒や複数の元スタッフの話によると、提訴する7人が暮らした湘南校には、施設の内部に監視カメラやセンサー付き警報機が多数取り付けられているという。一切の金銭や身分証、通信手段を取り上げられたまま寮生活が始まり、働く先の選定や自立のタイミングまで、スタッフの指示や親の意向に従わなければならない。スタッフに逆らったり脱走が見つかったりしたら、「考査部屋」での内省生活という「罰」を受けることや、精神科病院に医療保護入院させられることもあるという。

 生徒たちの中に強い被害感情が生まれるのは、このような、非自律的で、一人一人の尊厳が守られているとは言い難い手法を、ワンステが「支援」として用いているからだ。その支援がうまく当てはまり、精神的・経済的の両面で自立を果たしていく人もいるが、「被害」の声が出続ける現実を見逃すわけにはいかない。


なめこ?